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PerplexityがGoogleのChrome買収に345億ドル提示、AI検索競争の新局面

[更新]2025年8月13日18:32

PerplexityがGoogleのChrome買収に345億ドル提示、AI検索競争の新局面 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年8月12日、AI検索企業PerplexityはGoogleに対し、Chromeと関連オープンソースプロジェクトChromiumの買収を約345億ドルで提案した。

Perplexityの評価額は約180億ドルで、資金は非公開億ベンチャーキャピタルが拠出予定である。同社はChromiumベースのブラウザCometを7月に発表している。米地裁のAmit Mehta判事は2024年にGoogleの検索独占を違法と判断し、8月末までに救済策を決定予定であり、Chrome分離も検討されている。

Chromeの世界シェアは67.9%で約38億人の利用者がいる。OpenAIは売却時の買収意向や独自ブラウザ計画を示している。Microsoftは2023年にBingへAIを導入したが市場シェアの大勢は変わっていない。業界では各社がブラウザへの生成AI導入を進めている。

From: 文献リンクPerplexity takes a shine to Chrome, offers Google $34.5 billion

【編集部解説】

AI検索スタートアップのPerplexityが、GoogleのChromeとChromiumの取得に向けて345億ドルの買収提案を行った件は、単なる話題づくりではなく、救済策次第で「ブラウザ=検索の分配インフラ」を組み替える現実的なシナリオに接続しています。

米司法省の検索独占訴訟は救済判決が8月見込みで、Chromeの分離(divestiture)が具体的に俎上に載っており、技術・運用両面で実現可能との第三者分析も出ています。現時点でGoogleは売却の意思を示しておらず、提案は非公開VCの資金拠出を前提にした全額現金案として各社が報じています。

今回の報道で混線しやすい点は三つあります。第一に、提案金額の「345億ドル」は各主要媒体で整合しており、企業評価額(180億ドル前後)のおよそ2倍という相対比も一貫しています。第二に、「強制分離の可能性」は仮説ではなく、救済オプションの一つとして政府側が提示し、審理で正面から議論された論点です。第三に、「買収後の方針(Chromium継続、投資コミット等)」は一部メディアが上積み情報として伝えていますが、一次ソースの明確さが媒体でばらつくため、解釈の飛躍には注意が必要です。

技術的・運用的に見ると、Chromeの分離は「コード移管」だけでは不十分で、ビルド/テスト/リリースのパイプライン、セキュリティアップデート体制、拡張機能エコシステムの互換維持、ユーザー移行、そしてデフォルト検索の設定・配分契約といった多層の移行設計が要ります。ProMarketやKGIの分析では、過去の大型事業売却における人的移管の前例や、Chromiumコミュニティの成熟を根拠に「実装可能」との評価が提示されています。一方で、Googleの製品群(アカウント、同期、セーフブラウジング等)への深い結合をどこまで切り出せるかは、移行の摩擦要因になり得ます。

産業構造への影響は大きく二方向です。ひとつは「配信チャネルとしてのブラウザ」の再編で、Chromeの行方が検索トラフィック配分とデフォルト設定の経済を揺さぶります。もうひとつは「AIネイティブ・ブラウジング」への移行で、Perplexityが2025年7月9日に発表したCometのように、サイドバーの常駐エージェントがタスク自動化や要約、ページ操作まで担う設計が主流化する可能性があります。CometはChromiumベースで拡張互換を確保しつつ、AIをUIの表層ではなくワークフローの中核に据える実装を打ち出しています。

規制の観点では、救済判決がChromeの扱いをどう設計するかが焦点です。政府側はChrome分離で検索と配信の結び付きを断ち、市場参入の障壁を下げる狙いを示し、買い手の資格要件(Chromiumへの投資計画、データ保護方針など)にも踏み込んでいます。同時に、Googleによる控訴や、デフォルト検索の取扱い(独占的支払いの是非)も投資家の主要な関心事で、判決シナリオの幅はなお広い状況です。

何ができるようになるのかという技術面の射程で言えば、AIエージェントが「from navigation to cognition(探索から認知へ)」と位置付ける体験――メールやカレンダー、動画、ドキュメントの横断理解と行動化――を、ブラウザがOS的に統合する設計が加速します。拡張互換を保ったまま、ローカル処理とクラウドAPIをタスクに応じて切り替えるハイブリッド実装は、パフォーマンスとプライバシーの両立に現実解を提示しています。

ポジティブな側面としては、検索・広告の単一路線に偏っていた価値分配が再編され、ユーザー体験の多様化や開発者エコシステムの活性化が見込まれます。潜在的リスクとしては、デフォルト設定の再交渉に伴う「新たな囲い込み」や、AIエージェントによる誤導・依存、プライバシーとデータ共有の線引き、そしてブラウザのセキュリティサイクルの遅延などが挙がります。

最後に、このニュースを「なぜ今、未来を報じる視点で扱うのか」。理由は三つです。救済判決という制度面の分水嶺が目前にあること、AIネイティブのブラウジング体験がプロダクトとして出揃い始めたこと、そしてChromeという最大の配信チャネルの帰趨がAI検索の分配と規制アーキテクチャの設計を直撃するからです。結果次第で、検索の入り口は「リンクの一覧」から「課題に対する行動」のUIに書き換わります。私たちはこの転位点を、技術・制度・経済の三面から継続的に追います。

【用語解説】

強制分離(forced divestiture)
競争法上の救済として、特定事業や資産の売却を企業に義務付ける措置のこと。

救済(remedy)
違法と認定された独占的行為に対して、市場競争を回復するために裁判所が命じる措置全般を指す用語。

Chromium(クロミウム)
Google主導のオープンソースWebブラウザ基盤で、ChromeやMicrosoft Edgeなど多数のブラウザのエンジンとして使われる。

AI Overviews(エーアイ・オーバービューズ)
Google検索に統合されたAIによる要約表示機能の通称。

デフォルト検索エンジン
ブラウザの初期設定として指定される検索サービス。多額の配分契約が結ばれることが多い。

Bench trial(ベンチ裁判)
陪審を用いず、裁判官のみが審理・判断する形式の裁判。

アドテック(adtech)
デジタル広告配信や効果測定を支える技術および市場の総称。

【参考リンク】

Perplexity AI(外部)
生成AIを用いた回答特化型の検索サービスを提供する企業

Comet – Perplexityのブラウザ(外部)
ChromiumベースのAIブラウザ。要約やエージェント機能を備える

Google(外部)
検索、Chrome、Androidなどを展開するテクノロジー企業

Chromium プロジェクト(外部)
Chromeの基盤となるオープンソースブラウザプロジェクト

StatCounter(外部)
ブラウザや検索エンジンの市場シェア統計を提供するサイト

DataReportal(外部)
世界のインターネット利用者数などの統計を提供

米司法省 競争局(外部)
反トラスト法の執行を担う米国政府機関

【参考記事】

Perplexity launches Comet, an AI-powered web browser(外部)
2025年7月9日のComet発表の詳細とAIエージェント機能を解説

AI Startup Perplexity Valued at $18 Billion With New Funding(外部)
Perplexityが180億ドル評価額に到達した資金調達の経緯

Perplexity AI achieves $18bn valuation with new funding(外部)
評価額推移とCometによるGoogle対抗戦略の詳細分析

It’s Time To Imagine Chrome Without Google(外部)
Chrome分離の技術的実現可能性と買い手の資格要件を検証

New DOJ proposal still calls for Google to divest Chrome(外部)
司法省の最終提案でChrome分離継続とデフォルト検索の規制

The Justice Department and Google battle over how to fix a search monopoly(外部)
4月21日開始の救済審理と8月判決予定の詳細

4 Details That Could Complicate Chrome’s Forced $50B Sale(外部)
Chrome分離の技術的課題とセキュリティ、互換性リスクを詳述

【編集部後記】

今回のPerplexityによる345億ドルのChrome買収提案は、単なるビジネスニュースを超えて、私たちの日常的なインターネット体験がどう変わるかを示唆する重要な転換点だと感じています。

特に興味深いのは、この提案のタイミングです。米司法省の救済判決を8月末に控え、AI検索企業が「もしも」のシナリオに備えて具体的な行動を起こしている点は、業界の緊張感を物語っています。

私たちinnovaTopiaとしては、この動きを技術革新の観点から注目しています。CometブラウザのようなAIネイティブな体験が主流になれば、「検索する」という行為そのものが「対話して解決する」に変わる可能性があります。それは検索エンジンの在り方だけでなく、情報との向き合い方、ひいては学習や思考のプロセス自体を変えるかもしれません。

一方で、ブラウザという最も身近なツールの所有者が変わることの影響も軽視できません。プライバシー、セキュリティ、そしてオープンな開発環境の維持など、技術的な課題も山積しています。

読者のみなさんは、AIがより深く統合されたブラウジング体験をどう感じられるでしょうか。便利さと引き換えに失うものはないのか、新しい可能性にどんな期待を抱かれるのか。ぜひ皆さんの率直な意見や体験を、私たちと共有していただければと思います。

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TaTsu
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