Suno AI音楽でimoliver史上初のレコード契約、Hallwood Mediaと7月24日に締結発表

[更新]2025年9月2日14:49

 - innovaTopia - (イノベトピア)

アーティスト名imoliverで活動するオリバー・マッキャン(Oliver McCann)が、AI生成音楽によるレコード契約を締結した。マッキャンの楽曲はすべてAIによって制作され、彼が自作の歌詞を付けている。この種の契約は初めてとされる。この契約は、彼の楽曲がAI音楽生成プラットフォーム「Suno」上で300万回の再生を記録した後に実現した。Associated Pressが報道した。マッキャンは「音楽の才能が全くない。歌えず、楽器も演奏できず、音楽的な背景もない」と述べている。彼はSunoやUdioなどの生成AIソフトウェアを使用している。これらのソフトウェアは実在のアーティストの音楽を使ってAIモデルを訓練している。生成AIソフトウェアの人気拡大により、同様の契約が今後増加すると予想される。AI企業とレコードレーベルは、AIモデル訓練における著作権音楽の使用に関する契約を交渉している。この交渉では、レコード会社側がアーティストへの収益や補償の分配を求めているが、まだ合意には至っていない。

From: 文献リンクA creator just turned his AI music into a record deal

【編集部解説】

2025年7月24日、音楽業界に歴史的な契約が発表されました。37歳の英国人ビジュアルデザイナー、オリバー・マッキャンがアーティスト名imoliverとして、独立系レーベルHallwood MediaとAI生成音楽による初のレコード契約を締結したのです。

マッキャンが使用しているSunoとUdioは、テキストプロンプトから完全な楽曲を生成できる革新的なプラットフォームです。これらのツールは「音楽制作の民主化」を掲げていますが、同時に深刻な著作権問題を抱えています。Sunoは2024年8月の法廷提出書面で、自社モデルが「オープンインターネット上でアクセス可能な合理的品質の音楽ファイルはほぼすべて」を学習に用いた旨を記載し、結果として大手レコード会社の保有音源も含まれていた事実を示唆しました。一方でSunoもUdioも、こうした学習はフェアユースに当たり違法ではないと主張しています。

最も注目すべき点は、この技術によって創造性の定義が根本的に変わりつつあることです。マッキャンは楽器演奏も歌唱もできない一方で、最大100回ものプロンプトの試行錯誤を重ね、自分のビジョンに合う楽曲を生成しています。これは従来の「才能」や「技術」とは異なる新しいスキルセットを示しています。

契約により、マッキャンは包括的なアーティストサービス、マーケティング、プロモーション支援を受けることになります。代表曲「Stone」がSunoプラットフォームで300万再生を記録した後、8月8日に全ストリーミングサービスでリリース予定となり、10月24日にはデビューアルバムの発売も控えています。

音楽業界への影響は多層的です。ストリーミングプラットフォームDeezerの調査によると、日々アップロードされる楽曲の18%がAI生成でありながら、総再生数に占める割合はわずか0.5%に留まっています。しかし、この数値は急激に変化する可能性があります。

Suno CEOミッキー・シュルマンは「これはオリバー、Hallwood、Sunoだけでなく、音楽の未来にとってのマイルストーンです。新しいプラットフォームから生まれる新しいクリエイターが新しい種類のコンテンツを作ることで、音楽の未来がより広大で包括的になることを示しています」とコメントしています。

一方で、規制当局の動きも活発化しています。米国著作権庁が2024年8月に公表した研究(a study)では、「海賊版データセットの故意の使用はフェアユースに不利に働く」との見解が示され、AIによる市場希薄化理論についても議論されています。これにより、AI生成コンテンツが人間のクリエイターのロイヤリティプールを圧迫することも法的問題として認識されています。

長期的な視点では、この事例は創作の本質に関する根本的な問いを投げかけています。技術的な習熟度よりもセンスや企画力が重視される時代において、「アーティスト」の定義はどう変化するのか。そして、人間とAIの協働によって生まれる新しい音楽体験は、聴取者にとってどのような価値を持つのか。これらの問いに対する答えは、今後数年間の業界動向と法的判断によって形作られていくでしょう。

【用語解説】

AI音楽生成: テキストプロンプトから自動的に楽曲を作成する人工知能技術。歌詞、メロディー、楽器演奏を含む完全な楽曲を数分で生成できる。

フェアユース: 米国著作権法における例外規定。教育、批評、パロディなどの目的で著作物を無許可で使用することを一定条件下で認める制度。

音楽デザイナー: AI音楽生成における新しい職業概念。従来の楽器演奏技術ではなく、プロンプト設計やAIツールの操作を通じて音楽を創作する人材。

市場希薄化理論: AI生成コンテンツが既存の人間制作コンテンツの市場価値や収益を薄める効果を法的に問題視する考え方。

RIAA: Recording Industry Association of Americaの略。米国レコード産業協会で、音楽業界の利益保護と著作権侵害対策を行う業界団体。

【参考リンク】

  1. Suno(外部)
    テキストプロンプトから完全な楽曲を生成できるAI音楽作成プラットフォーム。無料版から有料プランまで提供している。
  2. Udio(外部)
    Sunoと並ぶ主要なAI音楽生成サービス。高品質な音楽とボーカルを自動生成できる。
  3. Hallwood Media(外部)
    元Geffen Records社長ニール・ジェイコブソンが設立した独立系音楽会社。レコーディング、マネジメント、配信事業を手掛ける。
  4. Associated Press(外部)
    米国の大手通信社。今回のimoliver契約に関する初期報道を行った信頼性の高いニュースソース。
  5. Billboard(外部)
    音楽業界の権威ある専門誌。チャートランキングや業界ニュースの発信源として世界的に認知されている。

【参考記事】

  1. Hallwood Signs ‘AI Music Designer’ imoliver to Record Deal(外部)
    Billboardによる契約発表の詳細記事。2024年7月24日の契約発表、「Stone」の300万再生記録、8月8日のストリーミングリリース予定、10月24日のアルバム発売予定を報告している。
  2. AI Music Generator Suno Admits It Was Trained on ‘Essentially All Music Files on the Internet’(外部)
    Sunoが法廷文書で「インターネット上でアクセス可能なほぼ全ての合理的品質の音楽ファイル」を学習に使用していることを公式に認めた重要な報道。著作権問題の核心を明らかにした。
  3. Success of AI music creators sparks debate on future of music industry(外部)
    マッキャンが最大100回のプロンプト試行を重ねる創作プロセスや、Deezerの調査による「日々アップロード楽曲の18%がAI生成だが総再生数の0.5%に留まる」という具体的数値を提供。
  4. As Suno and Udio admit training AI with unlicensed music(外部)
    SunoとUdioが著作権侵害訴訟で無許可楽曲の使用を認めた一方、フェアユース抗弁を展開している法廷闘争の詳細を報告。RIAA側の反論も含む包括的な分析。
  5. Suno & Udio Face Copyright Uncertainty(外部)
    米国著作権庁の2024年レポートが示したAI音楽への新たな法的枠組みと、「市場希薄化理論」について詳述。全世界の音楽市場規模296億ドル、ストリーミング市場200億ドルという業界全体の数値も提供。

【編集部後記】

音楽における「才能」について改めて考えさせられました。楽器が弾けないマッキャンがレコード契約を獲得した一方で、何年も練習を重ねてきた音楽家たちが苦労している現実があります。アーティストたちが感じているものも理解ができる反面、「楽器が弾けない」「身体的な事情により音楽ができない」といった人々も立派な音楽ができるようになっていることでもあります。

非常にデリケートな話題ではあるので、今後もアーティストや業界の動向に注視していこうと思います。


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