児童オンライン保護でAI技術革命—Yotiの顔認識とHMD子ども向けスマホが注目集める

[更新]2025年9月2日18:25

児童オンライン保護でAI技術革命—Yotiの顔認識とHMD子ども向けスマホが注目集める - innovaTopia - (イノベトピア)

英国で施行されたオンライン安全法は、テクノロジー企業に児童を年齢不適切な素材、ヘイトスピーチ、いじめ、詐欺、児童性的虐待素材から保護する注意義務を課している。

違反企業はグローバル年間収益の最大10%の罰金を科される可能性がある。米国議会でも子どものオンライン安全法が審議されており、ソーシャルメディアプラットフォームに児童への害を防ぐ責任を負わせる内容だ。

これらの規制により、PornhubやSpotify、Reddit、Xが年齢確認システムを導入した。年齢確認技術企業Yotiは、AIアルゴリズムで13歳から24歳の年齢を2年以内の精度で推定する技術を開発している。同分野にはEntrust、Persona、iProovも参入している。

フィンランドの携帯電話メーカーHMD GlobalはAIを使用して子どもがヌードコンテンツを撮影・共有することを阻止するスマートフォンFusion X1を発売した。この技術は英国のサイバーセキュリティ企業SafeToNetが開発したものである。

From: 文献リンクGlobal movement to protect kids online fuels a wave of AI safety tech

【編集部解説】

今回のニュースは、単なる技術の進歩の話ではありません。むしろ、デジタル社会が直面している深刻な課題に対する、技術と政策が一体となった解決策の動きとして捉える必要があります。

従来の年齢確認は身分証の提示が主流でしたが、オンライン環境ではプライバシーの問題から実用性に限界がありました。しかし、Yotiのような技術は顔認識AIによって、個人情報を大量に収集することなく年齢を推定できるため、この課題を解決する可能性があります。

技術的な側面では、Yotiの顔認識技術は13歳から24歳の年齢を2年以内の精度で推定できるとしており、これは従来の方法と比較して格段に効率的です。ただし、この精度は特定の年齢層に限定されているため、技術の汎用性には課題が残ります。

規制面では、英国のOnline Safety Actは画期的な意味を持ちます。これまで曖昧だった「プラットフォームの責任」を明確化し、違反時の罰金も年間収益の10%という厳格なものです。この規制圧力が技術革新を促進している構図は、GDPRがプライバシー技術の発展を促したのと類似しています。

しかし、この技術革新にはリスクも伴います。顔認識技術によるプライバシー侵害や、技術の誤判定による正当なユーザーの排除といった問題です。また、年齢確認技術が悪用されれば、逆に子どもを特定・標的化する手段にもなりかねません。

HMD GlobalのFusion X1スマートフォンは、ハードウェアレベルでの対策という新しいアプローチを示しています。ソフトウェアによる制限は回避される可能性がありますが、デバイス自体に安全機能が組み込まれることで、より包括的な保護が可能になります。

長期的には、この動きは「デジタル・ネイティブ」世代の子どもたちが安全にテクノロジーと共生するための基盤づくりとして位置づけられます。技術と政策が連携することで、人間の尊厳を尊重しながらデジタル社会の恩恵を享受できる環境の実現が期待されます。

【用語解説】

Online Safety Act:英国が2023年に制定したオンライン安全法で、ソーシャルメディアプラットフォームやウェブサイトに児童保護の義務を課す。違反企業にはグローバル年間収益の最大10%という厳格な罰金が科される世界初の包括的オンライン安全規制法である。

Kids Online Safety Act(KOSA):米国で審議中の法案で、ソーシャルメディアプラットフォームに未成年者への害を防ぐ義務を課す。デザイン仕様から安全性を考慮することを求めており、英国の規制と同様の厳格な内容となっている。

CSAM(Child Sexual Abuse Material):児童性的虐待素材の略称。従来の「児童ポルノ」という表現よりも、児童への害を明確化した専門用語として国際的に使用されている。

年齢保証(Age Assurance):年齢確認よりも幅広い概念で、ユーザーの年齢を推定・確認する技術の総称。身分証確認だけでなく、AI技術を活用した顔認識による年齢推定なども含まれる。

顔認識年齢推定:AIアルゴリズムが顔画像から年齢を推定する技術。従来の身分証確認と比べて、プライバシーを保護しながら迅速な確認が可能だが、精度や偏見の問題も指摘されている。

【参考リンク】

Yoti(外部)
英国発のデジタル身元確認企業。顔認識AIによる年齢確認技術を提供している

HMD Global(外部)
フィンランドの携帯電話会社。子ども向け安全機能搭載Fusion X1を開発

SafeToNet(外部)
英国のサイバーセキュリティ企業。AI技術で子どもを脅威から守る技術を開発

【参考記事】

An Agenda for Ensuring Child Safety in the AI Era(外部)
AI時代における児童安全確保のためのアジェンダを提示した専門報告書

Protecting Children in the Digital Age: How AI impacts child rights(外部)
デジタル時代における児童権利保護とAI技術の影響を分析

Britain’s leading the way protecting children from online predators(外部)
英国政府によるオンライン児童保護政策の発表記事

Data protection and IT security issues with age verification app Yoti(外部)
Yotiのプライバシーとセキュリティ上の課題を技術的観点から検証

【編集部後記】

この技術の波は、私たちの生活にも確実に影響してくるでしょう。すでにSpotifyやRedditなど身近なサービスで年齢確認が導入されているように、今後はより多くのプラットフォームで同様の仕組みに遭遇することになりそうです。
一方で、プライバシーと安全性のバランスをどう取るか、という課題は私たち一人ひとりが考えていく必要があります。
皆さんは、セルフィーによる年齢確認についてどう感じられますか?
便利さと引き換えに、どこまでの個人情報なら提供してもよいと思われるでしょうか?
ぜひSNSで、皆さんの率直な意見をお聞かせください。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

読み込み中…
advertisements
読み込み中…