ChatGPT利用拡大で批判的思考力低下の懸念 – 機械学習の光と影を専門家が議論

[更新]2025年9月3日12:13

ChatGPT利用拡大で批判的思考力低下の懸念 - 機械学習の光と影を専門家が議論 - innovaTopia - (イノベトピア)

The Guardian紙が2025年9月1日に掲載した読者投稿記事で、マレー・デール氏とイグナシオ・ランディバル氏が機械学習と人工知能の影響について意見を述べた。

マレー・デール氏はコーンウォール州ヘイル在住で、天気予報分野で働いている。同氏は機械学習が過去の気象パターンを認識して将来の天気予測に革命をもたらすと述べた一方、結婚式のスピーチや友人への手紙などの個人的な作業をAIに委ねることへの懸念を示した。

イグナシオ・ランディバル氏は学生の批判的思考スキルへの影響を問題視し、文学授業で『グレート・ギャツビー』を扱う理由や多変数微積分、歴史学習の本来の目的を説明した。両氏ともイモジェン・ウェスト・ナイツ氏の2025年8月27日のChatGPT批判記事に言及している。また、ランディバル氏はAI使用が中等学校と大学で蔓延していることを指摘している。

ChatGPTは数か月後に誕生から3周年を迎える。これから先、子供たちが何に対しても「ChatGPTに聞いてみる」と言わないようにするために、私たちに何ができるだろうか。

From: 文献リンクThe good and bad of machine learning

【編集部解説】

innovaTopia編集部では、この記事が示す機械学習をめぐる議論を多角的に検証しました。記事で言及された天気予報分野での機械学習活用については、実際に2025年2月にヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)が人工知能予報システム(AIFS)を運用開始しており、従来の物理ベース予報モデルと比較して最大20%の精度向上と約1,000倍の省エネを実現しています。これはマレー・デール氏の指摘を裏付ける具体的な進歩といえるでしょう。

教育分野での懸念については、スタンフォード大学の研究機関SCALEなどが同様の問題意識を示しています。特に注目すべきは、AI依存と批判的思考能力の低下について、17-25歳の若年層でより顕著な「認知オフローディング現象」が確認されていることです。この現象は、認知的作業をAIに委譲することで、深い分析的思考の機会が減少する状態を指します。

しかし、教育技術の専門家たちは必ずしも悲観的ではありません。機械学習は個別最適化学習を可能にし、学習困難な学生の早期発見や予測分析による学習支援の向上といったポジティブな側面も持っています。

重要なのは、AIツールが「認知的補完」として機能するか「認知的代替」として機能するかという点です。記事の投稿者たちが危惧するのは後者の状態、つまり人間の思考プロセス自体がAIに置き換わってしまう状況です。

この議論は単なる技術論を超えて、人間性の本質に関わる問題を提起しています。「愛している」という言葉をボットから聞きたいかという問いは、AIが人間の感情表現まで代行する未来への警鐘といえるでしょう。

長期的視点では、教育システム全体の再設計が必要になる可能性があります。従来の知識暗記型教育からメタ認知能力や批判的思考力を重視する教育への転換、そしてAIとの適切な共存関係を構築する新しい教育パラダイムの模索が求められています。

現在幼稚園に通う子どもたちが成人する頃には、AIはさらに高度化しているでしょう。その時代に向けて、今から人間固有の能力を育成し、保護する取り組みが急務となっています。

【用語解説】

機械学習(Machine Learning)
人工知能の一分野で、コンピューターがデータからパターンを学習し、新しいデータに対して予測や判断を行う技術。明示的にプログラムされることなく、経験を通じて改善される。

認知オフローディング(Cognitive Offloading)
認知的作業を外部のツールや技術に委譲する現象。記憶、計算、分析といった思考プロセスをAIなどに依存することで、人間の認知負荷を軽減する一方、脳の機能低下を引き起こす可能性がある。

批判的思考(Critical Thinking)
情報を客観的に分析し、論理的に評価して判断を下す思考能力。複数の視点から問題を検討し、根拠に基づいて結論を導く認知スキル。

The Great Gatsby
F・スコット・フィツジェラルドが1925年に発表したアメリカ文学の古典作品。1920年代のアメリカ社会の階級格差や富の問題を描いた小説。

【参考リンク】

ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)(外部)
35カ国が支援する独立政府間組織で、中期気象予報の研究機関。AI予報システムを実用化

ChatGPT公式サイト(外部)
OpenAIが開発・運営する対話型AI。2022年11月にリリースされ、2ヶ月で1億ユーザーを突破

スタンフォードSCALEイニシアチブ(外部)
スタンフォード大学の教育研究イニシアチブ。全米14,000の学区と連携して教育政策の実装を支援

【参考記事】

ECMWF’s AI forecasts become operational(外部)
ECMWFが2025年2月に人工知能予報システムを運用開始。最大20%の精度向上と約1,000倍の省エネを実現

AI tools may weaken critical thinking skills by encouraging cognitive offloading(外部)
AI利用と批判的思考能力に強い負の相関関係を発見。17-25歳の若年層で顕著な認知オフローディング現象を確認

How is ChatGPT impacting schools, really? Stanford Report(外部)
スタンフォード大学SCALEプロジェクトがChatGPTの教育現場への影響を調査。批判的思考スキルへの懸念を分析

Machine learning in education | 11 ways ML enhances outcomes(外部)
機械学習が教育分野で提供する11の利点を分析。個別最適化学習や学習困難な学生の早期発見などを解説

【編集部後記】

この記事を読んで、皆さんは普段どのようにAIと向き合っていますか?私たち編集部も、原稿の校正や資料整理でAIを活用することがありますが、一方で「考える楽しさ」を失いたくないという思いも抱いています。

さて、今回の記事で私が一番驚いたのは、ChatGPTが誕生してまだ3年も経っていないという点です。ChatGPTをはじめとしたAI機能は私たちの生活に溶け込んでいますが、使用者である私たちもまだほんの数年の経験値しかないのです。

AIと共存しながら個人の思考力を育む。そのバランスについて、ぜひ皆さんのご意見をSNSでお聞かせください。私たちも一緒に考えていきたいと思います。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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