AIデータセンターの水使用量が急増している。Lawrence Berkeley National Laboratoryの報告によると、米国データセンターの2023年直接水消費量は約175億ガロンで、2028年までに2倍から4倍に増加する見込みである。
間接水使用量は全体の80%以上を占め、GPT-3で150から300語の文章を生成する際に16.9mlの水を消費する。そのうち直接使用が2.2ml、発電による間接使用が14.7mlとなる。
Bloomberg Newsによると、2022年以降に建設された米国データセンターの約3分の2が高水ストレス地域に立地している。ジョージア州Newton Countyでは、提案されているデータセンターが郡全体の1日使用量を上回る水を要求している。
アリゾナ州では、データセンターの夏季月間水使用量が平均の約2倍になる。米国電力部門は1kWhあたり11.6ガロンの水を取水し、1.2ガロンを消費している。対策として蒸発冷却の代替案、液浸冷却、リサイクル水使用、ゼロウォーター設計などが提案されている。
From: The Real Story on AI’s Water Use–and How to Tackle It
【編集部解説】
今回のIEEE Spectrumの記事は、AIブームの裏に隠れた「水資源への深刻な負荷」という見過ごされがちな問題を浮き彫りにしています。
この問題で特に注目すべきは、「直接使用」と「間接使用」という2つの水消費パターンです。データセンターの冷却に使われる直接使用が目立ちますが、実は発電所での間接使用が全体の80%以上を占めるという構造が重要なポイントになります。
Morgan Stanleyの最新レポートでは、2028年までに全世界のAIデータセンターによる水消費量が1,068億リットルに達し、2024年比で11倍に増加すると予測されています。これは単なる増加ではなく、急激な変化を意味しており、インフラへの負荷や地域社会への影響が懸念されます。
地理的な課題も深刻です。2022年以降に建設された米国データセンターの約3分の2が高水ストレス地域に立地している現実は、テック企業がエネルギーコスト削減や電力供給の安定性を優先した結果でもあります。特に太陽光発電が豊富な乾燥地域にデータセンターが集中する傾向があり、再生可能エネルギーへの移行と水資源保護の両立という難しい課題を生んでいます。
技術的な解決策については、液浸冷却やゼロウォーター設計といった革新的な冷却システムが注目されています。しかし、これらの技術には初期コストや運用の複雑さという課題があり、特に既存施設の改修には大きな投資が必要です。また、水使用量を削減する冷却システムは往々にして電力消費量を増加させるため、トレードオフの関係にあります。
規制面では、現在のところデータセンターの水使用量に関する包括的な環境規制は限定的です。しかし、地域レベルでは住民の水供給への影響が実際に発生しており、今後は連邦レベルでの規制強化が予想されます。
この問題が持つ長期的な影響は、単なる環境問題を超えて、社会正義の観点からも重要です。水不足地域でのデータセンター建設は、地域住民の生活用水と企業の事業用水が競合する構図を生み出し、コミュニティとの対立を招く可能性があります。
一方で、ポジティブな側面として、この課題が技術革新を促進している点も見逃せません。循環型冷却システムや再生水の活用、さらには廃熱の再利用といった技術が急速に発達しており、結果的により持続可能なデータセンター運営が実現される可能性があります。
【用語解説】
蒸発冷却(Evaporative Cooling)
水の蒸発による気化熱を利用してサーバーを冷却する方式。低コストで効率的だが、水を大量消費し大気中に失われるため「消費」として計上される。
液浸冷却(Immersion Cooling)
サーバーを非導電性の冷却液に直接浸すことで熱を除去する冷却技術。水を使用せず高い冷却効率を実現するが、初期コストが高い。
ゼロウォーター設計
冷却水を完全循環させ、外部への水の消費を一切行わない閉ループ冷却システム。地域の飲料水供給に負荷をかけない設計。
GPT-3
OpenAIが開発した約1,750億のパラメータを持つ大規模言語モデル。2020年にリリースされ、現在のAIブームの先駆けとなった生成AIの代表例。
Lawrence Berkeley National Laboratory
1931年設立の米国エネルギー省所属の国立研究所。ノーベル賞受賞者16名を輩出し、エネルギー、環境、計算科学分野で世界をリードする研究機関。
水ストレス地域
水需要に対して利用可能な水資源が不足している地域。干ばつ、水質悪化、洪水などの複合的な水リスクに直面している。
直接水使用量と間接水使用量
直接使用量はデータセンター内の冷却で消費される水、間接使用量は電力生成のために発電所で使用される水。AIの場合、間接使用が全体の80%以上を占める。
【参考リンク】
Lawrence Berkeley National Laboratory(外部)
米国エネルギー省所属の国立研究所。エネルギー、環境、計算科学、ナノテクノロジーなど幅広い分野で最先端研究を実施
Microsoft(外部)
Amy Luersが持続可能性科学・イノベーション担当として所属する米国のテクノロジー企業。AIおよびクラウドサービスの主要プロバイダー
IEEE Spectrum(外部)
電気電子技術者協会(IEEE)が発行する技術情報メディア。エンジニアや研究者向けに最新の技術動向や研究成果を報道
【参考記事】
AI data centers to drive 11-fold rise in water consumption by 2028: Morgan Stanley(外部)
Morgan Stanleyが発表した最新レポートで、全世界のAIデータセンターの水消費量が2028年までに1,068億リットルに達し、2024年比で11倍に増加すると予測
How AI Demand Is Draining Local Water Supplies(外部)
Bloomberg Newsの詳細分析によると、2022年以降建設された米国データセンターの約3分の2が高水ストレス地域に立地している現状を報告
Data centers consume massive amounts of water(外部)
Lawrence Berkeley National Laboratoryの2024年報告を引用し、米国データセンターが2023年に直接冷却用として170億ガロンを消費したと報告
Report: Water use in AI and Data Centres Executive summary(外部)
英国政府報告書で、Microsoftの世界的水使用量が2022年に34%増加し640万立方メートルに達したことを報告。蒸発冷却では使用水の80%が蒸発で失われることも解説
【編集部後記】
このAIと水の問題、実は私たち一人ひとりの日常と深く関わっているのをご存知でしょうか。ChatGPTで質問を10回すると、ペットボトル1本分の水が消費されるという計算もあります。普段何気なく使っているAIサービスが、世界各地の水資源を消費していると考えると、少し見方が変わりませんか?
皆さんは、AIを使う際に環境負荷を意識することはありますか?また、もし自分の住む地域にデータセンターが建設される話が出たら、どのような点を重視して判断されるでしょうか。技術の恩恵を受けながら、同時に地球環境への配慮も考える——この両立について、ぜひ一緒に考えてみませんか?