Googleは2025年10月16日(米国時間)、Gemini APIにGoogle Mapsのデータを活用するグラウンディング機能を追加したと公式に発表しました。
この機能により、開発者はAIモデルの回答を、Google Mapsが持つ2億5000万以上の場所に関するリアルタイム情報(営業時間、レビューなど)で裏付けることが可能になります。これにより、旅行計画、配送ルート最適化、不動産検索といった、位置情報の正確性が鍵となるアプリケーションの品質を飛躍的に向上させることができます。
対応モデルはGemini 2.5 Pro
、Gemini 2.5 Flash
、Gemini 2.5 Flash-Lite
、Gemini 2.0 Flash
の4つです。開発者はgenerateContent
メソッドを介してgoogleMaps
ツールを呼び出すことで、この機能を利用できます。
価格は、Google Mapsのデータを用いて回答が生成された場合に「1,000プロンプトあたり25ドル」と設定されています。
なお、本機能は緊急応答サービスなどのハイリスクな活動での使用が禁止されているほか、利用できない地域として中国、クリミア、キューバ、ドネツク人民共和国、イラン、ルガンスク人民共和国、北朝鮮、シリア、ベトナムが指定されています。
From: Developers can now add live Google Maps data to Gemini-powered AI app outputs
【編集部解説】
今回のGoogleによるGemini APIへのGoogle Maps統合は、AI業界における重要な転換点を示しています。OpenAIやAnthropicといった競合が容易には真似できない、Googleならではの強みを活かした戦略的な動きと言えるでしょう。
この機能の本質は「グラウンディング」という概念にあります。これは、AIが生成する回答を実世界のデータで裏付ける技術です。従来の生成AIは、時として事実と異なる情報を自信満々に答えてしまう「ハルシネーション(幻覚)」が課題でした。しかし、2億5000万以上の実在する場所の情報と接続することで、AIの回答に確実性と信頼性が加わります。
特に注目すべきは、単なる静的なデータベースではなく、営業時間やレビューといったリアルタイム情報を扱える点です。ユーザーが「今すぐ入れるカフェ」を探す場合、現在営業中かどうかが決定的に重要になります。この即時性が、旅行計画、配送ルート最適化、不動産検索など、位置情報が鍵となるサービスの質を大きく向上させるでしょう。
価格設定も興味深い要素です。1,000プロンプトあたり25ドルという料金は、大規模なサービスにとっては相当なコストとなります。これはGoogleが、この機能を単なる付加価値ではなく、プレミアムな差別化要素として位置づけていることを示唆しています。
一方で、中国、イラン、北朝鮮、キューバでの利用制限や、緊急対応での使用禁止といった条件も設けられています。これは地政学的な配慮だけでなく、誤情報が生命に関わる状況で使われるリスクへの慎重な姿勢の表れです。
長期的には、この統合によってAIアプリケーションが「デジタル空間の情報処理」から「実世界と連動するインテリジェンス」へと進化する契機となるかもしれません。Google SearchとMapsの両方を同時活用できる点も、情報の網羅性と正確性の両立を可能にします。
今後、他のプラットフォームがどう対応するか、そしてこの技術が私たちの日常体験をどう変えていくか、注視していく価値があります。
【用語解説】
グラウンディング(Grounding)
AIが生成する回答を、実際のデータや事実に基づいて裏付ける技術である。これにより、AIが誤った情報を生成する「ハルシネーション」を防ぎ、信頼性の高い回答を提供できるようになる。
Gemini API
GoogleのGemini AIモデルを外部の開発者が自身のアプリケーションで利用できるようにするためのプログラミングインターフェースである。開発者はこのAPIを通じて、高度なAI機能を自分のサービスに組み込むことができる。
generateContentメソッド
Gemini APIにおいて、AIにコンテンツを生成させるための基本的なプログラム命令である。開発者はこのメソッドを呼び出し、必要なツール(Google Mapsなど)を指定することで、特定の機能を持つAI応答を得られる。
プレースID
Google Mapsにおいて、個々の場所を一意に識別するための固有の識別子である。この仕組みにより、同名の店舗や施設が複数存在する場合でも、正確に特定の場所を参照できる。
コンテキストトークン
APIから返される特別な識別子で、開発者がGoogle Mapsウィジェットを自身のアプリケーションに埋め込む際に使用される。このトークンを用いることで、地図や写真、レビューなどの視覚的要素を表示できる。
【参考リンク】
Google AI Studio(外部)
Googleが提供する開発者向けプラットフォームで、Gemini APIの機能を試したり、プロトタイプを作成できる統合開発環境。
Google Maps Platform(外部)
Googleが提供する地図サービスのAPI群を統括するプラットフォーム。Places API、Directions APIなど様々なサービスを提供。
VentureBeat(外部)
テクノロジー業界のニュースと分析を提供する米国メディア。AI、ゲーム、クラウドなど先端技術分野を専門的に報じる。
【参考動画】
【参考記事】
Grounding for Google Maps now available in the Gemini API(外部)
Googleの公式ブログによる発表記事。2億5000万以上の場所データ活用と対応する4つのGeminiモデルについて説明している。
Grounding with Google Maps | Gemini API(外部)
Google AI for Developersの公式技術ドキュメント。1,000プロンプトあたり25ドルの価格設定や利用制限地域の仕様を記載。
Google Maps Gemini API: Grounding AI in Real-World Location Data(外部)
Startup HubによるAI研究ニュース。Google SearchとMapsの同時使用機能と内部テストでの応答品質向上について報じている。
【編集部後記】
GoogleがGemini APIに組み込んだこの技術、皆さんの日常にはどんな影響を与えるでしょうか。旅行先で「今すぐ入れるレストラン」を探すとき、引っ越し先の物件を「子育て環境」で比較するとき、AIが実世界のデータと結びついた答えを返してくれる未来は、もうすぐそこまで来ています。
一方で、1,000回の問い合わせで25ドルというコストは、私たち個人ユーザーには見えにくい部分です。このような技術が実際にどんなアプリやサービスに組み込まれていくのか、そしてそれがどれほど便利で信頼できるものになるのか。皆さんはどんな使い方を期待しますか。一緒に見守っていきましょう。