NTT「tsuzumi 2」提供開始|富士フィルムと連携、軽量・高性能な純国産日本語特化LLMを実現

[更新]2025年10月21日18:02

 - innovaTopia - (イノベトピア)

NTTは2025年10月20日、軽量で高性能な日本語LLM「tsuzumi 2」の提供を開始した。従来のLLMが抱える電力消費やコスト増大の課題に対応し、1GPUで推論可能な軽量性を維持しながら、同サイズ帯で世界トップクラスの日本語性能を実現している。金融・医療・公共分野の知識を強化し、RAGやファインチューニングによる業界特化モデルの開発効率も向上した。

NTT社内評価では他社先進モデルと同等以上の性能を確認している。既に東京通信大学が学内LLM基盤として導入を決定し、NTTドコモビジネスと富士フイルムビジネスイノベーションが新たな生成AIソリューション開発に向けた検討を開始するなど、具体的な導入事例が生まれている。

From: 文献リンク更なる進化を遂げたNTT版LLM tsuzumi 2の提供開始~日本語性能世界トップクラス、企業・自治体のAI活用を加速~

【編集部解説】

今回の「tsuzumi 2」は、日本のAI戦略における重要な転換点を示しています。OpenAIやAnthropicといった米国企業が主導する大規模モデル競争とは異なるアプローチとして、NTTは「軽量性」と「日本語特化」という明確な差別化を図っています。1GPUで動作可能という仕様は、企業のオンプレミス環境での導入障壁を大幅に下げるものです。

特筆すべきは、このモデルがフルスクラッチで開発された純国産という点でしょう。学習データの出所や処理プロセスが完全に把握できることは、金融や医療など機密性の高い分野での活用において決定的な優位性となります。欧州で強化されるAI規制やデータ主権の観点からも、この特性は今後ますます重要性を増すはずです。

東京通信大学の導入事例は、教育分野でのAI活用の現実的なモデルケースとなり得ます。学生データを外部クラウドに依存せず学内で完結できる点は、個人情報保護の観点から他の教育機関にとっても参考になるでしょう。授業Q&Aや履修相談のパーソナライズといったユースケースは、教員の負担軽減と学生体験の向上を同時に実現する可能性を秘めています。

一方で、軽量モデルが抱える本質的な課題も見逃せません。パラメータ数を抑えることで推論コストは削減できますが、複雑な推論や創造的なタスクにおいては大規模モデルに劣る可能性があります。「数倍以上大きなフラッグシップモデルに匹敵する」という表現も、特定のベンチマークにおける評価であり、すべてのタスクで同等というわけではないでしょう。

富士フイルムビジネスイノベーションとの連携は、非構造化データの構造化技術とLLMの組み合わせという興味深い方向性を示しています。企業内に散在する契約書や提案書などの文書を効率的に活用できれば、ナレッジマネジメントの質が劇的に向上します。ただし、こうした技術が普及すれば、文書作成やデータ整理といった業務における人材配置の見直しが進む可能性も考慮すべきです。

長期的には、国産LLMの存在が日本のAIエコシステム全体に与える影響が注目されます。海外モデルへの依存度を下げることは技術的自立性を高める一方、グローバルなAI開発競争においては孤立のリスクも孕んでいます。オープンソースコミュニティとの連携やモデルの継続的な改良が、このバランスを保つ鍵となるでしょう。

【用語解説】

LLM(Large Language Model)
大規模言語モデルの略称。大量のテキストデータで学習され、言語理解や文章生成に優れた能力を持つAIモデルを指す。

RAG(Retrieval-Augmented Generation)
検索拡張生成と呼ばれる技術。外部の情報源から関連データを検索し、その情報を基にして回答を生成することで精度を高める手法。

ファインチューニング
ファインチューニング。事前学習済みのモデルに対して、特定の業界知識やタスクに特化したデータで追加学習を行い、性能を最適化する技術。

フルスクラッチ
既存のモデルやコードを流用せず、ゼロから独自に開発すること。NTTはtsuzumiを完全に自社で構築した純国産モデルとして位置づけている。

オンプレミス
企業が自社内のサーバーやデータセンターでシステムを運用する形態。クラウドサービスと対比され、データの完全な管理権を保持できる。

非構造化データ
表形式のデータベースのように整理されていない、契約書・画像・音声などの形式が統一されていないデータ。企業内に大量に存在する。

REiLI
富士フイルムグループが展開するAI技術ブランド。非構造化データを構造化し、活用可能な情報に変換する技術を中心に5つのAIエージェントを提供している。

【参考リンク】

NTT版LLM「tsuzumi」公式サイト(外部)
NTTの研究開発部門によるtsuzumiシリーズの公式情報ページ。技術詳細やユースケース、最新の開発状況が掲載されている。

NTT R&Dフォーラム2025(IOWN Quantum Leap)(外部)
2025年11月19日から開催されるNTTの研究開発フォーラム。tsuzumi 2を活用した最新の生成AIソリューションを実際に体験できるイベント情報が提供されてる。

富士フイルムビジネスイノベーション AI技術「REiLI」(外部)
富士フイルムグループのAI技術ブランドREiLIの詳細情報。非構造化データの構造化技術を核とした5つのAIエージェントについて解説されている。

東京通信大学(外部)
tsuzumi 2を学内LLM基盤として導入した通信制大学。教育分野におけるAI活用の先進事例として注目されている。

【編集部後記】

1GPUで動作する軽量LLMは日本企業にとって現実的な選択肢か、それとも性能面での妥協か。東京通信大学が学内データを外部に出さない判断をした背景には、教育現場特有のプライバシー懸念があるのでしょう。富士フイルムとの連携で非構造化データ活用が進めば、眠っていた企業資産が動き出すかもしれません。フルスクラッチ開発による自立と、グローバルコミュニティからの知見、どちらを優先すべきか。皆さんの組織では軽量な国産モデルと大規模な海外モデル、どちらのニーズが高いでしょうか。

投稿者アバター
乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。 デジタルエンターテインメントの未来形がいかに人間の認知と感情に働きかけるかを分析し、テクノロジーが創造する新しい未来の可能性を追求しています。

読み込み中…
advertisements
読み込み中…