中国Alibabaのオープンソース大規模言語モデル開発チームQwenは、2025年10月21日、研究支援ツール「Qwen Deep Research」の大幅なアップデートを発表した。
この機能はウェブベースの対話型AI「Qwen Chat」上で利用可能で、ユーザーはリサーチレポートを1〜2クリックでインタラクティブなウェブページや複数話者によるポッドキャストに変換できる。基盤となるモデル「Tongyi-DeepResearch-30B-A3B」はGitHubでオープンソースとして公開されており、Qwen3-Coder、Qwen-Image、Qwen3-TTSといったモデルも活用されている。
デモでは米国SaaS市場を例に、複数ソースからデータを取得し、市場規模推定値の不一致や2020年から2023年までの年平均成長率19.8%などを分析した。ポッドキャスト機能ではホスト17種類、コホスト7種類の話者から選択可能である。
GoogleのNotebookLMと比較され、既存文書の整理に特化する同サービスに対し、Qwen Deep Researchはゼロからの研究コンテンツ生成とマルチモーダル出力に重点を置いている。
From: Qwen’s new Deep Research update lets you turn its reports into webpages, podcasts in seconds
【編集部解説】
今回のQwen Deep Researchのアップデートは、AI研究支援ツールの新しい方向性を示す重要な事例です。従来の研究ツールが「情報を集めて整理する」ことに焦点を当てていたのに対し、Qwenは「集めた情報をどう発信するか」まで一気通貫で支援する設計になっています。
特筆すべきは、単一の研究プロジェクトから3つの異なる出力形式——PDFレポート、ウェブページ、ポッドキャスト——を自動生成できる点でしょう。これはコンテンツクリエーターや教育者にとって、制作工程の大幅な効率化を意味します。従来なら、リサーチ担当者、ウェブデザイナー、音声編集者といった複数の専門家が必要だった作業を、AIが統合的に処理できるようになったのです。
興味深いのは、ポッドキャストがレポートの単純な音読ではなく、2人のホストが議論する形式で生成される点です。これはコンテンツの再利用という概念を超え、同じ情報源から異なる視点の派生コンテンツを生み出す試みと言えます。
GoogleのNotebookLMとの比較も重要な論点です。NotebookLMは既存文書の分析と整理に特化しているのに対し、Qwen Deep Researchはオープンウェブから情報を収集し、新規コンテンツを生成する方向性を取っています。この違いは、両者が異なるユースケースを想定していることを示唆しています。
ただし、懸念もあります。オープンウェブからの情報収集において、情報源の信頼性検証や引用の正確性がどの程度担保されているかは不透明です。また、音声がやや機械的という指摘や、言語選択の柔軟性が限定的である点は、実用上の課題として残っています。
Qwenは多くのオープンソースモデルを公開してきました。そして今回のDeep Research機能もまた、基盤となるモデルをGitHubでオープンソースとして公開しています。これにより、開発者は理論的に同様の機能を独自に構築することも可能です。これはオープンソース戦略でコミュニティの支持を得つつ、自社のクラウドサービス(Bailian)へ誘導するという、Alibabaの巧みな戦略と言えるでしょう。
長期的には、研究からコンテンツ発信までのワークフローがさらに自動化され、個人でも高品質な情報発信が可能になる未来が見えてきます。しかし同時に、AI生成コンテンツの氾濫と、人間による検証の重要性が一層高まることも予想されます。
【用語解説】
Qwen(通義千問)
中国Alibabaが開発するオープンソースの大規模言語モデルシリーズ。ChatGPTやClaude、Geminiなどと競合する高性能AIモデルで、多言語対応やマルチモーダル機能を持つ。2024年以降、急速にモデルの性能向上と機能拡張を進めている。
TTS(Text-to-Speech)
テキストを音声に変換する技術。Qwen3-TTSは、書かれた文章を自然な音声として出力するAIモデルで、複数の話者の声を生成できる。
NotebookLM
Googleが提供するAI支援研究ノートツール。ユーザーがアップロードした文書やウェブページを分析し、質問応答や要約を行う。2024年後半にポッドキャスト生成機能が追加され話題となった。
CAGR(年平均成長率)
Compound Annual Growth Rateの略。複数年にわたる成長率を年単位の平均値として表したもので、投資や市場分析で広く使われる指標である。
プロプライエタリ
独占的な所有権を持つソフトウェアやサービスを指す。オープンソースとは対照的に、ソースコードや技術の詳細が公開されず、特定の企業や組織が管理・運営する。
【参考リンク】
Qwen Chat公式サイト(外部)
AlibabaのQwenチームが提供する対話型AIサービス。Deep Research機能を含む各種AI機能を無料で利用できる。
Qwen公式ドキュメント(外部)
Qwenモデルの技術仕様、研究論文、オープンソースコードへのアクセスが可能。開発者向けの詳細な情報を提供。
Alibaba Cloud Model Studio – Qwen Deep Research(外部)
Alibaba CloudにおけるQwen Deep Researchの公式ドキュメント。APIを通じた利用方法や技術的な詳細を記載。
Google NotebookLM(外部)
Googleが提供するAI研究支援ツール。文書分析とポッドキャスト生成機能を持ち、Qwen Deep Researchと比較される。
VentureBeat(外部)
AI、ゲーム、ビジネステクノロジー分野を専門とする米国のテクノロジーメディア。企業向けAI技術の報道に強みを持つ。
【参考動画】
【参考記事】
Alibaba releases open-source AI agent to rival OpenAI’s flagship Deep Research(外部)
Alibabaのオープンソース深層研究エージェントを解説。わずか300億パラメータで驚異的な効率性を示すと報じている。
Alibaba Recognized on Fortune’s 2025 Change the World List(外部)
Alibabaが300以上の生成AIモデルをオープンソース化した功績でFortuneに認定された事例を紹介。
It’s Qwen’s summer: new open source Qwen3 tops OpenAI, Gemini reasoning models(外部)
Qwen3モデルがOpenAIやGoogleのモデルを主要ベンチマークで上回る性能を達成したことを報告する記事。
Alibaba-NLP/DeepResearch GitHub Repository(外部)
Qwen Deep Researchのオープンソース実装に関するGitHubリポジトリ。技術的な実装詳細やコードサンプルを公開。
【編集部後記】
AIが情報を集めるだけでなく、それを伝えるところまで担う時代が本格的に始まりました。みなさんは、自分の研究やアイデアをどのように発信していますか?ブログ記事を書くのに何時間もかかったり、プレゼン資料の作成に追われたりしていませんか?
Qwen Deep Researchのようなツールは、そうした制作プロセスの時間配分を大きく変える可能性を秘めています。一方で、AI生成コンテンツが増えるほど、人間ならではの視点や検証の価値も高まっていくはずです。みなさんは、どんな場面でこうしたツールを使ってみたいと思いますか?