Google Gemini Deep Research、Gmail・ドライブ・チャットと連携開始。AIが個人データから包括的調査レポートを生成

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Googleは2025年11月6日、Gemini Deep Research機能においてGmail、Googleドライブ、Googleチャットへのアクセスを可能にしたと発表した。

この機能は調査レポート作成に特化したエージェント機能で、Googleによれば最も要望の多かった機能の一つである。

Deep Researchは複数段階の調査計画を立案し、一連のウェブ検索を実行してレポートを作成する。ユーザーはツールメニューでDeep Researchを選択すると、Google検索、Gmail、ドライブ、チャットの4つのオプションから選択できる。

これによりGmailのメール、ドライブのドキュメント、スライド、スプレッドシート、PDF、チャット履歴がAIモデルのコンテキスト情報として提供される。

作成されたレポートはGoogleドキュメントやAI生成ポッドキャストにエクスポート可能である。

現時点ではデスクトップ版のみで、近日中にモバイル版への展開も予定されている。

From: 文献リンクGoogle Gemini’s Deep Research can look through your email, Drive, and Chat

【編集部解説】

GoogleがGemini Deep Researchに追加した新機能は、AIリサーチツールの進化における重要な一歩です。この機能により、ユーザーは自身のGmail、Googleドライブ、Googleチャットのデータを調査レポート作成の情報源として活用できるようになりました。

Deep Researchは2024年12月に登場したGeminiのエージェント機能です。従来のチャットボットが単純に質問に答えるのとは異なり、Deep Researchは複雑なリサーチタスクを自律的に実行します。まずユーザーの質問から複数段階の調査計画を立案し、その計画に基づいて一連のウェブ検索を実行します。その過程で得られた情報を分析し、最終的に包括的なレポートとして出力する仕組みです。

今回のアップデートの意義は、このリサーチプロセスに個人やチームの内部データを統合できるようになった点にあります。これまでDeep Researchは公開ウェブデータのみを検索対象としていましたが、今後はGmailのメール、ドライブのドキュメント、スプレッドシート、スライド、PDF、そしてGoogleチャットの会話履歴もコンテキスト情報として活用できます。

具体的なユースケースとして、Googleは新製品の市場分析を挙げています。チームのブレインストーミング資料、関連するメールスレッド、プロジェクト計画書をDeep Researchに分析させることで、内部資料と公開ウェブデータを組み合わせた包括的な市場調査が可能になります。また、競合製品に関する分析では、自社の戦略文書や比較スプレッドシート、チームチャットの内容と公開情報を照合し、より精緻な競合レポートを作成できます。

技術的な観点から見ると、Deep Researchは非同期タスク管理システムを採用しています。これにより、調査プロセス中にエラーが発生しても最初から再実行する必要がありません。また、ユーザーは調査開始後に別のアプリに移動したり、デバイスの電源を切ったりしても、バックグラウンドで調査が継続されます。完了時には通知が届く仕組みです。

プライバシーとセキュリティの面では、Googleは重要なコミットメントを示しています。Google Workspaceの顧客データは、顧客の同意なしにモデルのトレーニングには使用されないとしています。WorkspaceにはDLP(データ損失防止)機能やIRM(情報権限管理)コントロールが組み込まれており、管理者は機密データへのGeminiのアクセスを制限できます。また、クライアントサイド暗号化が有効な場合、Geminiを含むすべての第三者がデータにアクセスできなくなります。

競合との比較では、OpenAIのChatGPTもDeep Research機能を提供していますが、ネイティブなGoogle Workspaceとの統合という点でGeminiには優位性があります。Workspaceユーザーにとっては、権限フローや導入プロセスが簡素化されるメリットがあります。

ただし、この種の機能には懸念も存在します。教育現場では学生が批判的思考能力を失うリスクが指摘されており、またメディア業界では、AIが生成するサマリーによってオリジナルコンテンツへのトラフィックが減少する可能性も議論されています。

現時点ではデスクトップ版のみの提供ですが、近日中にモバイルアプリへの展開も予定されています。この機能は全Geminiユーザーが利用可能(順次ロールアウト中)で、特にGemini Advancedプラン(月額20ドル)のユーザーはより高度な機能にアクセスできます。

【用語解説】

エージェントAI
単純な質問応答を超え、複雑なタスクを自律的に実行できるAIシステムを指す。ユーザーの監督下で、計画立案、情報収集、分析、レポート作成といった一連のプロセスを独立して遂行する能力を持つ。

DLP(データ損失防止)
Data Loss Preventionの略。組織内の機密情報が外部に漏洩するのを防ぐセキュリティ技術。ファイルやメールの内容を分析し、機密情報が含まれる場合にアクセスや共有を制限する。

IRM(情報権限管理)
Information Rights Managementの略。ドキュメントやファイルに対して、ダウンロード、印刷、コピーなどの操作を制限する技術。IRMが適用されたファイルはGeminiも取得できない。

クライアントサイド暗号化
データがクライアント(ユーザー側)で暗号化され、暗号化された状態のままサーバーに保存される技術。Googleを含む第三者はデータを解読できず、最高レベルのデータ保護を提供する。

非同期タスク管理
処理の実行を待たずに他の作業を続行できるシステム設計。Deep Researchでは、ユーザーがブラウザを閉じても調査が継続され、完了時に通知される仕組みを実現している。

【参考リンク】

Gemini Deep Research — your personal research assistant(外部)
GoogleによるDeep Researchの公式説明ページ。機能の詳細な仕組みや使い方を解説している。

Google Workspace(外部)
Gmail、ドライブ、チャットなどを含むGoogleのビジネス向けクラウドサービス。企業向けの生産性ツールを提供する。

Use Deep Research in Gemini Apps – Gemini Apps Help(外部)
Gemini AppsでDeep Researchを使用する方法を説明する公式ヘルプページ。具体的な操作手順を確認できる。

Generative AI in Google Workspace Privacy Hub(外部)
Google Workspaceにおける生成AIのプライバシーとセキュリティに関する包括的な情報を提供するハブページ。

【参考記事】

Gemini Deep Research can now connect to your Gmail, Docs, Drive and even Chat.(外部)
Google公式ブログによる発表記事。Deep ResearchとWorkspaceアプリの統合について詳細に説明。

Gemini Deep Research can tap into your Gmail and Google Drive(外部)
9to5Googleによる詳細なレポート。新機能の具体的な使用方法とデスクトップ・モバイル展開について報じている。

Google Gemini can now do more in-depth research(外部)
TechCrunchによるDeep Research機能の初期レビュー。技術的仕組みと倫理的懸念についても考察している。

Generative AI in Google Workspace Privacy Hub(外部)
Google WorkspaceにおけるGeminiのデータプライバシーとセキュリティについて詳述する公式ドキュメント。

How to use Google’s Deep Research, an AI researching tool(外部)
Google公式ブログによるDeep Researchの使い方ガイド。実用的なユースケースと活用のヒントを紹介。

【編集部後記】

AIが私たちのメールやドキュメントから情報を引き出し、自律的にリサーチを行う時代が到来しました。この技術は仕事の効率を大きく変える可能性を秘めている一方で、どこまでAIに任せるべきか、という問いも突きつけてきます。みなさんの業務において、このようなAIエージェントはどんな場面で力を発揮しそうでしょうか。また、個人データへのアクセスについて、どのような不安や期待をお持ちですか。私たちも引き続き、この技術の進化と向き合い方について、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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