UNESCOとウズベキスタン芸術文化開発財団は、人工知能の倫理に関する科学研究のためのUNESCO-ウズベキスタンBeruniy賞を創設した。
この賞はサマルカンドで開催された第43回総会で授与され、責任ある人間中心のAI革新を促進する研究者と機関を表彰するものである。
各受賞者には30,000ドル、Beruniyメダル、証明書が授与された。
受賞者は、倫理的で包括的なAIと民主的デジタルガバナンスを推進したVirgilio Almeida教授、プライバシー、包括性、公平性を保護する若者中心のAI倫理を促進した人権専門家Susan Perryとコンピュータ科学者Claudia Roda、そして国際協力と責任あるAI政策を促進した清華大学AI国際ガバナンス研究所である。
UNESCOは、共感、包括性、説明責任に基づいた革新を称賛することで、AIが平和、正義、持続可能な開発のための力であり続けることを目指している。
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UNESCO launches Beruniy Prize to promote ethical AI innovation
【編集部解説】
2025年11月6日、サマルカンドで開催されたUNESCO第43回総会において、人工知能の倫理に関する新しい国際賞が始動しました。この「UNESCO-ウズベキスタンBeruniy賞」は、AI倫理の分野で画期的な研究や政策提言、実践的な取り組みを行った個人や機関を表彰する2年に一度の賞です。
この賞が注目に値するのは、単なる学術賞ではなく、UNESCOが2021年に採択した「AI倫理勧告」の実装を促進する戦略的ツールだからです。技術開発が加速する現代において、倫理的配慮なきAI開発が人権侵害や不平等の拡大につながるリスクが世界的な課題となっています。この賞は、そうした懸念に対する国際社会の明確なメッセージといえます。
賞の名称に冠されたAbu Rayhon Beruniyは、973年に現在のウズベキスタンで生まれた多才な学者です。数学、天文学、哲学、地理学など幅広い分野で業績を残し、異文化間の知的交流を促進した人物として知られています。彼の学際的なアプローチと国際協力の精神は、まさに現代のAI倫理研究が必要とする姿勢を体現しています。
初回受賞者の顔ぶれは、この賞の目指す方向性を明確に示しています。ブラジルのVirgilio Almeida教授は、ハーバード大学Berkman Klein Centerの研究員であり、デジタルガバナンスとアルゴリズム倫理の第一人者です。彼はブラジルのインターネット市民権法(Marco Civil da Internet)の策定にも関与し、民主的なアルゴリズムガバナンスの理論と実践を牽引してきました。
Susan PerryとClaudia Rodaの両教授は、パリのアメリカン大学で人権とAI倫理の交差点に焦点を当てた研究を展開しています。特に若者を中心に据えた倫理的アプローチは、次世代が直面するデジタル社会の課題を先取りするものです。プライバシー保護、包括性、公平性といったテーマは、AIが社会インフラとして定着する時代に不可欠な視点といえます。
中国の清華大学AI国際ガバナンス研究所の受賞は、地政学的にも重要な意味を持ちます。AI開発で先行する中国が、倫理面での国際協力にも積極的であることを示すシグナルです。Xue Lan教授率いるこの研究所は、学術的卓越性と政策への実践的影響力を兼ね備えた組織として評価されました。
各受賞者には30,000ドルの賞金、メダル、証明書が授与されます。総額90,000ドルという賞金規模は、ウズベキスタン政府が全額資金提供しており、新興国が科学外交の分野でリーダーシップを発揮する事例としても注目されます。
この賞が持つ長期的な意義は、AI倫理を「制約」ではなく「推進力」として位置づけている点にあります。UNESCO事務局長Audrey AzoulayとACDF議長・UNESCO国家委員会議長Gayane Uemerovaは、倫理は技術を制限するためではなく、人類に奉仕するよう導くためのものだと強調しました。これは、イノベーションと社会的責任を対立させるのではなく、両立させる視点を示しています。
人工知能が医療診断、金融判断、雇用選考、刑事司法など、人生を左右する決定に使われる時代において、透明性、説明責任、公平性は単なる理想ではなく必須要件です。しかし現実には、アルゴリズムのブラックボックス化、バイアスの増幅、データプライバシーの侵害といった問題が頻発しています。
Beruniy賞は、こうした課題に真正面から取り組む研究者や機関にスポットライトを当てることで、AI開発のベストプラクティスを可視化し、グローバルな規範形成を促進する触媒となることが期待されます。2年ごとの授与というサイクルは、急速に進化する技術領域において適度な頻度で優秀事例を発信し続ける設計といえるでしょう。
特筆すべきは、この賞が「研究」「国際協力」「実践的応用」という3つの柱を評価基準としている点です。単なる理論研究だけでなく、現実世界での実装や政策への反映を重視する姿勢は、AI倫理を机上の空論に終わらせないための仕組みといえます。
グローバルサウスの国々がAI開発において急速に存在感を増す中、ウズベキスタンのような国がこうした国際的イニシアチブを主導する意義は大きいです。技術の恩恵が先進国に偏ることなく、すべての人類にとって公正なAI社会を実現するための枠組み作りが、今まさに進行しています。
【用語解説】
Abu Rayhon Beruniy(アブ・ライハーン・ベルーニー)
973年に現在のウズベキスタンで生まれた中世イスラム世界を代表する学者である。数学、天文学、地理学、哲学など多岐にわたる分野で150以上の著作を残した。地球の半径を高精度で計算し、異文化間の知的交流を促進した人物として知られる。
UNESCO AI倫理勧告
2021年にUNESCOが加盟国により採択した、世界初のAI倫理に関する国際的な規範的枠組みである。人権、透明性、説明責任、多様性といった原則を定め、加盟国にAI開発における倫理的配慮を促している。
アルゴリズムガバナンス
アルゴリズムやAIシステムの設計、開発、運用において、透明性、公平性、説明責任を確保するための統治の枠組みである。民主的な意思決定プロセスを通じて、技術が社会に与える影響を制御する概念である。
【参考リンク】
UNESCO-Uzbekistan Beruniy Prize公式ページ(外部)
UNESCO Beruniy賞の公式情報、受賞者詳細を掲載するUNESCOの公式サイト
Virgilio Almeida – Berkman Klein Center(外部)
ハーバード大学Berkman Klein CenterのAlmeida教授の研究プロフィール
UNESCO Chair in AI and Human Rights – AUP(外部)
パリのアメリカン大学に設置されたUNESCO AI・人権チェアの活動概要
Institute for AI International Governance(外部)
清華大学AI国際ガバナンス研究所の公式サイト。研究活動と国際協力の詳細
【参考記事】
Beruniy Prize – Meet the Laureates of the 2025 Edition(外部)
2025年度UNESCO Beruniy賞の3組の受賞者詳細と研究業績を紹介
Brasileiro vence prêmio da Unesco em pesquisas sobre ética da IA(外部)
ブラジル人教授Virgilio AlmeidaのBeruniy賞受賞を報じる記事
AUP Professors Appointed Co-Chairholders for UNESCO Chair(外部)
Susan PerryとClaudia Roda両教授のUNESCOチェア任命に関する記事
【編集部後記】
AIが社会インフラとして定着する今、倫理的配慮は「あれば良いもの」から「なければならないもの」へと変わりつつあります。この賞が示すのは、技術革新と人間の尊厳が共存する未来への明確な道筋です。
ブラジル、フランス、中国という異なる文化圏から選ばれた受賞者たちの研究は、AI倫理が特定の国や地域だけの課題ではなく、グローバルな協力を必要とする人類共通の挑戦であることを物語っています。
私たちinnovaTopia編集部は、こうした取り組みが単なる学術的議論に終わらず、実際の政策や製品開発に反映されていく過程を、これからも皆さんと共に見届けていきたいと考えています。技術の恩恵を誰もが公平に享受できる社会の実現に向けて、今何が起きているのか、一緒に注目していきましょう。

























