OpenAI CEOのサム・アルトマンと元Appleデザイナーのジョニー・アイブが、人工知能技術を用いたスクリーンレスAIデバイスのプロトタイプを公開した。
両者はIO ProductsをOpenAIと統合してプロジェクトを進めており、2025年11月21日にサンフランシスコで開催されたEmerson Collective Demo Day 25で、第2世代ハードウェア試作機について説明し、およそ2年以内に発売される可能性があると述べた。
ChatGPTは世界で週あたり約8億人のアクティブユーザーを有しており、このハードウェアにも同様の機能が組み込まれる見通しである。これまでの報道では、本デバイスはスマートフォン程度のサイズで画面を持たないとされている。
アルトマンは現在のプロトタイプを「jaw-droppingly good(とても素晴らしい)」と表現し、「simple」「beautiful」「playful」といった語で特徴を示した。今回の講演内容は、Financial Timesが10月に報じた、ジョニー・アイブがAIデバイス開発でトラブルに直面しているとする報道を打ち消す内容にもなっている。
From:
OpenAI Leaders Sam Altman and Jony Ive Have a Prototype of Screenless AI Device
【編集部解説】
サム・アルトマンとジョニー・アイブが進めるスクリーンレスAIデバイスは、スマートフォン依存の現在の体験を前提から問い直す試みといえる。2人が「画面のない」「シンプルで静かで遊び心がある」体験を強調していることから、通知やSNS中心の情報過多なUXからユーザーを解放する狙いがにじむ。
今回明かされたのは、第2世代プロトタイプが「jaw-droppingly good」と評されるレベルに達し、およそ2年以内の製品化を視野に入れているという点である。OpenAIはジョニー・アイブ側のIO Productsを統合し、専任チームでハードウェアを開発しており、Appleの象徴的なプロダクトを手がけたデザイナーと、ChatGPTを擁するAI企業のタッグは、ポスト・スマホ時代のインターフェースを本気で取りにいく布陣とみられる。
フォームファクターは「スマートフォン程度のサイズでありながらスクリーンを持たない」と報じられている。そこに週あたり約8億人のアクティブユーザーを抱えるChatGPTの機能が組み込まれるとすれば、音声や触覚、環境センサーを通じて、ユーザーの生活に常に寄り添う“見えないOS”のような存在になる可能性が高い。アプリを立ち上げる前提そのものが薄れ、日常の行動にAIが自然に溶け込む未来像が見えてくる。
一方で、OpenAIはすでに学習データを巡る訴訟に直面しており、CNETの親会社Ziff Davisも著作権侵害を主張して提訴している。そうした中で、マイクやカメラ、各種センサーを搭載した物理デバイスを展開すれば、プライバシーや監視、データ主権を巡る議論は一段と強まることが予想される。「ほとんどすべてを知っているコンピュータを持ち歩く」ことの倫理的含意は、技術仕様と同じくらい重たいテーマになっていくだろう。
今回のイベントで印象的なのは、「平和的」「静か」「ユーモア」「遊び心」といった情緒的なキーワードが何度も繰り返された点である。現在のデジタル体験が「うるさく、不安を呼び起こすもの」になっているという反省から、意図的に穏やかなインタラクション設計を目指していると読み取れる。ただし、ユーザーの感情や行動をどこまでAI側でデザインしてよいのかという、新しい種類の行動介入の問題も同時に立ち上がる。
10月時点では、一部メディアがプロジェクト難航説を報じていたが、今回の公の場では、アルトマンとアイブはむしろ順調さと自信をアピールした。情報の振れ幅を踏まえると、開発状況そのものだけでなく、投資家やパートナー向けのメッセージ設計も含めてプロジェクトが進んでいると見るほうが自然だ。それでも、数十億ドル規模の投資と買収が行われていることから、OpenAIにとってこのハードウェアが長期戦略の中核であることは間違いない。
「ポスト・スマホ」「ポスト・スクリーン」をめぐる本命候補が、いよいよ具体的なプロトタイプ段階に入ったという事実である。日本の企業やスタートアップがこの流れをどう捉え、UI/UX設計や音声インターフェース、エッジAI、プライバシー技術などの領域でどんな応答をしていくのか。およそ2年という開発タイムラインを、自分たちの戦略を組み立てるためのカウントダウンとして意識しておく価値がある。
【用語解説】
スクリーンレスデバイス
ディスプレイを持たず、音声や触覚、センサーなどを通じて入出力を行うコンピューティングデバイスの総称である。
Emerson Collective
Laurene Powell Jobsが設立したフィランソロピー・投資組織であり、教育や気候変動、移民、メディアなどの分野を対象に活動している。
Demo Day 25
Emerson Collectiveがサンフランシスコで開催したイベントであり、サム・アルトマンとジョニー・アイブがスクリーンレスAIデバイスの第2世代プロトタイプについて発表した場である。
IO Products
ジョニー・アイブらが関わるハードウェア開発企業であり、OpenAIと統合されてAIデバイス開発の拠点となっていると報じられている。
Ziff Davis
CNETなどを傘下に持つメディア企業であり、OpenAIに対して著作権侵害を巡る訴訟を提起している。
Financial Times
イギリスを拠点とする国際経済紙であり、ジョニー・アイブとOpenAIのAIデバイス開発が難航しているとする報道を行ったメディアである。
【参考リンク】
OpenAI 公式サイト(外部)
ChatGPTをはじめとする大規模言語モデルや各種AIサービスを提供する企業の公式情報を確認できる。
A letter from Sam & Jony(外部)
サム・アルトマンとジョニー・アイブが連名で発表した書簡で、スクリーンレスAIデバイス構想とIO Products統合のビジョンが示されている。
Emerson Collective(外部)
Laurene Powell Jobsが率いるフィランソロピー・投資組織で、Demo Day 25などのイベント情報や活動内容が掲載されている。
【参考動画】
【参考記事】
Details leak about Jony Ive’s new ‘screen-free’ OpenAI device(外部)
スクリーンレスでスマホ程度のサイズとされるAIデバイスの形状やインターフェース案、プロジェクト体制に関するリーク情報を整理した記事である。
Altman describes OpenAI’s forthcoming AI device as more peaceful and calm than the iPhone(外部)
サム・アルトマンが自社デバイスを「iPhoneよりも平和的で落ち着いた存在」と表現し、通知や情報過多からの解放を目指すコンセプトを解説している。
Everything We Know About OpenAI’s Plans For An AI ‘Companion’(外部)
OpenAIによるIO Productsの約65億ドル規模の買収と、AIコンパニオンデバイス構想の背景、投資額や組織体制を解説している。
OpenAI’s $6.5B Bet: Jony Ive’s AI Device Revolution!(外部)
OpenAIがIO Products買収に踏み切った狙いと、ジョニー・アイブのデザイン哲学とAI技術の融合によるハードウェア革新の可能性をまとめた記事である。
Inside the Jony Ive and Sam Altman big AI hardware headache(外部)
フォームファクターや製造、ビジネスモデル面でAIハードウェアプロジェクトが直面しているとされる課題を紹介し、「難航」報道の背景を伝えている。
OpenAI + Jony Ive’s Screenless AI Device: What You Need to Know(外部)
スクリーンレスAIデバイスをポスト・スマホ時代のUI転換として位置づけ、ChatGPTとの連携やプライバシー、規制、ビジネス機会への影響を整理している。
【編集部後記】
スマホの次のコンピューティング体験が、本格的に動き出したタイミングにいま私たちは立ち会っているのかもしれません。画面に縛られないAIデバイスが当たり前になったとき、仕事や対話、移動時間の使い方はどう変わっていてほしいか、ぜひ一度イメージしてみてください。
「自分なら、どんな場面をAIに委ねて、どこは必ず人間でありたいか」。その線引きは、人それぞれまったく違うはずです。このニュースが、みなさん自身の答えを探すための小さなきっかけになればうれしいです。
























