KyndrylのエージェンティックAI×チェンジマネジメントが示す、働き方再設計の現実

[更新]2025年11月27日

KyndrylのエージェンティックAI×チェンジマネジメントが示す、働き方再設計の現実 - innovaTopia - (イノベトピア)

キンドリル(Kyndryl)は、エージェンティックAIを活用した人材戦略と顧客体験の変革を支援する新サービスを発表した。

Kyndryl Consultによるチェンジマネジメントと人材リスキリング、業務プロセス再設計の支援に加え、Kyndryl VitalがエージェンティックAIフレームワークとAIイノベーションラボを活用したUX設計を提供する。

2025年 Kyndryl Readiness Reportでは、経営幹部の87%が今後1年でAIが業務を完全に変革すると回答する一方で、従業員がAIを効果的に活用できると確信している経営幹部は29%にとどまることが示されている。新サービスはこのギャップを埋めるべく、グローバル製造大手やヘルスケア企業などに対して、人とAIエージェントの協働を前提とした組織構造やスキル設計、顧客・従業員体験の再構築を支援する。

From: 文献リンクKyndryl launches new agentic AI services to support agentic-driven workforce strategy, organizational change and AI-powered experiences

【編集部解説】

エージェンティックAIという概念はここ数カ月で一気に存在感を増していますが、今回のキンドリルの発表は、それを単なるバズワードにとどめず「組織と人材の設計」にまで踏み込んでいる点が印象的です。Kyndryl Agentic AI Frameworkを軸に、Kyndryl Consultが人材変革とチェンジマネジメントを、Kyndryl VitalがUXと体験デザインを担う構造になっており、「技術導入」と「働き方・文化の変化」を同じテーブルで扱おうとしている姿勢が見えます。

ここでいうエージェンティックAIは、ユーザーの入力を待つ従来の生成AIと異なり、自律的に状況を解釈し、業務や顧客体験のフローの中で先回りして動くAIエージェントを前提としています。そのため、影響は単なるツールの置き換えを超えて、職務定義や評価の基準、組織構造、さらには職場文化にまで及ぶ可能性があります。すでに海外では、エージェンティックAIを前提に「Agentic Enterprise」という新しい企業像を提案する動きも出てきています。

2025年 Kyndryl Readiness Reportが示す「87%」と「29%」というギャップは、多くの経営層がAIによる急激な変化を予期しながらも、現場の準備状況に不安を抱えていることを物語っています。このギャップを埋めるために、キンドリルは継続的なリスキリングプログラムや、デジタルワークフォースを前提とした業務プロセスの再設計をセットで提供しようとしています。AIをいかに「投資対効果の高い現場の変化」に変換するかが、次の勝負どころになりつつあります。

ポジティブな側面としては、AIエージェントを組み込んだプロセス設計によって、人間の社員が単純作業から解放され、判断や創造、関係構築といった領域により多くの時間を割ける可能性が高まる点が挙げられます。特に製造業やヘルスケアのように、現場での判断と安全性が重要なドメインでは、「人+エージェント」の組み合わせが新しい標準になっていくかもしれません。一方で、職務の再定義やスキル要件の変化は、人事制度や労働慣行との摩擦を生む可能性があり、現場と対話しながら進めることが不可欠です。

また、エージェンティックAIがユーザーの行動を先回りしてガイドする設計は、行動ログや業務データの収集・分析を前提とするケースが多くなります。これに伴い、プライバシー保護や監視の度合いに関する懸念にも向き合う必要が出てきます。サイバーセキュリティの分野では、すでにエージェンティックAIを攻撃検知やインシデント対応に用いる議論が進んでおり、技術的なリスクと組織的なリスクをセットで考える視点が求められています。

長期的に見ると、キンドリルが提供するようなフレームワークやサービスレイヤーは、「AIネイティブ組織」への移行を支えるインフラのような位置付けになっていきそうです。他のグローバルプレイヤーも類似の枠組みを打ち出し始めており、差別化の焦点は「どれだけ現場の学習と文化変容までデザインできるか」に移りつつあります。日本企業にとっても、PoC止まりのAIプロジェクトを量産するのではなく、人材戦略と職務設計を含めた全体設計としてAIを捉え直すきっかけになるリリースだと感じます。

【用語解説】

チェンジマネジメント
新しいテクノロジーや業務プロセスの導入時に、組織構造、人材、文化などの変化を計画的に管理し、定着させるためのマネジメント手法の総称である。

デジタルワークフォース
人間の従業員に加え、AIエージェントや自動化ツールなどのデジタルな「働き手」を含めて設計された労働力全体を指す概念である。

UX(ユーザーエクスペリエンス)
ユーザーが製品やサービスを利用する際に得る体験全体を指し、操作性や分かりやすさ、感情面の印象などを含む概念である。

Kyndryl Readiness Report 2025
Kyndrylが経営層を対象に実施した調査レポートで、AI投資の状況、仕事や組織への影響、従業員の準備状況などを数値で示しているものである。

【参考リンク】

Kyndryl(キンドリル)公式サイト(外部)
エンタープライズ向けインフラ運用やクラウド、セキュリティ、AIサービスを提供するKyndrylの日本語公式サイトである。

【参考動画】

【参考記事】

Kyndryl Agentic AI Framework(外部)
エージェンティックAIフレームワークの全体像と、エンタープライズ環境で人とAIエージェントが協働するための設計思想やガバナンス方針を解説している。

Kyndryl Readiness Report:AIは早期に成果をもたらし、企業を転換する(外部)
経営幹部の87%がAIによる業務変革を予測する一方で、従業員の準備不足や文化面の課題を数値で示し、AI投資と人材戦略のギャップを整理している。

Kyndryl Services Boost AI Workforce Transformation Index(外部)
AI Workforce Transformation Indexの観点から、87%と29%といった指標を用いて、KyndrylのサービスがAI時代の人材変革ニーズにどう応えているかを解説している。

【編集部後記】

エージェンティックAIが前提になると、「AIに何をさせるか」だけでなく、「自分たちの仕事やチームのあり方をどう変えるか」を考える時間が増えていきます。もし、あなたの現場にAIエージェントを一つだけ導入できるとしたら、どんな業務を任せてみたいでしょうか。あるいは、次の世代に残したくないと感じる“消耗する仕事”をどこまでAIに委ねたいかという視点で想像してみるのも面白いと思います。

今回のKyndrylの取り組みは、「AIネイティブな組織」に近づいていく過程そのものです。この記事が、みなさんのキャリアや組織のこれからを考える小さなきっかけになれば嬉しいです。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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