KDDI株式会社と株式会社KDDI総合研究所は2025年11月26日、人間の応対を学習し高精度に再現するAIエージェントを発表した。
本AIエージェントは、過去の応対履歴から応対パターンを抽出・構造化し、社内マニュアルを用いた自律的な情報収集とファクトチェックにより、ハルシネーションを抑制しながら応対文を生成する仕組みである。auチャットサポート窓口では、AIチャットボットで対応しきれない難易度の高い問い合わせを対象に導入され、回答精度約90%を実現するとともに、お客さま一人あたりの応対時間を従来比で約70%削減できる見込みとされている。
本AIエージェントは汎用パッケージとして設計されており、社内の他部署や他業種、グループ会社への横展開、さらに商用提供も視野に入れている点が特徴である。
From:
世界初、人間の応対を学習し高精度に再現するAIエージェントを開発

【編集部解説】
今回のAIエージェントは、「FAQボットの高性能版」ではなく、人間スタッフの応対そのものを学習し直感的な判断や段取りを取り込もうとする試みです。一般的なRAGベースのチャットボットはマニュアル検索が中心ですが、この仕組みはまず過去の応対履歴から「どう進めるか」という流れをパターンとして取り出し、その上で不足情報をマニュアルから補いながらファクトチェックする構造を取っています。
注目したいのは、難易度の高い問い合わせで回答精度約90%、応対時間約70%削減という成果が、公表されていることです。ここには、単にLLMの性能に依存するのではなく、「人間の暗黙知をどう機械学習に載せるか」「情報源の混線で生じるハルシネーションをどう抑えるか」という、現場実装ならではの課題に正面から取り組んできたKDDI総合研究所の研究の積み上げが見えてきます。
一方で、AIエージェントが高度になるほど、現場には新しいスキルセットが求められます。問い合わせへの回答を一から作成する負荷が減る一方で、「AIが提示したプロセスの妥当性を瞬時に検算する能力」が問われるようになります。これは、業務効率化と引き換えに失われがちな「人間の思考体力」をどう維持するかという、AI時代の組織マネジメントの課題でもあります。
また、KDDIとNICTが共同で進める日本語LLM研究の文脈を踏まえると、今回の技術はコンタクトセンターだけで終わらない可能性があります。通信品質の最適化、ネットワーク運用、地理空間データの解釈など、よりインフラ寄りの領域でも「自律的に調べて判断するAIエージェント」がフロントに出てくるシナリオは十分に考えられます。
そうなったときに問われるのは、「AIの判断プロセスがどこまで検証可能か」「責任の所在をどこに置くか」というガバナンス設計です。ハルシネーション抑制技術は、その前提として欠かせない要素ですが、それでもゼロにはならない以上、どのレベルまでAIに裁量を与えるのか、どのレベルから人間の確認を必須にするのかという線引きは、今後の制度設計や業界ガイドラインの議題になっていくはずです。
【用語解説】
ハルシネーション
大規模言語モデルなどの生成AIが、事実と異なる内容や根拠のない情報をもっともらしく生成してしまう現象のことだ。
RAG(Retrieval-Augmented Generation)
外部のナレッジベースやマニュアルから関連情報を検索し、その結果を踏まえて生成を行うことで回答の正確さを高める手法の総称だ。
暗黙知
マニュアルや手順書に明示されていないが、オペレーターが経験の中で身につけた判断基準や応対ノウハウを指す概念だ。
【参考リンク】
KDDI株式会社(外部)
auブランドを含む通信サービスや各種ネットワーク事業をグローバルに展開する日本の大手通信事業者。
株式会社KDDI総合研究所(外部)
AIやネットワーク、光通信、セキュリティなどの先端技術研究と社会実装を担うKDDIグループの研究開発機関。
auチャットサポート(外部)
AIチャットボットと有人スタッフが連携し、au利用者の各種問い合わせにチャット形式で対応するオンラインサポート窓口。
応対自動化を支援するAIエージェントの開発(外部)
本AIエージェントのアーキテクチャや評価結果、汎用パッケージ化の狙いについてKDDI Tech noteが詳しく解説している。
NICTとKDDI、大規模言語モデルに関する共同研究を開始(外部)
Webデータとハルシネーション抑制技術を組み合わせた日本語特化LLMの共同研究内容と応用領域を紹介している。
【参考動画】
【参考記事】
KDDI、ユーザー問い合わせをAI応対 ヒトの業務時間を7割削減(外部)
AIエージェントがAIチャットボットでは難しい問い合わせに対応し、オペレーターの業務時間を約7割削減し得る点を中心にレポートしている。
KDDI、顧客対応に新型「AIエージェント」 応対時間7割減(外部)
問い合わせの一部を新型AIエージェントが支援することで、回答精度と時間削減の両面からコンタクトセンター改革を解説している。
KDDI、ハルシネーションを起こしにくいAIエージェントを開発(外部)
ハルシネーションを抑えつつ回答精度約90%を達成した技術的背景と、従来型RAGでは難しかった問い合わせをどう扱っているかを紹介している。
NICTとKDDI、ハルシネーションを抑えたLLMを共同研究(外部)
日本語特化LLMとハルシネーション抑制技術の共同研究内容や、通信・地理空間分野への応用可能性を示す背景情報として参考になる。
【編集部後記】
今回のAIエージェントの話は、「人間の仕事を奪うAI」ではなく、「人とAIがどう役割分担していくか」をあらためて考えさせてくれるきっかけだと感じています。もし、あなたの現場にも同じような仕組みが入るとしたら、どんな業務をAIに任せて、どんな判断は自分たちで握っておきたいでしょうか。
問い合わせ対応に限らず、日々のタスクの中で「ここはAIが得意そう」「ここは人のほうが良さそう」と思う場面を一度棚卸ししてみると、自分なりの“AIとの距離感”が少しクリアになっていくのかもしれませんね。
























