大阪大学・IFReCが牽引「制御性T細胞」発見と坂口志文氏のノーベル賞受賞|免疫学の革命と未来医療

 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年10月6日、ノーベル生理学・医学賞の受賞者が発表された。この栄誉を手にしたのは、大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任教授・坂口志文氏、米国の研究者であるメアリー・E・ブランコウ氏、フレッド・ラムズデル氏の3名。

坂口氏は免疫反応を抑制する「制御性T細胞(Treg)」の発見とその作用機構の解明で世界的評価を受け、日本のノーベル生理学・医学賞の受賞は2018年の本庶佑氏以来、6人目となった。

制御性T細胞は、自己免疫疾患やアレルギー、がんなどの治療に新しい道筋を拓く存在。「免疫のブレーキ役」と評され、基礎科学から未来医療へと橋を架けた大発見となった。この記事では、坂口氏の研究人生、その哲学、制御性T細胞の本質と応用、SNSの市民の声、海外での報道まで多角的に深掘りする。

科学の通説を覆す生き様

坂口氏は滋賀県で育ち、「絵描き」や「哲学者」に憧れた少年時代を過ごした。徹底的に自分なりに考え抜く力と、医学部での基礎科学への疑問が「免疫システムの暴走を防ぐ鍵」への執着を生んだ。既存研究への違和感から始まった独自の仮説は、米国留学時代の苦難にも屈せず、妻・教子さんと小さなチームで地道な証明を積み上げることで実を結んだ。「胡散臭い」と言われ資金難の時期でも、「自分は間違っていない」と励んだ楽天的な性格と家族の絆が今回の快挙を生んだ。

制御性T細胞(Treg)とは

制御性T細胞(Treg)は、体内の免疫反応を“ブレーキ”として調整し、自己攻撃を防ぐ特殊な細胞。1995年に坂口氏が初めてその存在を示し、2003年には「FOXP3」という遺伝子がTregの核となることが判明した。Tregは過剰な免疫反応を抑え、自己免疫疾患・アレルギーを予防する一方、がん細胞には“用心棒”として働くという二面性も持つ。

最新テクノロジーでTregの機能制御が進み、患者個々へカスタマイズできる未来医療への応用が拡がっている。

免疫学史とイノベーション

日本では北里柴三郎の抗毒素発見など世界的な業績があるが、坂口氏が「制御性T細胞」の概念を提唱した1982年の論文発表は、当初ほとんど注目されませんでした。しかし1995年、坂口氏がその目印となるCD25分子を発見したことで状況は一変します。この発見により、誰もが制御性T細胞を特定できるようになり、FOXP3分子マーカーの発見や、CRISPR・AIといった新技術の活用へと繋がる道が拓かれ、現代免疫学の新常識となりました。

海外ニュースの報じ方

欧米の主要メディアは「Human immune system’s ‘brake’ discovered ― How self-destruction is avoided」といった論調で、基礎科学から最先端医療につながる「大発見」に喝采。ReutersThe New York Timesは「真理は時とともに変わる」「地道な基礎研究が世界の医学を動かした」と長期的視点から坂口氏の業績を称賛しました。FOXP3発見のインパクトや国際共同研究の意義も大きく報じ、「今後はAIなど新技術を使った個別化医療への応用が期待できる」と未来展望に言及する報道も目立ちました。

SNSから見える“市民の声”

SNS・X(旧Twitter)では、速報直後から日本各地・世界から祝福、称賛、感動、ユーモアまでバラエティー豊かな声が広がりました。「科学のロマン」「一つのことをやり続けて偉業になる」など努力の蓄積を讃える意見や、「制御性T細胞」など専門用語を分かりやすく解説・勉強しようとする流れも顕著でした。

一方で、メディアの報道への不満や、社会的意義への疑問といった批判も一部見られ、ノーベル賞の“権威”や日本の研究環境を考え直す声につながっています。SNSはこのニュースを“学び”や“次のイノベーション”へと受け手自身の行動に変えていく場となっています。

【用語解説】

制御性T細胞(Treg)
免疫システムの過剰な反応にブレーキをかけ、自己免疫疾患やアレルギーを防ぐ特殊なT細胞。

FOXP3
制御性T細胞が機能するために必須のマスター遺伝子。

自己免疫疾患
免疫系が自己を誤認し攻撃することで生じる疾患群。

免疫寛容
免疫系が自己組織に過剰反応しないよう制御されている状態。

免疫学
生体防御機構の仕組みを扱う生物学・医学の学問分野。

ノーベル生理学・医学賞
スウェーデンのカロリンスカ研究所が選考する医学・生理学分野の世界最高権威の賞。

【参考リンク】

Karolinska Institutet(カロリンスカ研究所) (外部)
世界的な医学研究機関でノーベル生理学・医学賞の選考組織。

大阪大学 (外部)
坂口志文氏が所属する、日本を代表する国立総合大学。

IFReC 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 坂口研究室 (外部)
坂口志文教授による制御性T細胞研究拠点の公式情報。

【参考記事】

Japanese immunologist among three Nobel medicine prize winners for immune tolerance research (外部)
坂口氏の経歴、研究成果、制御性T細胞発見の意義を国際的視点で解説。

Nobel Prize 2025: Three scientists share Physiology or Medicine prize for breakthrough in peripheral immune tolerance (外部)
ノーベル賞の受賞内容と国際協力の意義、制御性T細胞発見の科学・医療的インパクトを解説。

US and Japanese scientists win 2025 Nobel Prize in medicine for immune tolerance research (外部)
受賞発表の概要と、免疫寛容の仕組みと疾患治療への展開を紹介。

Shimon Sakaguchi wins Nobel Prize in Physiology or Medicine
坂口氏の業績と現代免疫学への応用をアジア・グローバル視点で考察。

Foxp3 orchestrates reorganization of chromatin interactions during regulatory T cell specification (外部)
FOXP3遺伝子の分子機能解明など制御性T細胞の研究基礎を詳述。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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