NTT西日本「VOICENCE」始動、声優・俳優の声をIPとして保護する音声AIプラットフォーム

[更新]2025年10月29日14:05

NTT西日本「VOICENCE」始動、声優・俳優の声をIPとして保護する音声AIプラットフォーム - innovaTopia - (イノベトピア)

NTT西日本は2025年10月27日、声優・俳優・アーティスト・芸人などの実演家の声の権利を守り、声の価値を高める音声AI事業「VOICENCE(ヴォイセンス)」を開始した。

社内独立組織「VOICENCEカンパニー」を設置し、事業責任者にはCEO花城高志が就任した。

事業内容は、NTT人間情報研究所の音声処理技術を活用したAI音声合成と、パブリックブロックチェーンとVC(Verifiable Credentials)を用いた独自のトラスト技術による音声IPライツマネジメント機能の提供である。

音声コンテンツ企画・制作機能も担い、企業のブランディングやプロモーション、観光向けコンテンツ、多言語配信などを一貫してプロデュースする。多言語変換は日本語、英語、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語の6カ国語に対応する。

3年目に売上10億円、5年目に100億円規模の事業成長を目指す。

From: 文献リンクNTT西日本が”声の権利”を守り、”声の価値”を高める音声AI事業「VOICENCE」を開始

【編集部解説】

このニュースが重要なのは、日本における「声の権利」という法的空白地帯に、民間企業が技術的ソリューションで先手を打った点にあります。

現在の日本では、声優や俳優の「声」を直接保護する法律が存在しません。肖像権やパブリシティ権の一部で対応できるケースもありますが、声そのものの権利保護は法整備が遅れている状況です。生成AIの急速な発達によりフェイク音声が登場し、その拡散が社会問題化する中で、実演家の権利保護は喫緊の課題となっています。

VOICENCEの技術的な核心は、ブロックチェーンとVerifiable Credentials(VC)を組み合わせた「トラスト技術」です。これにより、AI生成された音声に「真正性の証明」を付与し、無断生成された音声と明確に区別できるようにしています。改ざん耐性のある分散型台帳でデータの親子関係を追跡可能にすることで、音声IPの出所と利用履歴を透明化する仕組みです。

この事業の影響範囲は多岐にわたります。実演家にとっては、物理的な収録稼働に制限されない収益機会の創出が期待できます。企業側は、ブランディングやインバウンド観光促進、グローバル展開の障壁を下げる手段として活用可能です。特に6カ国語対応のクロスリンガル技術により、アニメやゲームなどジャパンコンテンツの海外展開が加速する可能性があります。

一方で、潜在的なリスクも存在します。「公認AI音声」の定義やその真正性証明が、どこまで法的拘束力を持つかは未知数です。また、ブロックチェーン上に記録される音声IPのデータ管理や、プラットフォーマーとしてのNTT西日本の中立性確保も長期的な課題となるでしょう。

注目すべきは、NTT西日本が社会情報研究所と連携し、声の権利保護に関する法律家や行政との対話を進めている点です。技術的ソリューションの提供だけでなく、業界ルールの策定や法整備への働きかけも視野に入れています。これは、デファクトスタンダードの確立を目指す戦略的な動きと言えます。

3年目に売上10億円、5年目に100億円という目標は、音声市場の1兆円規模への拡張というビジョンの一部です。国内コンテンツ産業の市場規模が近年の代表的資料では約12.9兆円(2021)であることを考えると、声という資産の潜在的価値は極めて大きいと言えるでしょう。

【用語解説】

VOICENCE(ヴォイセンス)
NTT西日本が開始した音声AI事業の名称。「License(ライセンス)」と「Essence(本質)」を、Voice(声)に組み合わせた造語である。声の権利を守りながら、声を知的財産として管理・活用するプラットフォームを提供する。

音声IP(音声知的財産)
実演家から提供された音源データ、それを学習させ生成したAI音声モデル、そこから作成したAI音声およびコンテンツといった、音声に関連する知的財産全般を指す。

Verifiable Credentials(VC、検証可能な資格情報)
W3Cが標準化を進めるデジタル認証技術。デジタル資格情報に発行者の署名を付与し、改ざん耐性と真正性の検証を可能にする仕組みである。VOICENCEでは、音声IPの真正性証明に階層型VCを活用している。

トラスト技術
NTT西日本が独自開発した音声IPの真正性証明技術。パブリックブロックチェーンとVCを組み合わせ、データの改ざん耐性、トレーサビリティ(追跡可能性)、用途証明の3要素を実現する。特許出願中である。

クロスリンガル技術
NTT人間情報研究所が開発した、話者の声質を保ったまま一言語の音声から多言語の合成音声を生成できる技術。現在は日本語、英語、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語の6カ国語に対応している。

音声印象制御技術
話者の声色を保ったまま、印象や口調を変換できる技術。表現力の高い音声コンテンツ制作を可能にする。

【参考リンク】

VOICENCE公式サイト(外部)
NTT西日本が運営する音声AI事業VOICENCEの公式サイト。音声IPライツマネジメント機能と音声コンテンツ企画・制作機能を提供

NTT人間情報研究所(外部)
音声情報処理技術、音声合成AI技術、クロスリンガル技術などを研究開発し、VOICENCEの技術基盤を提供する研究機関

W3C Verifiable Credentials Data Model(外部)
W3Cが策定する検証可能な資格情報のデータモデル標準規格。VOICENCEのトラスト技術で採用されているVC技術の国際標準仕様

【参考記事】

「声の権利」を守れ NTT西、音声AI事業で狙う1000億円市場(外部)
10年後に1000億円規模のビジネス創出を目指すVOICENCE事業と、声の権利保護の法的課題について詳しく解説する記事

NTT西日本、AI音声の開発支援 ブロックチェーンで信頼性確保(外部)
改ざんが困難なブロックチェーン技術で話者公認のAI音声を担保する仕組みと、安全なAI音声利活用環境づくりを促す取り組みを解説

NTT西日本、真正性証明技術にブロックチェーン採用の音声AI事業「VOICENCE」を開始(外部)
3年目に売上10億円、5年目に100億円規模の事業成長を目指す具体的な事業目標と、音声IPプラットフォームの詳細を報じる記事

NTT西日本、音声AI事業を開始 フェイク音声から権利守る(外部)
生成AIで声を無断利用した悪質なフェイク音声が問題となっている背景と、正規の音声利用を担保する「声の権利」保護の取り組みを報じる

【編集部後記】

AIが「声」を再現できる時代、あなたはどう感じますか?推しの声でパーソナライズされたメッセージを受け取れる未来は魅力的ですが、同時に無断複製のリスクとも隣り合わせです。

VOICENCEは「権利保護」と「新しい体験」の両立を目指す取り組みですが、こうしたプラットフォームが本当に実演家とファンの双方を守れるのか、それとも新たな格差を生むのか。声という人格の一部をデジタル資産として扱うことへの違和感も含め、みなさんはどう考えますか?技術と倫理、ビジネスと文化が交差するこの領域に、一緒に注目していきませんか。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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