株式会社Liquidは、JPYC株式会社が提供する国内初の日本円連動ステーブルコイン「JPYC」の発行・償還サービス「JPYC EX」において、オンライン本人確認サービス「LIQUID eKYC」のICおまかせパックによる公的個人認証(JPKI)を提供する。
これによりマイナンバーカードのICチップを活用した厳格な本人確認を実現し、2027年に予定されている犯罪収益移転防止法の改正にも対応する。
JPYC EXでは1円=1JPYCでJPYCをブロックチェーン上に発行し、日本円に戻すことが可能である。対応チェーンはAvalanche、Ethereum、Polygonで順次拡大予定だ。
LIQUID eKYCはeKYC市場シェア6年連続No.1で、ELEMENTSグループ合計の累計本人確認件数は約1.3億件、累計契約数は約600社である。
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国内初の日本円建ステーブルコイン「JPYC」の発行・償還サービスに「ICおまかせパック」で公的個人認証(JPKI)を提供

【編集部解説】
今回のニュースは、日本のブロックチェーン領域における2つの重要なトレンドが交差する地点を示しています。一つは10月27日に正式リリースされた国内初の円建てステーブルコイン「JPYC」の発行・償還基盤の整備、もう一つは2027年に予定されている犯罪収益移転防止法改正への先行対応です。
ステーブルコイン市場では現在、米ドル連動型が全体の99%以上を占めていますが、日本は2023年6月に改正資金決済法を施行し、世界に先駆けて包括的な規制枠組みを整備しました。これにより、JPYCは銀行預金と日本国債で完全に裏付けられた「電子決済手段」として、法的な安全性を確保した形で市場に登場しています。
本人確認の仕組みについても注目すべき変化が起きています。2027年4月の法改正では、これまで主流だった「ホ方式」(本人確認書類と顔写真の撮影による認証)が廃止され、マイナンバーカードのICチップを用いた公的個人認証(JPKI)への原則一本化が進められます。JPYC社がこの「ワ方式」を早期に導入した背景には、オンライン本人確認を悪用した不正口座開設などの犯罪が深刻化している現状があります。
LIQUID eKYCの「ICおまかせパック」は、ユーザーの端末環境を自動判定し、最適な認証経路へ誘導する点が特徴です。これによりマイナンバーカード対応端末を持たないユーザーでも段階的に移行できる仕組みを提供しており、2027年の完全移行までの過渡期に対応した設計といえます。
セキュリティ面では、公的個人認証は地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が発行する電子証明書を用いるため、偽造リスクが極めて低く、従来の撮影方式と比較して格段に厳格な本人確認を実現します。これはステーブルコインという新しい金融インフラに求められる信頼性の基盤となるでしょう。
一方、課題も存在します。マイナンバーカードの普及率は向上しているものの、すべての国民が対応端末を持つわけではありません。また、実際の利用シーンがどこまで広がるかは未知数です。現状では数社が導入意向を示すにとどまっており、決済インフラとしての普及には時間を要する可能性があります。
今回の取り組みは、規制対応と技術革新を両立させながら、日本独自のデジタル資産エコシステムを構築しようとする試みです。世界的に見てもステーブルコイン規制の先進国である日本が、今後どのようなモデルを示していくのか注目されます。
【用語解説】
ステーブルコイン
法定通貨や金などの資産に価値が連動するように設計された暗号資産。価格変動が激しい一般的な暗号資産と異なり、安定した価値を保つことを目的としている。JPYCは1円=1JPYCの比率で日本円に連動する。
公的個人認証(JPKI)
地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が発行する電子証明書を用いた本人確認の仕組み。マイナンバーカードのICチップに格納された電子証明書を読み取ることで、オンライン上で厳格な本人確認を実現する。
eKYC
Electronic Know Your Customerの略で、オンライン上で完結する本人確認手続き。従来は対面や郵送で行われていた本人確認をデジタル化し、スマートフォンなどで迅速に完了できる仕組みである。
犯罪収益移転防止法(犯収法)
マネーロンダリングやテロ資金供与を防止するため、金融機関等に顧客の本人確認義務を課す法律。2027年4月の改正では、オンライン本人確認の方式が厳格化され、公的個人認証への一本化が進む。
ホ方式・ワ方式
犯収法で定められた本人確認の方法。ホ方式は本人確認書類と顔写真の撮影による認証、ワ方式はマイナンバーカードのICチップを用いた公的個人認証を指す。2027年4月以降、ホ方式は原則廃止される。
電子決済手段
2023年6月施行の改正資金決済法で定義された新しい決済手段の分類。一定の要件を満たすステーブルコインが該当し、発行者には厳格な規制が適用される。
【参考リンク】
JPYC株式会社(外部)
国内初の日本円連動ステーブルコインJPYCを発行する企業。10月27日にJPYC EXプラットフォームを正式リリースした。
株式会社Liquid(LIQUID eKYC)(外部)
eKYC市場シェア6年連続No.1。累計本人確認件数約1.3億件、累計契約数約600社の実績を持つ。
Liquidの公的個人認証(JPKI)サービス(外部)
マイナンバーカードICチップによる公的個人認証サービス。ICおまかせパックで最適な認証経路を自動判定。
株式会社ELEMENTS(外部)
東証グロース市場上場(証券コード5246)。生体認証・画像解析技術を活用した個人認証ソリューションを提供。
デジタル庁:公的個人認証サービス(JPKI)(外部)
公的個人認証サービスの仕組みや導入事業者情報を掲載。2025年9月時点で811社が導入している。
【参考記事】
World’s first yen-pegged stablecoin debuts in Japan(外部)
ロイターによる報道。JPYCが円連動ステーブルコインとして10月27日にローンチ。現在のステーブルコイン市場は米ドル連動型が99%以上を占める。
Japan launches JPYC, world’s first yen-pegged stablecoin(外部)
JPYC CEOの岡部典孝氏が3年以内に10兆円の発行を目指していることを報道。現在7社が導入意向を示している。
【2027年4月改正予定】犯収法(犯罪収益移転防止法)とは(外部)
2027年4月施行の犯罪収益移転防止法改正の詳細を解説。ホ方式が原則廃止され、ワ方式への一本化が進む見込み。
米国で進むステーブルコインの規制整備(10):日本では初の円建てステーブルコインが発行開始(外部)
野村総合研究所による分析。日本が2023年に世界初の包括的なステーブルコイン規制を整備したことを解説。
Liquid、公的個人認証でJPYC発行を支援 マイナンバーカードで本人確認を効率化(外部)
2025年10月27日の発表に関する詳細報道。JPYC EXが2027年の犯罪収益移転防止法改正にも適合する体制を整備。
【編集部後記】
マイナンバーカードを使った本人確認と聞いて、どのような印象を持たれるでしょうか。セキュリティが強化される一方で、利便性が損なわれるのではないかと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
今回のJPYCとLiquidの取り組みは、2027年の法改正を見据えた先行事例として注目に値します。ステーブルコインという新しい金融インフラが、私たちの日常にどのように溶け込んでいくのか。国際送金の効率化、企業間決済のスピードアップ、あるいはまったく新しい利用シーンが生まれる可能性もあります。皆さんはこの技術に、どんな未来を期待されますか。
























