Klarnaは2025年11月25日、米ドル連動ステーブルコイン「KlarnaUSD」を発表し、StripeとParadigmが開発する決済特化型ブロックチェーンTempo上で2026年にローンチする計画を明らかにした。
トークンはStripe傘下のステーブルコインインフラであるBridgeを通じて発行され、現在テスト段階にある。Klarnaはスウェーデン拠点のデジタルバンクで、「buy now, pay later」サービスを軸に1億1,400万の顧客と1,120億ドルの年間GMVを持ち、今回の取り組みで年1,200億ドル規模とされるクロスボーダー決済手数料の削減を狙う。
Tempoはステーブルコイン決済に特化したレイヤー1チェーンとして高スループットと低レイテンシを特徴とし、KlarnaUSDはこのインフラを用いて国境をまたぐ送金・決済のスピードとコストを改善することを目指している。
From:
Swedish Buy Now, Pay Later Giant Klarna Rolling Out Stablecoin with Stripe’s Bridge
【編集部解説】
KlarnaUSDは、「BNPLのKlarna」が次のステージとしてグローバル決済インフラへ踏み出したことを象徴する動きです。これまでKlarnaは、カードネットワークや銀行インフラの上に自社のUXレイヤーを重ねるプレイヤーでしたが、TempoとBridgeを組み合わせることで、裏側のレールそのものをステーブルコインベースに置き換えようとしています。これは単なる新トークン発行ではなく、「どの決済レイヤーに乗るか」を巡る再編の一手と見るべきです。
Tempoは最初からステーブルコイン決済向けに設計されたブロックチェーンであり、高トランザクション処理性能とサブセカンド級の確定性を前提にしています。さらに、ガス代としてネイティブトークンではなくステーブルコインを使える設計により、従来のパブリックチェーンで課題だった「ガス用トークンを別途用意するコストとUXの悪さ」を避けようとしています。Klarnaにとっては、既にStripeが処理している自社決済フローの一部をTempo側にスイッチしやすく、ユーザー体験を変えずにバックエンドだけを段階的にモダナイズできるのが実利です。
マクロで見ると、Western UnionがSolana上でUSDPTを発行しようとしているように、大手送金・決済プレイヤーの間で「カード+SWIFT」から「ステーブルコイン+専用チェーン」への移行が本格的に始まりつつあります。KlarnaはTempo、Western UnionはSolanaというように、それぞれが「どのチェーンをホームにするか」を選び始めており、2026年前後はこのレイヤー選択が競争優位性を左右するフェーズになりそうです。ステーブルコインが投機商品ではなく、巨大な決済・送金インフラのベースレイヤーとして組み込まれ始めているという視点です。
ポジティブな側面としては、1億1,400万の顧客と1,120億ドルGMVという規模を持つKlarnaが、本気でステーブルコイン決済をプロダクションに乗せようとしている点が挙げられます。これは中小ECにとって、より低コストかつ高速なクロスボーダー決済手段が現実味を帯びてくることを意味します。一方で、Tempoのような新興チェーンは、セキュリティや分散性、規制との折り合いといった面でまだ検証途上です。とくに、自前ステーブルコインを持つ決済プラットフォームが巨大化すると、そのエコシステム内での「閉じたドル経済圏」が強まり、他行や地域金融との関係、規制当局との力学にも影響を与える可能性があります。
規制面では、米国やEUを中心にステーブルコインへの枠組み作りが進んでいるものの、国ごとに扱いはまだ揃っていません。銀行ライセンスを持つKlarnaがTempo上で発行するデジタル負債を各国の監督当局がどう位置付けるかは、今後の事例蓄積とルールメイキングに大きく依存します。逆に言えば、今回のKlarnaUSDは「銀行+フィンテック+専用ブロックチェーン」という新しい組み合わせのテストケースであり、ここから得られるフィードバックが次世代の決済規制の形を左右していくはずです。
【用語解説】
KlarnaUSD
Klarnaが発行する米ドル連動型ステーブルコイン。Tempoブロックチェーン上でBridgeのOpen Issuance基盤を用いて発行・償還される。
ステーブルコイン
米ドルなどの法定通貨や国債などを裏付け資産とし、価格変動を抑えた暗号資産の総称。国際送金や決済インフラとしての活用が進む。
Tempoブロックチェーン
決済ユースケースに特化して設計されたレイヤー1ブロックチェーン。高スループットと低レイテンシ、ステーブルコイン建ての手数料支払いを特徴とする。
Bridge / Open Issuanc
企業が自社ステーブルコインを発行・管理できるステーブルコインインフラ。準備金管理や流動性、相互交換性などをAPIで提供する。
クロスボーダー決済手数料
国境をまたぐ送金・決済で銀行や決済ネットワークに支払われる各種手数料の総称。年1200億ドル規模と推計されている。
【参考リンク】
KlarnaUSD公式プレスリリース(外部)
ステーブルコインKlarnaUSDの概要と市場規模27兆ドルの背景を説明する公式発表。
Tempo公式サイト(外部)
決済特化型レイヤー1ブロックチェーンTempoの設計思想とユースケースを紹介している。
Bridge公式サイト(外部)
企業向けステーブルコインインフラとOpen Issuanceの仕組みを解説する開発者向けサイト。
Stripe: Using stablecoins for payments(外部)
事業者がステーブルコインを決済に活用する際のメリットと導入パターンを整理したドキュメント。
Introducing Open Issuance from Bridge(外部)
Open Issuanceプラットフォームの機能と、複数ステーブルコイン間の相互運用性について説明している。
Tempo: The Blockchain Designed for Payments(外部)
Paradigmの視点からTempoの設計と決済向け最適化のポイントを解説する技術記事。
【参考記事】
Klarna Launches KlarnaUSD as Stablecoin Transactions Hit $27 Trillion Annually(外部)
KlarnaUSDの発表内容、TempoとBridgeの位置づけ、ステーブルコイン取引高27兆ドルやクロスボーダー手数料1,200億ドルなどの数値を整理した記事。
Klarna Launches KlarnaUSD as Stablecoin Transactions Hit $27 Trillion Annually – FF News(外部)
KlarnaUSDがTempo上でローンチされる背景と、国際送金コスト削減や決済スピード向上の狙いをまとめたクリプト・フィンテック系メディアの記事。
Klarna launches stablecoin, partners with Stripe on blockchain payments – Investing.com(外部)
Stripeとの提携関係や、CEOが過去に暗号資産に懐疑的だった経緯、ステーブルコインへの方針転換を補足するレポート。
Klarna Launches Stablecoin on Tempo Blockchain – Coinspeaker(外部)
Tempoの技術的特徴やステーブルコイン市場の成長性とあわせて、KlarnaUSDのローンチ意義を整理した記事。
【編集部後記】
BNPLプレイヤーとして見てきたKlarnaが、「自前のドルレールを持つ存在」に変わろうとしていることに、時代の流れを強く感じます。決済の世界では、これまでカードブランドやSWIFTが「見えないインフラ」として支配的でしたが、そこにステーブルコインと専用ブロックチェーンという新しい選択肢が本格的に入り込んできました。
数年後、「この支払いって、どのチェーンを通ってるんだっけ?」と意識しなくなるくらい、ステーブルコイン決済が当たり前になっている可能性もあります。そのとき自分のビジネスやキャリアが、どのレールの上に立っていると良いのか。一度、KlarnaUSDやTempoのような動きを起点に、身近な決済体験を俯瞰してみても面白いかもしれません。
























