Mozillaは、同社のコミュニティプラットフォーム「Mozilla Connect」にて、Firefoxブラウザに組み込む無料VPN機能のベータテストを開始すると発表しました。
2025年10月14日のThe Registerの報道によると、この「Firefox VPN」は開発初期段階の実験的機能で、今後数ヶ月間にわたりランダムに選ばれたデスクトップ版ユーザーがテストを行います。
この機能は検索バーの横に配置され、WebトラフィックをMozilla管理のVPNサーバー経由でルーティングし、ユーザーのIPアドレスを隠蔽します。Firefox VPNは既存の有料製品「Mozilla VPN」とは別のプロジェクトで、無料かつブラウザ内のみで動作するのが特徴です。有料のMozilla VPNは、システム全体を保護し最大5台のデバイスで利用できます。
テスト参加者はMozillaアカウントへの登録が必要で、VPN接続先は最高のパフォーマンスを提供する場所が自動選択されます。プライバシーポリシーについて、Mozillaは(有料版VPNと同様の方針であれば)ユーザーの一時的なログを短期間保持する可能性があるものの、訪問サイトや通信内容自体は記録しない方針と見られます。
From: Mozilla recruits beta testers for a built-in Firefox VPN
【編集部解説】
MozillaがFirefoxに無料VPNを組み込むというこの発表は、ブラウザの基本機能としてプライバシー保護を提供しようとする大きな方向転換を示しています。これまでVPNは追加のアプリケーションやブラウザ拡張機能として提供されるのが一般的でしたが、Firefoxはこれをネイティブ機能として統合することで、ユーザーが意識せずともプライバシーを守れる環境を目指しています。
注目すべきは、この機能が既存の有料サービス「Mozilla VPN」とは完全に別プロジェクトである点です。Firefox VPNはブラウザ内のトラフィックのみを保護する一方、Mozilla VPNは複数デバイスで利用できる包括的なサービスという棲み分けがなされています。この戦略は、ライトユーザー向けの無料層と、より高度な保護を求めるユーザー向けの有料層という二層構造を作り出すものと言えるでしょう。
プライバシーポリシーの透明性も評価できる要素です。ログは3ヶ月で自動削除され、訪問サイトや通信内容は記録しないという明確な方針は、プライバシー重視のFirefoxらしいアプローチと言えます。
一方で潜在的な課題も存在します。記事中で言及されているように、VPN接続先が自動選択される仕様は、地域制限コンテンツへのアクセスには使えないことを意味します。また、英国のオンライン安全法を巡る議論が示すように、VPNは年齢確認システムの回避手段として問題視される可能性があります。RedditやYouTubeなどの主要プラットフォームがすでにVPNトラフィックのブロックに動いている現状を考えると、この機能がどこまで実用的に機能するかは未知数です。
長期的には、この取り組みがブラウザ市場全体に影響を与える可能性があります。ChromeやEdgeといった競合ブラウザも同様の機能を検討せざるを得なくなるかもしれません。Mozillaが掲げる「市場で最高のVPN統合ブラウザ」というビジョンが実現すれば、プライバシー保護が標準装備となる新しいブラウザの時代が到来するでしょう。
【用語解説】
VPN(Virtual Private Network)
仮想プライベートネットワークの略。インターネット通信を暗号化し、ユーザーのIPアドレスを隠蔽することでプライバシーとセキュリティを向上させる技術である。公衆Wi-Fiなどの安全性が低いネットワークでも安全に通信できる。
IPアドレス
インターネット上でデバイスを識別するための番号。ユーザーの所在地や利用しているプロバイダーなどの情報が含まれるため、プライバシー保護の観点から隠蔽したいニーズがある。
Mozilla Connect
Mozillaが運営するアイデア共有プラットフォーム。ユーザーからのフィードバックや新機能の提案、ディスカッションが行われるコミュニティスペースである。
オンライン安全法(Online Safety Act)
英国で2023年に成立した法律。オンラインプラットフォームに対し、有害コンテンツの削除や未成年者保護のための年齢確認などを義務付けている。
Ofcom
英国の通信規制機関。オンライン安全法の施行を監督し、違反したプラットフォームに対して罰則を科す権限を持つ。
地理的ブロック(Geo-block)
ユーザーの地理的位置に基づいてコンテンツへのアクセスを制限する技術。動画配信サービスなどで著作権やライセンス契約の関係から使用される。
【参考リンク】
Mozilla公式サイト(外部)
Firefoxブラウザを開発する非営利団体Mozillaの公式サイト。オープンソースとプライバシー保護を重視した製品開発を行っている。
Mozilla VPN公式ページ(外部)
Mozillaが提供する有料VPNサービス。月額4.99ドルから利用でき、最大5台のデバイスで同時接続が可能。
Firefox公式サイト(外部)
Mozillaが開発するオープンソースWebブラウザの公式サイト。プライバシー保護機能やトラッキング防止が特徴。
Mozilla Connect(外部)
Mozillaのコミュニティフィードバックプラットフォーム。ユーザーが新機能のアイデアを提案したり議論できる。
【参考記事】
New Experiment: Firefox VPN Beta – Mozilla Connect(外部)
2025年10月6日投稿のMozilla公式発表。Firefox VPNがデスクトップ版から開始され、モバイル版も将来展開予定。
Firefox is getting a built-in VPN – Neowin(外部)
Firefox VPNが既存のMozilla VPNとは別プロジェクトであることを強調し、無料でブラウザ内トラフィックのみ保護する点を解説。
Mozilla is testing Firefox VPN – gHacks(外部)
2025年10月10日付け記事。Firefox VPNのプライバシーポリシーの詳細について深く掘り下げている。
Firefox tests a free VPN – PCWorld(外部)
有料サービスMozilla VPNとの機能比較や、Firefox VPNがブラウザ統合型である点を詳しく説明している。
【編集部後記】
ブラウザに組み込まれた無料VPNという選択肢が登場することで、私たちのプライバシー保護の考え方も変わってくるかもしれません。これまで「VPNは設定が面倒」「有料サービスは敷居が高い」と感じていた方にとって、ブラウザを開くだけで使える無料機能は魅力的に映るはずです。
一方で、地域制限の回避には使えない仕様や、一部プラットフォームでのVPNブロックといった制約もあります。みなさんは普段、どのような場面でプライバシー保護を意識されていますか?カフェでの作業時、それとも特定のサイトを閲覧するとき?ご自身の使い方に照らし合わせながら、この新機能がどう役立つか考えてみるのも面白いかもしれませんね。