さくらインターネット株式会社は2025年10月30日、国内完結型の生成AI業務支援サービス「さくらのAIソリューション」の提供を開始した。
本サービスは生成AI向けクラウドサービス「高火力」上で、基盤モデルと業務アプリケーションを組み合わせた生成AIパッケージを提供し、顧客の要望に応じて開発から導入支援まで一気通貫で支援する。さくらインターネットが運営する国内データセンターの専有GPU環境によるセキュリティ性、月額固定の料金体系、パートナー企業と連携した伴走型のサポート体制を特長とする。
提供されるパッケージは社内チャット構築、プログラム開発支援、音声認識・文字起こしの3分野で、InfiniCloud AIは2025年11月、議事録パックは2025年11月、コード生成パックは2025年12月、開発ワークフローパックは2025年12月、neoAI Chat for さくらインターネットは2026年初頭、コンタクトセンターパックは2026年初頭の提供開始予定である。
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国内完結型の生成AI業務支援サービス「さくらのAIソリューション」を提供開始
【編集部解説】
さくらインターネットが発表した「さくらのAIソリューション」は、生成AIの企業利用における大きな転換点を示すサービスです。これまで生成AIの活用には、クラウド上のサービスに依存する課題がありました。データの国外流出、セキュリティ面での懸念、カスタマイズの困難さ、そして予測が難しいコスト変動です。このサービスは、これらの課題に正面から向き合う形で設計されています。
国内データセンターに設置された専有GPU環境という仕組みが、技術的な競争力を生み出しています。業務アプリケーションごとに専有GPUを整備することで、複数企業のデータが混在しない閉鎖環境を実現しました。このアプローチは、金融機関や官公庁といったセキュリティを最優先する組織のニーズに応えるものです。
月額固定料金の採用も、企業の経営判断を大きく変えます。従来のクラウドベースのAI活用では、使用量に応じて料金が変動し、コスト予測が困難でした。固定料金制により、企業は安心して予算を計上でき、ROI(投資対効果)の検証がしやすくなります。
提供される各パッケージの組み合わせが興味深い点です。社内チャット構築では、InfiniCloud AIと neoAI Chat for さくらインターネット(株式会社neoAIと双日テックイノベーション株式会社による)という2つのソリューションを用意することで、企業規模や要件に応じた選択肢を確保しています。プログラム開発支援やコンタクトセンター業務など、実務的なユースケースに特化したパッケージは、抽象的なAI導入ではなく、具体的な業務課題の解決を目指す姿勢を反映しています。
開発からPoC、運用サポートまでの伴走型支援も、重要な差別化要因です。多くの企業にとって、生成AIの導入には技術的な知見の不足が障壁となっています。このサービスは、その障壁を低くすることで、より多くの組織にAI活用の機会を提供しようとしています。
国内完結型という標榜は、政策的な背景も含んでいます。日本国内でのAI開発・活用の循環を作ることで、技術と雇用の国内留保を目指す動きです。2025年10月下旬には、KDDI、さくらインターネット、ハイレゾが「日本GPUアライアンス」を設立し、GPU資源の安定供給を図るなど、業界全体で国産基盤の強化を進めています。
一方、潜在的なリスクも存在します。専有GPU環境は高度なセキュリティを提供する一方で、水平スケーリングの柔軟性が限定される可能性があります。また、固定料金制は予測可能性を提供しますが、実際の利用パターンがこのモデルに適さない企業にとっては、かえってコスト負担が重くなる可能性も考慮が必要です。
このサービスの本質は、生成AIの民主化と国産化を同時に実現することにあります。テクノロジーのアーリーアダプターや先端的な企業にとって、このような選択肢の存在は、戦略的な自由度を広げるものになるでしょう。
【用語解説】
LLM(Large Language Model)
数百億から数兆のパラメータを持つ、大規模な言語モデル。テキスト生成、質問応答、翻訳など、多様な自然言語処理タスクに対応できる。
RAG(Retrieval Augmented Generation)
検索拡張生成と呼ばれる技術。外部データベースから関連情報を取得し、それに基づいてテキストを生成することで、LLMの精度と信頼性を向上させる手法である。
ベクトルデータベース
テキストや画像などの情報を数値の配列(ベクトル)に変換し、高次元空間での類似性検索に最適化されたデータベース。RAG技術において、関連する情報を高速に検索するために活用される。
PoC(Proof of Concept)
概念実証と呼ばれ、新しい技術やサービスが実際に機能するか、導入する価値があるかを実際に小規模で試験すること。本格導入前のリスク軽減に用いられる。
【参考リンク】
さくらインターネット 公式サイト(外部)
さくらインターネット株式会社のコーポレートサイト。企業情報、サービス紹介、ニュースリリースなどを掲載。
さくらのAI 公式ページ(外部)
生成AI向けビジネス基盤「さくらのAI」の公式ページ。基盤モデル、API、ベクトルデータベースなど。
さくらのAIソリューション 特設サイト(外部)
今回発表されたサービスの詳細情報と利用申し込みフォーム。各パッケージの概要が掲載。
InfiniCloud 公式サイト(外部)
自社専用型生成AI製品「InfiniCloud AI」を開発・販売。クラウド依存ゼロで専用AIを所有可能。
双日テックイノベーション株式会社(外部)
オンプレミス型生成AI基盤などの開発・提供。neoAIと共にAIチャット基盤構築を支援。
ガオ株式会社(外部)
システム開発・アプリケーション開発企業。開発ワークフローパック提供で生成AI環境構築支援。
【参考記事】
さくらインターネット、生成AI向け推論API基盤「さくらのAI Engine」を一般提供開始(外部)
2025年9月24日発表。推論API基盤が一般提供開始。本サービスの基盤を構成する重要な要素。
さくらインターネット、フルマネージドの生成AI向け実行基盤「さくらの生成AIプラットフォーム」を提供開始(外部)
2025年5月14日発表。国内完結型AI基盤構築の取り組みが既に始まっていたことを示す。
【編集部後記】
生成AIが業務に欠かせない存在になる中、皆さんの組織ではどんな課題に直面していますか?データをどこに預けるか、セキュリティは大丈夫か、導入にかかるコストは。こうした不安は、決して特別なものではありません。
今回のさくらのAIソリューションは、そうした現実的な悩みに向き合う選択肢として登場しました。国内完結型、月額固定、伴走支援という3つの特徴は、生成AIを「黒いボックス」から「手中の道具」に変えるかもしれません。自分たちの業務で、何ができるようになるのか。一緒に考えてみませんか。
























