日経株式会社は2025年11月5日、Slackへの不正アクセスが9月に確認されたと発表しました。従業員の個人PCがウイルスに感染し、Slack認証情報が漏洩したことが原因です。漏洩の可能性がある情報は、従業員およびビジネスパートナー合計17,368人分の名前、メールアドレス、チャット履歴です。
日経は同社ネットワークへ不正ログインがSlackを通じて発生したことを確認し、パスワード変更などの対策を実施しました。取材源または報道活動に関する情報の漏洩は確認されていません。
日経株式会社は日本最大級の経済ニュース企業であり、2015年にFinancial Timesを13億ドルで買収しています。同社は日経225指数を発表するほか、日刊販売部数170万部以上の日本経済新聞を発行しています。
日経は本インシデントを日本個人情報保護委員会に自発的に報告しました。
From:
Hackers infiltrate Nikkei via employee’s Slack account, 17K+ chat histories leaked
【編集部解説】
今回の日経Slack侵害事件は、単なる一企業のセキュリティインシデントではなく、現代のメディア企業が直面する重大な課題を浮き彫りにしています。事実として、従業員のマルウェア感染というエンドポイントの脆弱性が、組織全体のコミュニケーション基盤を危険にさらしたのです。このシナリオは、多くの企業で繰り返されている典型的な侵害の入口パターンであり、決して日経固有の問題ではありません。
ビジネスメッセージングプラットフォームであるSlackは、現在、世界中の企業において極めて重要なインフラとなっています。チャット履歴にはプロジェクト情報、戦略、人事情報、クライアント情報など、極めて機密性の高い内容が含まれることが多いです。17,368人分のチャット履歴が流出したという事実は、日経グループの組織内コミュニケーションの全体像が第三者に把握される可能性があったことを意味します。
特に注視すべき点として、日経は報道関連情報や取材源の漏洩がないと確認していることが挙げられます。これはジャーナリズム企業にとって極めて重要な防御線です。Slackの権限設定やデータセグメンテーションが機能していたことを示唆しており、組織的なセキュリティ対策が部分的には有効であったと言えます。同時に、これは「たまたま保護されていた」という脆弱性の不幸な露呈でもあり、より包括的な対策の必要性を指摘しています。
日経が日本個人情報保護委員会に自発的に報告した点は重要です。法的に義務付けられていない報告を行うことで、企業としての透明性とコンプライアンス姿勢を示しています。これは今後、同様の事案を扱う他の企業にも問われる基準となる可能性があります。
今後の課題として、エンドポイント保護の強化、ゼロトラストセキュリティアーキテクチャの導入、そしてSaaSアプリケーション全体のアクセス制御の見直しが急務であると言えます。メディア企業においては、情報セキュリティが競争力の源泉であり、ブランド信頼性そのものです。
【用語解説】
マルウェア
コンピュータに不正な動作を引き起こす悪意のあるソフトウェア。ウイルス、ワーム、トロイの木馬などが含まれます。
認証情報
ユーザーがアプリケーションやシステムにアクセスする際に必要となるユーザー名、パスワード、トークンなどの情報。盗まれると第三者が不正アクセスできます。
ゼロトラストセキュリティ
従来の「内部ネットワークは安全」という前提を廃止し、すべてのアクセスを検証する現代的なセキュリティ戦略。
エンドポイント保護
PCやスマートフォンなどのデバイス(エンドポイント)を守るセキュリティ対策。マルウェア対策やウイルス対策が含まれます。
【参考リンク】
Nikkei Inc. 英語サイト(外部)
日経株式会社の公式英語ウェブサイト。企業情報とグローバルな事業内容が確認できます。
Slack公式サイト(外部)
ビジネスメッセージングプラットフォーム。エンタープライズセキュリティ機能の詳細が説明されています。
Financial Times(外部)
日経が2015年に買収した世界有数の経済紙。日経グループの主要メディアです。
日本個人情報保護委員会(外部)
日本の個人情報保護に関する監督機関。企業の報告義務に関する情報を提供しています。
【SNSでの反応】
※2025 11/5 10:00時点
■ 見出しと情報公開に関する批判
日経の報道内容よりも、発表方法や見出しのわかりにくさに対する指摘が多く見られました。ユーザーからは「タイトルが曖昧で誤解を招く」「どの企業が被害を受けたのかはっきり書くべき」という声が上がっています。
「ちゃんと日経新聞が不正アクセスを受けたという見出しを書け / “本社に不正ログイン、個人情報流出か 外部から『Slack』に – 日本経済新聞”」
「見出しだと全然わかんが、日経本社が利用しているSlackに不正ログインがあったという話だそうな」
「本社に不正ログイン、個人情報流出か 外部から『Slack』に – 日本経済新聞 … ミスリードを生むタイトルだけど、不正ログインを受けたのは日本経済新聞社。」
■ 発表の遅れに対する疑問
インシデント発生が9月であるのに対し、11月に公表された点について、企業のコンプライアンスや情報開示の適切性に対する懸念が示されました。
「9月?? 発表が遅すぎない? 日本経済新聞社、Slackに不正ログイン 約1.7万人分の情報流出の可能性」
「日経新聞、PCの『Slack』に不正アクセス 1万7000人分の情報流出か – 毎日新聞 … 9月のやらかしが、いま公表!?」
■ セキュリティポリシーの甘さを指摘
組織のセキュリティ対策そのものに対する批判もあり、個人PCでの業務アクセスの危険性、Slack上に保存される情報の機密性に関する指摘が見られました。
「日経は社員の個人PCから業務slackへのログイン認めてるのか。社内情報持ち出されたりしないのか? あとslackに個人情報はなるべく置くべきではない。」
■ 皮肉や疑問を含む反応
日経の報道能力に対する皮肉めいた指摘もありました。
「日経だからまた飛ばし記事だろって思ったら、まさか個人情報を外部に飛ばしていたなんて」
【参考記事】
Media giant Nikkei reports data breach impacting 17,000 people(外部)
BleepingComputerによる詳細な日経データ流出事件の報道。Nikkeiの過去のセキュリティインシデントにも触れています。
Nikkei Suffers Slack Breach After Employee PC Malware Infection(外部)
CyberInsiderによるNikkei事件の分析。マルウェア感染とSlack侵害の関連性を詳しく解説。
Nikkei struck by cyberattack after employee error(外部)
Digital Journalによる報道。従業員の行動とセキュリティリスクの関係性に焦点を当てています。
Security tips to protect your workspace – Slack(外部)
Slack公式の「ワークスペース保護ガイド」。二段階認証やアプリ管理など実践的なセキュリティ対策を紹介。
Slack Security Best Practices(外部)
Stracによる「Slack セキュリティベストプラクティス」。データ保護と漏洩防止の実装方法を詳しく解説。
【編集部後記】
今回の日経の事例を通じて、私たち自身のデジタルセキュリティについても改めて考える機会になるのではないでしょうか。世界的に大きなメディア企業であっても、従業員のPCから侵害が始まるという現実。
あなたの職場でも、あなた自身のデバイスでも、同じリスクは存在しています。この事案について「他人ごと」ではなく、組織やチームの一員として「自分ごと」として捉えることが、実は強固なセキュリティ文化へのステップになるのだと思いませんか。
























