台湾のTeamGroupは2025年11月20日、自己破壊機能を搭載した外付けSSD「T-Create Expert P35S」を発表した。
本製品は重量42g、サイズ90×40×18mmで、256GB、512GB、1TB、2TBの4容量で展開される。USB 3.2 Gen 2インターフェースを採用し、読み書き速度は最大1,000MB/秒である。
最大の特徴は、デバイス上部のスイッチによる2段階の自己破壊機能だ。スイッチを前方にスライドさせて赤い警告表示を出した後、押し下げることで高電圧回路を作動させ、NANDチップを電気的に焼損(物理破壊)し、データを完全に消去する。
TeamGroupはこれを「デュアルモードデータ破壊」と呼び、ソフトウェア消去と物理破壊を組み合わせることでデータ復旧を不可能にすると説明している。ただし、破壊プロセスを開始するにはPCまたはMacのUSBポートに接続する必要がある。価格と発売日は未公表である。
From:
Self-destructing portable SSD built to torch sensitive data
【編集部解説】
このTeamGroupの製品は、データセキュリティの世界において極めてニッチな、しかし重要な課題に取り組んでいます。通常、機密データの保護というと暗号化や指紋認証といった「アクセスを防ぐ」技術が注目されますが、P35Sは「物理的に破壊する」という最終手段に特化した点が特徴的です。
NANDフラッシュメモリの物理破壊は技術的に非常に困難な領域です。NANDセルは本来、データの耐久性を高めるよう設計されているため、単なる電気的消去では復元される可能性があります。TeamGroupが採用している「デュアルモードデータ破壊」は、ソフトウェアによる論理的消去加え、高電圧サージ(過電圧)を意図的に発生させ、コントローラーおよびNANDチップの回路自体を焼き切る方式と推測されます。
しかし、この製品には明確な制約があります。破壊プロセスを開始するには、デバイスをコンピューターのUSBポートに接続する必要があるという点です。これは電力供給のない緊急時の使用を想定した製品としては致命的な弱点といえるでしょう。
興味深いのは、この製品が暗号化機能を持たない点です。市場には既に、ハードウェア暗号化、指紋認証、テンキー入力などを備えた高セキュリティUSBドライブが存在しています。これらは日常的な保護には有効ですが、デバイスが第三者の手に渡った場合、高度な攻撃手法によって突破される可能性はゼロではありません。
P35Sはむしろ、「最悪の事態」に備えた最後の砦として位置づけられています。軍事、外交、企業機密、ジャーナリズムなど、データの漏洩が重大な結果をもたらす分野での需要が想定されます。セキュアデータ破壊市場は2025年に約37億ドル(現在のレートで約5,550億円)、2029年には約56億ドルに達すると予測されており、こうした特殊用途の製品への需要は確実に存在します。
ただし、この種のデバイスには倫理的な側面も考慮する必要があります。証拠隠滅や違法行為への悪用の可能性は否定できません。一方で、内部告発者やジャーナリストが情報源を保護するための正当な手段としての価値もあります。テクノロジーは常に両義的な性質を持ち、その使用者の意図によって善にも悪にもなり得るのです。
【用語解説】
NANDチップ
SSDやUSBメモリなどの記憶媒体で用いられる非揮発性メモリ。データの長期保存が可能で、高速な読み書き性能を持つ。
デュアルモードデータ破壊
論理的(ソフトウェア)な消去と物理的な破壊の両方を組み合わせることで、データの完全消去と復元防止を実現する手法。
【参考リンク】
TeamGroup 公式サイト(外部)
メモリやSSDなどのストレージ製品を製造・販売する台湾発のグローバルブランド。
T-Create Expert P35S 製品ページ(外部)
自己破壊機能付きSSD「Expert P35S」の詳細なスペックや公式紹介を掲載。
【参考記事】
TeamGroup Unveils T-Create Expert P35S Self-Destruct SSD(外部)
製品の特徴や概要、容量展開、データ破壊の仕組みなど一次情報に近い視点で報じている。
Press a Button and This SSD Will Self-Destruct(外部)
ワンタッチでデータ消去・物理破壊を実現する本製品のユニークさと利用時の注意点を詳細解説。
This SSD Includes a Self-Destruct Button That Will Wipe Its Data(外部)
自己破壊機能SSDのメリットや他社製品との性能比較、実用性への評価がある。
【編集部後記】
皆さんは普段、どんなデータの管理や削除に気を遣っていますか?この自己破壊機能付きSSDのような極端なセキュリティ対策は、日常生活の中ではなじみが薄いかもしれません。
ただ、大切な情報や仕事のファイル、消えては困る思い出のデータなど、誰にとっても「絶対に守りたいもの」はきっとあるはずです。もし自分が厳重な情報管理を求められる立場になった場合、どんな方法を選ぶだろう――そんな視点で一度ご自身の「データとの付き合い方」を振り返ってみるのも面白いかもしれません。
























