ソフトバンク株式会社は、デジタルツインを活用したIPネットワークの運用自動化システムを開発し、全国のメトロネットワークで運用を開始した。
本システムは予兆検知基盤と迂回可否自動判定システムにより、ネットワーク機器の状態や通信統計データを高頻度で収集・分析し、障害の前兆検知から迂回判断までをゼロタッチで実行することを目指している。2025年10月10日には、TM Forumが定める「Autonomous Networks」における「IP Fault Management」シナリオで国内初となるレベル3(条件付き自律)の認定を取得し、全国で1万台規模の機器を抱えるメトロネットワーク運用において高水準の自律運用が評価された。
ソフトバンクは今後、生成AIなどの技術も取り入れながらレベル4(高度自律運用)相当の運用や、コアネットワークなど他領域への展開を進める方針を示している。
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デジタルツインを活用したメトロネットワークの運用自動化システムを全国展開


【編集部解説】
ソフトバンクが今回進めたのは、ラボ検証ではなく全国スケールのメトロネットワークにおける本番導入であり、「ネットワークが自ら状態を理解し、最適な復旧パスを選ぶ」という自律運用へのシフトを実地で試すステージに入ったと言えます。デジタルツイン上で構成変化や作業状況をほぼリアルタイムに再現し、その情報をもとに迂回可否をシステムが判断することで、障害対応時間の短縮と人手依存の低減を同時に狙っています。
このアプローチのポイントは、「予兆検知」と「迂回判断」を切り離さず、ひとつの運用フローとしてつないでいる点です。Telemetryによる高頻度の状態監視でサービス影響の前段階を捉え、デジタルツイン上で影響範囲と冗長構成を評価しつつ迂回可否を自動判定することで、障害そのものだけでなく「障害になりかけている状態」にも機械的な対処を広げようとしています。
TM ForumのAutonomous Networksにおけるレベル3は、あくまで特定条件下での自律制御であり、すべての運用が完全に自動化された段階ではありません。それでも、国内キャリアの大規模商用ネットワークでレベル3認定を取った事例は、今後のネットワーク投資や他キャリアの取り組みに影響を与えるシグナルになりますし、エンタープライズ側から見れば「ネットワーク品質とSLAをどう設計し直すか」を考えるタイミングとも重なっていきます。
一方で、自律度が上がるほど「誤検知」や「誤った迂回判断」が持つリスクも増大します。デジタルツインモデルと実ネットワークの乖離や、Telemetryデータの欠損といった問題が、かえって誤制御につながる可能性もあるため、監査・可観測性・フェイルセーフ設計など、人がどこまで・どのタイミングで介入するかというガバナンスの議論が欠かせません。
ソフトバンクは今後、生成AIなども活用して運用の高度化を図るとしていますが、これはルールベースな自動化だけでは扱いきれなかった「現場の勘」やナレッジをモデル化しようとする方向性と読み取れます。ネットワーク自体が自律化されていくプロセスは、ロボティクスや分散AIデータセンター、モビリティなど、多くのテック領域の“足場”にもなるため、innovaTopiaとしては「Autonomous Networksが他のテクノロジー進化をどう支えるのか」という視点からも継続して追いかけていきたいテーマです。
【用語解説】
メトロネットワーク
コアネットワークとアクセス回線をつなぐ都市圏向けIPネットワークのことで、各地域で多数の機器が集約される中間レイヤーを指します。
ゼロタッチ運用
異常検知から復旧までの一連のプロセスを、人手による操作や判断を介さずシステムが自動で実行する運用方式です。
Telemetry(テレメトリー)
ネットワーク機器から監視システムへ、状態や統計情報をストリーミング形式で自動送信するプッシュ型のデータ収集方式です。
SNMP(Simple Network Management Protocol)
管理側から問い合わせることで機器情報を取得するプル型のネットワーク監視・管理用プロトコルで、従来広く利用されてきた仕組みです。
Autonomous Networks(自律型ネットワーク)
AIや自動化技術を用いて、ネットワークが自ら監視・分析・判断・実行を行うことを目指す、TM Forumが提唱する運用モデルの枠組みです。
Autonomous Networks レベル3
TM Forumの成熟度モデルにおいて、特定条件下でシステムが人の判断を介さず自律制御を行う段階を示すレベルであり、完全自律前段階の水準です。
【参考リンク】
ソフトバンク株式会社 コーポレートサイト(外部)
通信事業やネットワークインフラ、AI・デジタルツイン関連の技術開発などソフトバンクの事業と技術ビジョンを紹介している。
TM Forum Autonomous Networks Mission(外部)
通信事業者向けにAutonomous Networksのレベル定義やユースケース、成熟度向上のためのフレームワークを提供する公式ページである。
Ericsson – Autonomous networks explained(外部)
自律型ネットワークの概念やアーキテクチャ、5G以降のネットワークでの役割をわかりやすく整理した技術解説ページである。
Nokia – Autonomous Networks: What is the current state and how to move forward(外部)
Autonomous Networksの現状やL0〜L5の位置づけ、通信キャリアが次のレベルへ進むためのステップをビジネス視点で解説している。
SNMP vs Telemetry: Comparing Network Monitoring Methods(外部)
SNMPとTelemetryの違いをリアルタイム性やスケーラビリティ、実装のポイントとともに比較するネットワーク監視の技術解説記事である。
【参考動画】
【参考記事】
ソフトバンク、メトロネットワークの運用自動化システムを全国展開(外部)
ソフトバンクのメトロネットワーク運用自動化システムの概要と、TM Forumレベル3認定やゼロタッチ運用による運用効率化の狙いを紹介する記事である。
デジタルツインを活用したIPネットワークの運用自動化システム、ソフトバンクが全国展開(外部)
デジタルツインと予兆検知を活用したIPネットワーク運用自動化の仕組みや、全国展開によるインフラ面でのインパクトを解説する報道である。
ソフトバンク、ネットワーク障害対応早める運用自動化システム(外部)
予兆検知基盤と迂回可否自動判定システムの技術的なポイントに触れつつ、障害対応時間短縮と安定運用への効果を整理した技術解説寄りの記事である。
ソフトバンク、デジタルツインを活用したメトロネットワークの運用自動化システムを全国展開(外部)
デジタルツインによるネットワーク構成変化の可視化やTelemetry活用の観点から、Autonomous Networksレベル3認定の意味を解説した記事である。
ソフトバンク、デジタルツイン活用の「迂回可否自動判定システム」を導入(外部)
迂回可否自動判定システムにフォーカスし、作業情報やアラームを統合して自動判断に生かす運用フローをわかりやすく説明する解説記事である。
【編集部後記】
ソフトバンクの今回の取り組みは、「ネットワークが自分で考えて動く」世界が、いよいよ現実のものになりつつあることを感じさせます。障害対応や品質維持のかなりの部分が自律化されていくと、私たち人間の役割はトラブル対応から「どんな体験や価値を支えるネットワークにしたいか」をデザインする側へと少しずつシフトしていくのかもしれません。
みなさんのサービスやプロダクトが、こうした自律型ネットワークの上に乗るようになったとき、どんなことを期待されますか?また、どこまでを機械に任せたいと考えるでしょうか。ぜひみなさんの考えをSNSで教えてください。
























