米陸軍「ウィドウメーカー」、50ドルで3D印刷可能な投下装置をドイツでテスト──現場兵士発のイノベーション

米陸軍「ウィドウメーカー」、50ドルで3D印刷可能な投下装置をドイツでテスト──現場兵士発のイノベーション - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年10月10日、ドイツ南部ホーエンフェルスの統合多国籍即応センターで、米陸軍第1大隊第502歩兵連隊が新型ドローンのテストを実施した。

バジル・ホランド専門兵が開発した「ウィドウメーカー」と呼ばれる投下装置を搭載したPerformance Drone Works社製C100クアッドコプターと、Anduril社製Bolt-M片道攻撃ドローンの評価が行われた。

Bolt-Mは人工知能を使用して標的を追跡する。ウィドウメーカーは50ドル未満の材料費で3Dプリンターを使って製造可能である。米陸軍はPerformance Drone Works社と3つの契約を締結しており、最新の契約は9月16日に締結された2,090万ドルのものである。このテストは火曜日に開始される年次多国籍演習「コンバインド・リゾルブ」に向けた準備として実施された。

部隊はGhost-X偵察機も保有している。

From: 文献リンクTesting the ‘Widowmaker’: Army drone evolution continues in southern Germany

【編集部解説】

このニュースは、米陸軍がドイツで実施した最新ドローン技術のテストを伝えるものですが、注目すべきは現場の兵士が自ら設計した装置が正式採用される可能性を示している点です。「ウィドウメーカー」という投下装置は、わずか50ドル未満の材料費で3Dプリント可能な設計となっており、大規模な軍需産業ではなく、前線の兵士発のイノベーションが軍事技術の民主化を加速させています。

ウクライナ紛争の教訓を直接取り入れた設計思想も重要なポイントでしょう。記事中でホランド専門兵が「ウクライナで多くの人々が行っていること」に言及している通り、実戦データが即座に訓練現場にフィードバックされる速度は従来の軍事技術開発サイクルとは比較にならない速さです。

技術面では、Anduril社のBolt-MがAI標的追跡機能を搭載している点に注目が集まります。自律的に目標を追尾し衝突する「片道攻撃ドローン」は、いわゆるカミカゼドローンやロイタリング・ミュニション(徘徊型弾薬)と呼ばれるカテゴリーに属します。静音性と精密性を兼ね備えたこの種の兵器は、従来の砲撃や空爆と比較して巻き添え被害を抑えられる可能性がある一方、自律兵器システムの倫理的課題も浮上させます。

Performance Drone Works社とは3つの個別契約を締結しており、そのうち直近の9月16日の契約は2,090万ドルに達しています。米軍が小型ドローンへの投資を本格化させていることが数字からも読み取れるでしょう。

「Transforming in Contact(接触中の変革)」という軍事ドクトリンの名称も象徴的です。これは実戦や演習の最中に得られた知見を即座に取り入れて変革していくという姿勢を表しており、従来の硬直的な軍事組織のイメージを覆すものと言えるでしょう。モバリー大尉の「ボトムアップで始まる」という発言は、階級社会である軍隊において現場の創意工夫が尊重される文化的転換を示唆しています。

一方で懸念材料もあります。安価で大量生産可能なドローン兵器の拡散は、テロ組織や非国家主体による悪用リスクを高めます。記事中でもISISが10年前に類似技術を使用していたことが触れられており、技術障壁の低下は諸刃の剣となる可能性があります。

【用語解説】

Transforming in Contact(接触中の変革)
実戦や演習中に得られた戦訓を即座にドクトリンや装備に反映させる米陸軍の近代化イニシアチブである。従来の長期開発サイクルではなく、戦場のフィードバックを迅速に取り入れることを重視している。

Project Flytrap(プロジェクト・フライトラップ)
敵のドローンを探知・無力化するための米陸軍の対ドローンプログラムである。小型無人機の脅威が増大する中、電子戦や物理的手段による防御システムの開発を進めている。

ロイタリング・ミュニション(徘徊型弾薬)
目標上空を旋回しながら標的を探索し、発見次第攻撃するタイプの兵器である。カミカゼドローンとも呼ばれ、ミサイルとドローンの中間的な特性を持つ。

Combined Resolve(コンバインド・リゾルブ)
ドイツのホーエンフェルス訓練場で実施される年次多国籍軍事演習である。NATO加盟国を中心に複数国が参加し、統合作戦能力の向上を目指している。

Joint Multinational Readiness Center(統合多国籍即応センター)
ドイツ・ホーエンフェルスに設置された米陸軍欧州・アフリカ軍の訓練施設である。多国籍部隊の即応性を高めるための演習を定期的に実施している。

【参考リンク】

Anduril Industries(外部)
防衛・国境警備向けの自律システムを開発する米国のテクノロジー企業。AI搭載ドローンやセンサーシステムを提供している。

Stars and Stripes(外部)
米軍の独立系ニュースメディア。1861年創刊の歴史を持ち、軍事関連のニュースを公正・中立な立場から報道している。

【参考記事】​

U.S. soldiers test 3D printed Widowmaker grenade dropper on PDW C100 drone in Germany(外部)
「ウィドウメーカー」がM67手榴弾などを精密に投下できること、開発に第101空挺師団が関わっていることなど、より技術的な詳細を報じています。兵士主導のイノベーションが戦場の様相をどう変えるかという視点で解説されています。

U.S. Army evaluates 3D-printed drone munition dropper prototype in Combined Resolve 26-1(外部)
開発者であるホランド専門兵がCADの経験なしに数ヶ月でプロトタイプを完成させたという、開発プロセスの背景に焦点を当てています。この装置により、小隊レベルでの迅速な火力投射が可能になり、外部の火力支援への依存を減らす戦術的利点を詳述しています。

Anduril Introduces Bolt-M Autonomous Attack Drone(外部)
テストで併用されたAnduril社の攻撃ドローン「Bolt-M」に関する解説記事です。専門的な操縦者を必要としない自律攻撃能力、最大1.4kgの弾頭を搭載可能であること、40分以上の飛行時間と20kmの航続距離を持つことなど、その性能と特徴をまとめています。

【編集部後記】

50ドルで製造可能な軍事装置が、前線の兵士のアイデアから生まれる時代になりました。高価な兵器システムだけが戦場を変えるわけではなく、現場の創意工夫が軍事技術の民主化を進めています。この流れは軍事分野に限らず、製造業やものづくり全般にも通じる変化ではないでしょうか。

3Dプリンターやオープンソース技術が、誰もがイノベーターになれる環境を整えつつあります。みなさんの業界でも、現場発の小さなアイデアが大きな変革を起こす可能性があるかもしれません。技術の進化と人の創造性が交わる瞬間に、私たちは立ち会っているのだと感じます。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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