2025年10月7日、ウクライナの国営防衛企業ウクロボロンプロムは米国企業LeVanta Tech Inc.と協力協定を締結した。
水上と空中の両方で運用可能な新クラスの海軍ドローンを共同開発する。中心となるのはHaliaドローンファミリーで、民間用Halia-S、中型軍用Halia-M、長距離軍用Halia-Xの3モデルがある。Halia-Xはジェットエンジンを搭載し、最大1,000kgを運搬でき、飛行距離は約5,000キロメートルに達する。
時速277kmで水面からわずか数メートル上空を滑走する設計である。この協定にはウクライナでの生産の現地化と訓練プログラムの開始計画も含まれるが、配備時期は示されていない。Defense Expressによると、3つのHaliaモデルはまだ開発中で運用状態には達していない。
From: Ukraine Could Soon Deploy Sea-Launched Drones With 5,000 km Range and 1-Ton Warheads
【編集部解説】
このニュースで注目すべきは、ウクライナと米国企業の防衛技術協力が新たな段階に入ったという点です。単なる武器供与ではなく、技術移転と現地生産を前提とした本格的なパートナーシップが形成されています。
Haliaドローンが採用する「地面効果(グラウンドエフェクト)」は、旧ソ連時代に開発されたエクラノプランと同じ原理です。水面や地表近くを飛行することで空気の圧縮効果を利用し、通常の航空機よりも50%抗力を削減できるとされています。この技術により、低速ながらも燃費効率が高く、レーダーに捕捉されにくい飛行が可能になります。
射程5,000kmという数字は戦略的に大きな意味を持ちます。これはウクライナから黒海を越え、地中海、さらにはロシア内陸部の主要都市まで到達可能な距離です。1トンのペイロードは通常の巡航ミサイルに匹敵する破壊力を持ちます。
ただし、現時点では3つのモデルすべてが開発段階にあり、実戦配備の時期は明示されていません。技術的には魅力的でも、量産体制の構築、運用ノウハウの習得、実戦環境での検証には相当な時間を要するでしょう。
興味深いのは、米国防総省が自国のスタートアップではなくウクライナのドローンメーカーに注目している点です。実戦経験に基づく開発力と生産力が、理論上のスペックよりも重視される時代になっています。これは防衛産業のパラダイムシフトを示唆しています。
【用語解説】
エクラノプラン
地面効果翼機とも呼ばれる航空機の一種。水面や地表のすぐ上を飛行することで、翼と地面の間に発生する空気のクッション効果を利用し、通常の航空機よりも燃費効率を高める。旧ソ連が軍事目的で開発した大型のものが有名である。
地面効果(グラウンドエフェクト)
航空機が地面や水面に近接して飛行する際、翼と地表の間に高圧の空気層が形成され、揚力が増加し抗力が減少する空気力学的現象。この効果により、燃料消費を抑えながら重い荷物を運搬できる。
徘徊型弾薬
目標上空で長時間待機し、適切なタイミングで攻撃できる自爆型ドローン。偵察機能と攻撃機能を併せ持ち、柔軟な運用が可能である。
ペイロード
航空機やドローンが搭載できる有効荷重のこと。武器、センサー、燃料などを含む。
【参考リンク】
LeVanta Tech Inc.(外部)
地面効果を利用した航空機開発を専門とする米国企業。Haliaドローンファミリーの開発元で民間用から軍用まで幅広いモデルを展開している。
Ukroboronprom(ウクロボロンプロム)(外部)
ウクライナの国営防衛産業複合体。武器製造、軍事技術開発、防衛装備品の近代化を担う組織である。
Defense Express(外部)
ウクライナの防衛・軍事専門メディア。防衛技術、軍事装備、安全保障問題に関する詳細な分析と報道を提供している。
UNITED24 Media(外部)
ウクライナ政府が支援する公式メディアプラットフォーム。国際社会に向けてウクライナの状況や取り組みを発信している。
【参考動画】
【参考記事】
Ukraine and US company LeVanta Tech sign agreement on development of naval drones(外部)
Defense Expressによる詳細報道。Halia-Xの技術仕様や地面効果技術の原理について解説している。
Ukraine Seals Deal With LeVanta Tech Inc. That Could Sink russia’s Entire Black Sea Fleet(外部)
ウクライナでの生産現地化計画や訓練プログラムについて言及している。
【編集部後記】
ドローン技術の進化は、私たちが想像する以上のスピードで進んでいます。特に実戦環境が技術革新を加速させている現実は、平時の開発とは全く異なる次元にあるのかもしれません。今回のニュースで興味深いのは、米国防総省が自国のスタートアップではなく、ウクライナの実戦経験を持つ企業に注目している点です。
理論と実践の間にある大きなギャップを、みなさんはどう捉えますか?また、地面効果という古い原理が最新のドローン技術と融合することで、新たな可能性が生まれています。こうした技術が民間分野にも応用される日は来るのでしょうか。みなさんの考えをぜひお聞かせください。