株式会社空解は2025年10月22日、北海道大学広域複合災害研究センター、札幌開発建設部河川整備保全課、ネクシス光洋、エアフォートサービス、リーグルジャパンと共同で、火山噴火災害を想定した地形測量調査を北海道・有珠山周辺で実施した。
空解社製VTOL型固定翼UAV「QUKAI MEGA FUSION 3.5」にリーグル社製高性能LiDAR「VUX-120-23」(7kgペイロード)を搭載し、標高差約400mを含む往復30kmのフルオート飛行を成功させた。
火山噴火を想定した条件下でレベル3.5飛行によるレーザー測量を実施したのは日本初である。
同日には飛行時間約30分、距離約40kmの精密LiDAR測量も行われた。調査成果は10月30日に洞爺湖町で開催された火山砂防フォーラムで展示された。
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日本初*、 火山噴火を想定したVTOL型固定翼UAVによる長距離レーザー測量を実施
【編集部解説】
今回の有珠山でのVTOL型UAVによるレーザー測量実証は、日本の防災テクノロジーが新たな段階に入ったことを示す象徴的な出来事です。
まず、この実証が「日本初」とされる背景を理解する必要があります。2023年末に新設された「レベル3.5飛行」は、従来のレベル3飛行(無人地帯での目視外飛行)において必要だった補助者の配置や看板による立入管理措置を不要とする制度です。機上カメラで地上の状況を確認しながら飛行できることが条件となりますが、これにより道路や鉄道の上空を一時停止せずに横断できるようになりました。今回の実証は、火山噴火という災害を想定した条件下でこのレベル3.5飛行とレーザー測量を組み合わせた初めての事例となります。
使用された「QUKAI MEGA FUSION 3.5」は、株式会社空解が開発したVTOL(垂直離着陸)型固定翼UAVです。VTOL機の最大の特徴は、ヘリコプターのように垂直に離着陸しながら、飛行中は固定翼機として高速・長距離飛行ができる点にあります。今回の飛行では、標高差約400mを含む往復30kmを約20分で飛行し、さらに別の飛行では約40kmを約30分で飛行しています。7kgものペイロードを搭載しながらバッテリーに余裕を残せたことは、この機体の高い性能を示しています。
搭載されたRIEGL社製「VUX-120-23」は、UAV用LiDAR(Light Detection and Ranging)センサーとして高い評価を得ている製品です。LiDARは、レーザー光を照射してその反射を測定することで、対象物までの距離を正確に計測する技術です。このVUX-120は重量わずか2kgながら、最大2.4MHzのパルス繰り返し周波数を持ち、真下(Nadir)、前方10度、後方10度の3方向にレーザーを照射する「NFB」スキャンパターンを採用しています。この3方向スキャンにより、垂直な崖や構造物も含めてデータの取得漏れを最小限に抑えられます。
有珠山が実証の舞台に選ばれた理由も重要です。有珠山は約20〜30年周期で噴火を繰り返す活火山で、2000年の噴火では地盤隆起や泥流によってインフラが大きな被害を受けました。この時、航空機飛行を制限するNOTAM(航空情報)が発行され、火口周辺の詳細な調査が困難となった経験があります。今回の実証は、まさにこの状況を想定したものです。
災害時における情報収集の課題は、「人が立ち入れない」「有人機が飛べない」という二重の制約です。火山噴火時には火山灰や噴石、有毒ガスなどにより現地調査が危険であり、また航空制限により上空からの調査も制限されます。VTOL型UAVは、狭い場所からでも離着陸でき、長距離・長時間飛行が可能であるため、このギャップを埋める技術として期待されています。
LiDAR測量によって得られるデータは、地形の微細な変化や土砂移動の痕跡を高精度で把握できます。これは火山活動のモニタリングだけでなく、避難経路の安全性確認、復旧計画の策定、二次災害の予測など、幅広い用途に活用できます。従来の航空写真測量では得られなかった、樹木の下の地形(地表面)の情報も取得できる点が大きな強みです。
今回の実証には、北海道大学、国土交通省、複数の民間企業が参加しており、産学官連携による防災技術開発の好例となっています。火山砂防フォーラムでの展示を通じて、地域住民や関係者への技術周知も図られました。
この技術は火山だけでなく、洪水、地震、土砂災害など、様々な広域災害への応用が可能です。特に日本は災害多発国であり、こうした「人が行けない場所を安全に調査する技術」の社会実装は、今後の防災・減災において重要な役割を果たすでしょう。
一方で、レベル3.5飛行には無人航空機操縦者技能証明(国家資格)の保有と第三者賠償責任保険への加入が必須です。また、機上カメラによる監視体制の確保、気象条件への対応、データ処理の専門性など、実用化に向けてはまだ多くの課題が残されています。それでも、今回の成功は、日本の防災技術が新しいステージに入ったことを示す重要なマイルストーンと言えるでしょう。
【用語解説】
VTOL(垂直離着陸)
Vertical Take-Off and Landingの略。ヘリコプターのように垂直に離着陸し、飛行中は固定翼機として高速・長距離飛行ができる航空機の方式。滑走路が不要で、狭い場所からでも運用できる利点がある。
LiDAR(ライダー)
Light Detection and Rangingの略。レーザー光を照射し、その反射を測定することで対象物までの距離や形状を高精度に計測する技術。航空測量では地形の微細な変化や樹木の下の地表面まで測定できる。
レベル3.5飛行
2023年末に新設された無人航空機の飛行区分。無人地帯での目視外飛行において、機上カメラによる監視を条件に補助者配置や立入管理措置を不要とし、道路や鉄道上空の横断を容易にした制度である。
UAV(無人航空機)
Unmanned Aerial Vehicleの略。操縦者が搭乗せずに飛行する航空機の総称。ドローンとも呼ばれる。
NOTAM(ノータム)
Notice to Airmenの略で航空情報のこと。航空機の安全運航に必要な情報を通知するシステム。火山噴火時などには飛行制限区域が設定される。
無人航空機操縦者技能証明
2022年の航空法改正で創設された国家資格。一等と二等があり、レベル3.5飛行には目視外飛行の限定解除を受けた技能証明が必要である。
NFBスキャン
Nadir/Forward/Backwardスキャンの略。真下、前方、後方の3方向にレーザーを照射する測量方式。垂直な構造物や複雑な地形でもデータ取得漏れを最小限に抑えられる。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
火山、地震、豪雨――災害と共に生きる私たちにとって、「人が行けない場所をどう調べるか」は永遠の課題です。今回の有珠山での実証は、その答えの一つを示してくれました。VTOL型UAVとLiDARの組み合わせは、災害現場の「目」となり、迅速な判断を支える技術です。この技術が全国の火山地域や災害多発地帯で実用化されれば、避難計画や復旧対応が大きく変わるかもしれません。皆さんのお住まいの地域では、こうした先端技術による防災対策は進んでいますか?私たちinnovaTopia編集部も、テクノロジーが人々の安全にどう貢献できるか、引き続き注目していきます。
























