株式会社ACSLは2025年11月4日、陸上自衛隊富士学校普通科部幹部特修過程学生に向けた研修を実施した。
同社は陸上自衛隊富士学校からの依頼を受け、国産ドローン産業の現況理解とドローン活用促進、製品開発との情報連携強化を図るべく、小型空撮機体「SOTEN(蒼天)」を中心とした製品のご紹介や実機によるデモフライトを行った。参加者は陸上自衛隊富士学校普通科幹部特修過程学生約30名で、ACSL本社の屋内フライトスペースにて実施された。

研修内容は会社・製品紹介、今後の開発計画説明、小型空撮機体「SOTEN(蒼天)」のデモフライトである。具体的には官公庁向けに多数の納入実績のあるSOTEN、長距離飛行マルチユースドローン「PF4」、開発中の次世代小型空撮機等の製品紹介に加え、政府調達を想定した各種機能の開発状況説明、災害調査事例紹介を行った。質疑応答では具体的な操作方法や機能、運用シーンを想定した質問が多数あった。
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ACSL、陸上自衛隊富士学校幹部候補生向けの研修を実施
【編集部解説】
今回のACSLによる陸上自衛隊富士学校での研修実施は、単なる製品デモンストレーションを超えた意味を持っています。これは日本の防衛・安全保障分野における国産ドローン普及の重要な一歩と言えるでしょう。
背景にあるのは、世界的な「脱中国製ドローン」の潮流です。米国では2020年に国防権限法(NDAA)によって国防総省による特定のロシア製・中国製ドローン等の調達が禁止され、日本でも2020年9月に政府が「セキュリティが保証されたドローンへの調達限定」方針を発表しました。これにより、情報漏洩やハッキングのリスクが低い国産ドローンへの需要が急速に高まっています。
特に注目すべきは、研修対象が「幹部特修過程」の隊員である点です。この課程は各職種の幹部候補生が学ぶ場であり、将来的に自衛隊の意思決定層となる人材です。彼らが国産ドローンの性能や運用可能性を理解することで、今後の調達計画や作戦立案において国産機材の採用が進む可能性が高まります。
実際、ACSLのSOTENは2024年3月に航空自衛隊の空撮用ドローンとして採用され、2025年3月には防衛装備庁から約3.5億円規模の大型案件を受注するなど、防衛分野での実績を積み重ねています。今回の研修では、IRカメラによる撮影機能や安定した飛行性能がデモンストレーションされ、具体的な運用シーンを想定した質問が多数寄せられたとのことです。
災害対応での活用実績も重要なポイントです。PF4は5kgペイロード搭載時で最大40kmの長距離飛行が可能で、石川県輪島市での災害調査では通常2〜3日かかる調査を約35分で完了させました。このような実績は、平時の災害対応と有事の防衛活動の両面で国産ドローンの有用性を示しています。
一方で課題も存在します。中国製ドローンは性能と価格の両面で長年優位性を保ってきました。国産ドローンが本格的に普及するには、コスト競争力の向上と継続的な技術革新が不可欠です。ACSLは現在、次世代小型空撮機の開発を進めており、政府調達を想定した各種機能の開発を加速させています。
経済安全保障の観点から、ドローンは今や単なる撮影機材ではなく、国家の安全保障インフラの一部となりつつあります。今回の研修は、技術的な情報共有だけでなく、防衛関係者と民間企業の連携強化という点でも大きな意義を持つ取り組みと言えるでしょう。
【用語解説】
幹部特修課程
陸上自衛隊の幹部自衛官を対象とした教育課程で、各職種の上級指揮官として必要な知識と技能を修得させることを目的とする。教育終了者は将来の上級指揮官候補と見なされ、2等陸佐以上に昇任する場合が多い。卒業後は、大隊長や連隊本部の科長などに補職される例がある。
IR(赤外線)カメラ
赤外線を検知して映像化するカメラ。物体から放射される熱を可視化できるため、夜間や煙の中でも対象物を検出可能である。災害時の人命救助や施設点検、防衛用途などで活用される。
NDAA(国防権限法)
米国の国防に関する予算や政策を定める法律。2020年版では中国製・ロシア製ドローンの政府調達を禁止する条項が含まれ、セキュリティリスクのある製品の排除が進められた。
【参考リンク】
株式会社ACSL 公式サイト(外部)
2013年11月設立の国産産業用ドローン専業メーカー。自律制御技術を核に郵送物流、インフラ点検、防災対応向けドローンを開発・製造。
SOTEN(蒼天)製品ページ(外部)
官公庁納入実績豊富な小型空撮機体。全長637mm、飛行時間約25分、IP43の防塵防水性能を備える。
PF4製品情報(外部)
長距離飛行マルチユースドローン。5kgペイロード搭載時で40kmの飛行距離、降雨対応の防水性能を備える。
【参考記事】
ACSL、長距離飛行マルチユースドローン「PF4」の量産を開始(外部)
2025年7月21日発表。PF4の詳細仕様として、5kgペイロード搭載時で40km飛行距離などを公開。
ACSL’s Made-in-Japan Drone Adopted as an Aerial Photography Drone by Japan Air Self-Defense Force(外部)
2024年3月20日、ACSLドローンが航空自衛隊の空撮用として採用。セキュリティ要件を満たす国産機材。
Landslide and road collapse damage survey by multi-use drone “PF4”(外部)
石川県輪島市での災害調査事例。通常2~3日の調査を約35分で完了させた実績を報告。
Attack Drones: Domestic Procurement, Human Resource Development Essential(外部)
2025年8月27日付読売新聞英語版社説。日本防衛における国内調達と人材育成の重要性を指摘。
ACSL Ltd.ʼs US subsidiary Announces the Launch of SOTEN in the U.S. Market(外部)
2024年7月25日発表。NDAA準拠の日本製ドローンとして米国政府・自治体向け市場へ参入。
【編集部後記】
国産ドローンが防衛・安全保障の現場でどのように活用されていくのか、今まさに転換点を迎えています。今回の研修は、技術を現場に届ける大切なプロセスの一つですが、皆さんはこうした国産技術の意義についてどう考えますか。
災害対応から防衛まで、ドローンが担う役割は日々拡大しています。価格や性能で優位な海外製品と、情報セキュリティを重視した国産製品。私たち一人ひとりが、テクノロジーと安全保障のバランスについて考える時代が来ているのかもしれません。
























