日本の防衛装備庁、スバル製ドローン5機をヘリから操縦するMUM-T試験に成功

[更新]2025年11月25日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

日本の防衛装備庁(ATLA)は有人・無人チーミング(MUM-T)試験の映像を公開した。試験ではBell 205ヘリコプターのコックピット内から5機のジェット推進ドローンをリアルタイムで指揮した。

パイロットは太もも装着型タブレットを使用し、地図ベースのルートに沿って各ドローンを誘導した。使用された5機の無人固定翼機はスバルが供給したもので、監視と目標追跡の強化、敵ドローンからのリスク軽減、パイロットの安全性向上を目的としている。

2024年にATLAはスバルと技術支援契約を締結し、実験的UAVをプロトタイプから運用試験段階に移行させている。同機関は米国との協力により、無人システムのためのAI対応意思決定および状況認識に関する研究を拡大している。

From: 文献リンクJapan Experiments With Helicopter-Based Command of Jet Drone Swarm

【編集部解説】

今回の試験が持つ意義を理解するには、まず世界的なMUM-T(Manned-Unmanned Teaming:有人・無人チーミング)開発競争の文脈を知る必要があります。オーストラリアのMQ-28 Ghost Batは2025年3月時点で100回以上の試験飛行を完了し、2025年末から2026年初頭には空対空ミサイルの実射試験を予定しています。米国空軍のCCA(Collaborative Combat Aircraft)プログラムでは、Anduril FuryとGeneral Atomics Gambitが第一段階の最終候補となり、最大150機の調達が計画されています。中国も2025年11月初旬、GJ-11無人機とJ-20戦闘機の連携映像を初公開しました。

日本のMUM-T開発は2020年3月に防衛装備庁が「遠隔操作型支援機技術」研究を開始したことに遡ります。2018年の防衛省文書にはすでにヘリコプターからタブレットでドローンを制御する構想が描かれていました。スバルは2025年7月9日に実験機を納入し、2024年8月には技術支援契約を締結。そして2025年10月、ついに5機編隊での飛行試験が実施され、11月21日に映像が公開されました。

今回の試験で特筆すべきは、パイロットが太もも装着型タブレットを使用してドローンを操作した点です。これはパイロットがヘリコプターの操縦と同時に、複数の無人機を管理するという、極めて高度な認知負荷を伴う作業を実証したことを意味します。試験ではウェイポイントナビゲーション、編隊飛行、ミッション機動のシミュレーションが行われ、パイロットの作業負荷データも収集されました。

使用されたスバル製UAVは、曲がった凧型の翼、傾斜したV字尾翼、上部装着型吸気口を持つ小型のジェット推進機です。ホビークラスのラジコン機を彷彿とさせるサイズながら、自律飛行経路生成技術を搭載し、周囲の状況に応じて最適な飛行経路を独自に計算・選択できます。

スバルがこのプロジェクトに選ばれた背景には、50年以上にわたるUAV開発の実績があります。2000年代初頭にはGPS支援オートパイロットシステムの研究を行い、2023年にはJapan RadioおよびNEDOとの協力により、ドローン用の衝突回避プロトコルがISO標準として採用されました。自動車メーカーとしてのイメージが強いスバルですが、実は富士重工業時代から航空機製造を手がけ、現在も攻撃ヘリコプター、UAV、練習機、ボーイング777および787の重要部品を製造している航空宇宙企業でもあります。

防衛装備庁はこのMUM-T研究と並行して、米国との協力によりUAV向けAI対応意思決定および状況認識に関する研究も拡大しています。これは将来的に、パイロット1人が複数の無人機を統率し、最終的には直接的な人間の入力なしで完全自律群れとして運用することを見据えた開発です。

市場調査によれば、世界のLoyal Wingmanドローン市場は2024年に1.42億ドルに達し、2025年から2033年まで年平均成長率17.8%で成長し、2033年には約6.16億ドルに達すると予測されています。地政学的緊張の高まりと戦争の性質が進化する中、各国軍はリスクを最小化しながら作戦能力を強化する革新的なソリューションを求めており、MUM-Tはその中核技術となっています。

今回の試験は、日本が次世代戦闘機開発と並行して、それを支援する無人戦闘航空機のエコシステムを構築しようとしている証左です。単独の技術実証ではなく、日米豪など同盟国との情報共有も行われており、グローバルな防衛技術ネットワークの一部として位置づけられています。

【用語解説】

MUM-T(Manned-Unmanned Teaming)
有人・無人チーミングと呼ばれる、有人航空機と無人航空機が協調して作戦を遂行する概念。人間のオペレーターが複数の無人機を監督・統制し、偵察、電子戦、攻撃などの任務を分担することで、作戦効率の向上とリスクの分散を図る。NATO STANAG 4586では相互運用性のレベルが定義されており、レベル1が基本的な遠隔操作、レベル5が自律的な発着能力を持つシステムとされる。

ウェイポイントナビゲーション
事前に設定された地理的座標点(ウェイポイント)を順次通過するように航空機を誘導する航法システム。GPSなどの測位システムと組み合わせることで、無人機が自律的に指定されたルートを飛行できる。

Loyal Wingman(ロイヤル・ウィングマン)
AI技術を搭載し、有人戦闘機に随伴して作戦を支援する無人戦闘航空機の概念。従来のUCAVと異なり、戦場での生存性を持ちながらも有人機よりも大幅に低コストであることが期待されている。偵察、電子戦、ミサイル運搬など多様な役割を担う。

CCA(Collaborative Combat Aircraft)
協調戦闘航空機。次世代戦闘機と連携して作戦を行う無人航空機システムの総称。米国空軍のプログラムでは第一段階で最大150機の調達が計画されている。

V字尾翼(V-tail)
航空機の尾部に採用される構造で、通常の水平尾翼と垂直尾翼を統合したV字型の安定板。重量軽減と空力効率の向上が期待できる設計である。

クランクド・カイト翼(Cranked-kite wing)
翼の前縁が屈曲した形状を持つ翼設計。高速飛行時の空力特性と低速時の操縦性を両立させるために採用される。

【参考リンク】

防衛装備庁(ATLA)(外部)
日本の防衛装備品の研究開発、調達、国際協力を担う防衛省の外局。航空システム研究センターでMUM-T技術の研究開発を主導している。

スバル 航空宇宙カンパニー(外部)
富士重工業時代から続く航空機製造の伝統を持ち、防衛省向けヘリコプター、UAV、練習機の開発・製造を手がける。50年以上のUAV開発実績を持つ。

Boeing MQ-28 Ghost Bat(外部)
オーストラリア空軍向けに開発された世界初の本格的なLoyal Wingman無人機。2025年末から2026年初頭に空対空ミサイルの実射試験を予定。

Loyal Wingman Technology Overview(外部)
Loyal Wingman技術の詳細と開発経緯を解説する専門サイト。各国の開発状況や技術仕様を網羅している。

【参考記事】

Japan Tests Subaru’s Drones in MUM-T and Autonomous Flight Trials(外部)
The Aviationist誌による詳細なレポート。2025年10月に実施された試験の内容と、防衛装備庁が公開した映像の分析を提供している。

Subaru Delivers Experimental UAV to Japan’s ATLA for Manned-Unmanned Teaming Research(外部)
2025年7月のスバルによるUAV納入と、2024年8月の技術支援契約締結について詳述。日本のMUM-T開発の全体像を解説。

Japan Advances MUM-T With Scaled CCA Formation Trials(外部)
Aviation Week誌による分析記事。日本の防衛省が完了したCCA実証飛行試験の意義をグローバルな文脈で位置づけている。

Manned-unmanned teaming – Wikipedia(外部)
MUM-T技術の歴史、定義、各国の開発状況を包括的に解説。NATO STANAG 4586の相互運用性レベルについても詳述している。

Loyal Wingman Drone Market Research Report 2033(外部)
市場調査レポート。2024年に14.2億ドル、2033年には61.6億ドルに達すると予測。年平均成長率17.8%の急成長市場であることを示している。

Boeing MQ-28 Ghost Bat – Wikipedia(外部)
オーストラリアのMQ-28 Ghost Bat開発プログラムの詳細。2025年3月時点で100回以上の試験飛行を完了し、実戦配備に向けて前進中。

Boeing’s Ghost Bat Loyal Wingman Joins F-15EX: Everything You Need to Know(外部)
F-15EXとGhost Batを組み合わせたBoeing社の輸出戦略について解説。ポーランド空軍への提案内容も詳述している。

【編集部後記】

ヘリコプターのパイロットが太ももに装着したタブレットで5機のジェットドローンを操る——SFのような光景が、すでに現実のものとなっています。この技術が示しているのは、単なる軍事技術の進歩だけではなく、人間と機械の協働という未来の縮図ではないでしょうか。

一人のオペレーターが複数の自律システムを統率する世界。それは効率的である一方で、判断の重みや責任の所在といった新たな問いも生み出します。みなさんは、この「人間が機械の群れを率いる」という未来像に、どのような可能性やリスクを感じますか。軍事分野で培われた技術が、やがて民間の物流や災害救助にも応用される日が来るかもしれません。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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