GoogleのAIアシスタントであるGeminiは、2025年8月に公開された報告書によると、1回のテキストプロンプトで0.24ワット時のエネルギーを使用し、0.03グラムの二酸化炭素を排出し、0.26ミリリットルの水を消費する。
これはテレビを9秒視聴するのと同じ程度のエネルギー消費量である。Geminiの2025年のアクティブユーザー数は約4700万人である。
Googleは過去12ヶ月間でアプリの炭素フットプリントを44分の1に削減し、データセンターの冷却に必要な水の量も減少させている。一方、マサチューセッツ工科大学(MIT)によると、北米のデータセンターのエネルギー需要は2022年の2688メガワットから2023年には5341メガワットに増加しており、AIもその要因の一つである。MITのノマン・バシール氏は、新たなデータセンター建設の需要は持続可能に満たすことが困難であり、多くの電力が化石燃料由来で賄われていると指摘している。
From: How Much Energy Does Google Gemini Actually Use Per Prompt?
【編集部解説】
今回の記事で最も注目すべきなのは、Google が AI 業界で初めて具体的なエネルギー消費量を詳細に公開したという点です。これまで主要な AI 企業はエネルギー使用量について口を閉ざしてきただけに、この透明性は業界にとって大きなターニングポイントと言えるでしょう。
実際の数値を見ると、1回のプロンプトあたり0.24ワット時という消費量は一見微々たるものに見えますが、Google の分析によると AI チップ(TPU)は全体の58%、CPU とメモリが25%、待機状態のバックアップ機器が10%、冷却システムが8%を消費しています。つまり、私たちが目にする AI の応答1つに対して、複雑なインフラ全体が稼働していることが数値で明らかになりました。
注目すべきは効率化の進歩です。Google は2024年5月から2025年5月にかけて、同じプロンプトに対するエネルギー消費量を33分の1にまで削減したと報告しています。これはハードウェアの改良とソフトウェア最適化の成果で、Tech for Human Evolution の理念を体現する技術進歩と言えます。
しかし、専門家からは重要な指摘も上がっています。カリフォルニア大学リバーサイド校のShaolei Ren准教授は、Google の分析が間接的な水使用量を含んでいないと批判しています。データセンターの電力需要によって必要となる発電所の冷却水は含まれておらず、実際の環境負荷はより大きい可能性があります。
さらに長期的な視点で見ると、MIT の研究によれば北米のデータセンターのエネルギー需要は2022年から2023年にかけて約2倍に増加しており、2026年までに世界のデータセンターは1,050テラワット時を消費すると予測されています。これは現在の日本とロシアの間に位置する規模です。
この状況は AI 技術の普及に伴う根本的なジレンマを浮き彫りにします。個別のプロンプト効率は向上していても、AI サービスの利用者数が爆発的に増加すれば、全体のエネルギー消費は増大し続ける可能性があります。Google Gemini の4700万ユーザーという数字を考えると、この影響は決して軽視できません。
一方で、AI による効率化の恩恵も見逃せません。スマートグリッドやエネルギー管理システムでの AI 活用により、他分野でのエネルギー削減効果も期待されており、AI が環境問題の解決策となる可能性も秘めています。重要なのは、この技術をいかに持続可能な形で発展させていくかという点でしょう。
【用語解説】
カーボンフットプリント
個人や組織の活動によって排出される温室効果ガスの総量を二酸化炭素換算で示したもの。環境への影響を評価する指標の一つである。
PUE (Power Usage Effectiveness)
データセンター運用のエネルギー効率を示す指標。消費電力全体に占めるIT機器の消費電力比率で、1に近いほど効率が良い。
Mixture-of-Experts (MoE)
AIモデルの一形態で、大規模モデルの中で必要な部分だけを活性化して計算量と消費エネルギーを削減する手法である。
【参考リンク】
Google Cloud – AIと環境影響の詳細測定(外部)
Googleが公開した、AI推論におけるエネルギー・排出量・水使用量測定の技術報告
Google AI エネルギー効率化(外部)
Google Geminiのエネルギー効率向上と環境負荷削減に関する公式ブログ
【参考記事】
Measuring the environmental impact of AI inference(外部)
GoogleがAI推論のエネルギー消費量を包括評価し、効率化の進展を報告
In a first, Google has released data on how much energy an AI prompt uses(外部)
Googleが初めて公開したAIプロンプトのエネルギー消費データと詳細分析
Explained: Generative AI’s environmental impact(外部)
MITによる生成AIの環境影響報告と持続可能性への課題を分析
【編集部後記】
みなさんは普段、AIツールをどのくらい使われていますか?
今回Googleが公開したエネルギー消費データを見ると、AIが思っていたより身近で現実的な技術であることを感じました。
一方で、私たち一人ひとりの使用が積み重なることで生まれる環境への影響も見えてきます。
AIの恩恵を受けながら、どうすれば持続可能な形で活用できるでしょうか。
みなさんのAI活用体験や、環境配慮について考えていることがあれば、ぜひお聞かせください。
これからのAIとの付き合い方を、一緒に考えていければと思います。