天然ガス電力プロバイダーのProEnergyは同社の年次カンファレンスにて、退役した航空機エンジンを改造したPE6000ガスタービンをデータセンター向け電力供給に活用する計画を発表した。
同社によれば、PE6000はGE AerospaceのCF6-80C2ターボファンエンジンをベースに48メガワットの電力を発電する。一部報道によればProEnergyは2つのデータセンタープロジェクト向けに21基のガスタービンを販売しており、合計1ギガワット以上となる。
GE VernovaのLM6000の納期が3年から5年かかるのに対し、ProEnergyのPE6000は2027年に納入可能である。これらのエンジンは電力網への接続が実現するまでの5年から7年間、ブリッジング電力を提供する。
From: Data Centers Look to Old Airplane Engines for Power
【編集部解説】
AIデータセンターの急速な拡大に伴い、電力インフラが深刻なボトルネックとなっています。通常、新規データセンターが電力網に接続するには、送電線の建設許可だけで8年から10年もの期間を要するケースも報告されており、AI開発競争において致命的な遅延要因となっています。
ProEnergyが提案するソリューションは、航空業界の資産を地上で再活用するという点で注目に値します。CF6-80C2エンジンは1985年から商業用ジェット機で使用されてきた実績ある技術であり、今後10年間で約1,000基が退役予定です。これらを48MWの発電用タービンとして再生することで、サプライチェーンの制約を回避しながら迅速な電力供給を実現しています。
従来の航空転用型ガスタービンとの最大の違いは納期です。GE VernovaのLM6000のような新品の航空転用型タービンは3〜5年待ちですが、PE6000は2027年納入が可能とされています。これは既存のエンジンコアを活用することで製造工程を短縮できるためです。
しかし、天然ガス燃焼による発電であることから、長期的なカーボンニュートラル目標との整合性が課題となります。この点について同社は窒素酸化物の排出量をEPA基準以下に抑えていると主張する一方、この電源をあくまで5〜7年間の『ブリッジング電力』と位置付けています。
データセンター事業者にとって、この技術は建設スケジュールの前倒しを可能にし、AI開発における競争優位性を確保する手段となります。一方で、電力網インフラの整備遅延という根本的な問題解決にはならず、今後も送電網の拡充が不可欠であることに変わりはありません。
【用語解説】
航空転用型ガスタービン(Aeroderivative Gas Turbine)
航空機用ジェットエンジンを地上での発電用に改造したガスタービン。従来の重量級フレームガスタービンと比較して軽量・小型で、メンテナンスが容易という特徴を持つ。起動時間が短く、5分程度で稼働可能である。
ビハインド・ザ・メーター発電(Behind-the-Meter Generation)
電力会社の検針メーターの内側、つまり需要家側で行われる自家発電のこと。データセンターなどの施設が電力網に依存せず、独自に電力を生成・消費する形態を指す。
ブリッジング電力(Bridging Power)
電力網への正式な接続が完了するまでの間、一時的に施設の電力需要を満たすための暫定的な電源。本記事では5〜7年間の使用を想定している。
CF6-80C2
GE Aerospaceが1985年にリリースした商業用航空機向けターボファンエンジン。ボーイング767やエアバスA310などの双発ワイドボディ機に搭載され、高い信頼性で知られる。
選択的触媒還元システム(SCR: Selective Catalytic Reduction)
排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を削減するための環境技術。アンモニアや尿素水溶液を用いて、触媒上で窒素酸化物を無害な窒素と水に分解する。
【参考リンク】
ProEnergy Services(外部)
天然ガス発電ソリューションを提供する企業。PE6000航空転用型ガスタービンの製造・販売を手がけ、退役航空機エンジンを活用した発電システムを展開している。
GE Vernova(外部)
GEのエネルギー部門が分社化した企業。ガスタービン、風力発電、電力網ソリューションなどを提供し、LM6000をはじめとする航空転用型ガスタービンの主要メーカーである。
IEEE Spectrum(外部)
電気電子技術者協会(IEEE)が発行する技術メディア。エネルギー、AI、ロボティクス、通信技術など幅広い分野の最新技術動向を報じている。
Data Center World(外部)
データセンター業界における世界最大級のカンファレンス・展示会。インフラ、電力、冷却、セキュリティなど、データセンター運用に関する最新情報が集まる。
【参考記事】
New Aeroderivative Gas Turbine Offering Hits the Market(外部)
ProEnergyのPE6000について詳細に報じた記事。CF6-80C2エンジンコアの再生プロセスや、48MWの出力仕様、納期の優位性について技術的観点から解説している。
Gas Power Technology for Data Centers(外部)
GE Vernovaによるデータセンター向けガスタービン技術の公式ページ。航空転用型タービンの技術仕様、効率性、環境性能について詳細なデータを提供している。
Why Jet Engines Could Power the AI Data Centers Boom(外部)
航空機エンジンをデータセンター電源として活用する動きについて、2025年10月21日付で報じた記事。ProEnergyの事例を中心に、業界におけるこの技術の位置づけを解説している。
【編集部後記】
退役した航空機エンジンが、AI時代のデータセンターを支える電源として生まれ変わろうとしています。この動きは、電力インフラの遅れという課題に対する応急処置なのか、それとも持続可能な解決策となり得るのでしょうか。
日本でも千葉県印西市などでデータセンターの電力供給が限界に達しつつあり、この問題は決して対岸の火事ではありません。天然ガスによるブリッジング電力が5〜7年間の「時間稼ぎ」として機能する一方で、根本的な送電網の整備や再生可能エネルギーへの移行は依然として課題です。
みなさんは、AIの急速な発展を支えるために、どのような電力供給の在り方が望ましいと思われますか。