オーストラリアのモナシュ大学とロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)の研究チームが、36,608人のオーストラリア人(40-69歳)を対象とした14年間の追跡調査を実施した。同研究は2025年に学術誌『Diabetes & Metabolism』に掲載された。
研究を主導したのは、モナシュ大学およびRMIT大学のバルボラ・デ・クルテン教授、Cancer Council Victoriaのアリソン・ホッジ准教授、モナシュ大学博士課程のロベル・フセン・カブタイマー氏である。
研究結果によると、人工甘味料入り飲料を1日1缶摂取すると2型糖尿病発症リスクが38%上昇する。一方、砂糖入り飲料の摂取による同リスクは23%の上昇にとどまった。
体重を調整要因として加えた分析では、砂糖入り飲料と糖尿病の関連性は消失したが、人工甘味料入り飲料のリスクは依然として38%の上昇を示した。この結果は、人工甘味料が体重増加とは独立した代謝への直接的影響を持つ可能性を示唆している。
データはメルボルン共同コホート研究(Health 2020としても知られる)から取得され、食事、運動、教育、健康履歴などの要因を調整して分析された。
From: Just One Diet Soda a Day May Raise Your Type 2 Diabetes Risk by 38%
【編集部解説】
今回の研究結果は、健康志向の高いテクノロジー・ヘルスケア業界において重要なパラダイムシフトを示しています。私たちが「ダイエット」や「ゼロカロリー」と表記された製品に抱いてきた安心感を根底から覆す発見と言えるでしょう。
この研究は、オーストラリアの権威ある医療機関による14年という長期追跡調査で、3万6千人という大規模な集団を対象としています。統計的信頼性は非常に高く、さらに興味深いのは体重の影響を考慮した分析結果です。砂糖入り飲料の場合、体重を調整すると糖尿病リスクとの関連が消失しましたが、人工甘味料では38%のリスク上昇が維持されました。これは人工甘味料が体重増加とは独立したメカニズムで代謝に影響を与えていることを強く示唆しています。
メカニズムとしては、アスパルテームが砂糖と同様のインスリン反応を引き起こすこと、そして腸内細菌叢の破綻により糖不耐性が増加することが挙げられています。近年のマイクロバイオーム研究の進展により、腸内細菌が代謝調節に果たす役割が明らかになってきた背景も重要です。
さらに注目すべきは、フランスの研究でも人工甘味料入り飲料による食品添加物の相互作用で13%のリスク上昇が報告されており、国際的に同様の傾向が確認されています。アメリカの長期研究では、高摂取群で129%というより大幅なリスク上昇も報告されています。
この発見は、ヘルステック企業やフードテック業界に大きなインパクトを与える可能性があります。人工甘味料を使用した製品開発戦略の見直しが必要となり、代替甘味料の研究開発や、甘味に依存しない新たな食品技術の探求が加速するでしょう。
規制面では、現在砂糖税の導入を検討する各国政府が、人工甘味料製品にも同様の注意を払う必要性が高まっています。この研究成果は、包括的な飲料政策の策定を促進する科学的根拠となり得ます。
テクノロジーの観点から見ると、個人の代謝特性に応じたパーソナライズされた栄養管理システムや、腸内細菌叢を考慮したヘルスモニタリング技術の需要が高まることが予想されます。また、AIを活用した食品成分の代謝影響予測システムの開発も重要な技術領域となるでしょう。
現代社会では、健康への意識が高まる一方で、利便性や嗜好性も重視される傾向にあります。この研究は、単純な代替ではなく、根本的な食生活の見直しが必要であることを示しており、未来の食品技術に新たな方向性を提示しています。
【用語解説】
2型糖尿病
生活習慣や遺伝要因でインスリン作用が低下し血糖が慢性的に高まる疾患。
アスパルテーム
砂糖の約200倍の甘味を持つ人工甘味料。広範な食品・飲料に使用される。
腸内細菌叢(マイクロバイオーム)
腸に生息する細菌群の総体で、代謝や免疫調節に関与する。
グルコース不耐性
食後血糖が正常より長時間高いまま推移する状態。糖尿病前段階とされる。
【参考リンク】
Monash University(外部)
メルボルン拠点の研究総合大学。栄養・代謝研究で国際的評価が高い
RMIT University(外部)
応用科学に強みを持つメルボルンの技術系総合大学
Diabetes & Metabolism(外部)
糖尿病・代謝分野の査読誌。研究論文の公式掲載先
【参考記事】
One diet soda a day increases type 2 diabetes risk by 38% – New Atlas(外部)
人工甘味料が体重増加とは独立したメカニズムで代謝に影響を与える可能性を詳細に解説。腸内細菌叢の破綻やインスリン反応の異常が主な原因として挙げられている。
Artificial sweeteners tied to 38% higher diabetes risk(外部)
モナシュ大学とRMIT大学の研究者による大規模オーストラリア研究の詳細な分析。政策面への影響と今後の規制強化の必要性について言及している。
Artificial Sweeteners and Risk of Type 2 Diabetes in the Prospective NutriNet-Santé Cohort(外部)
フランスの大規模前向きコホート研究で、アスパルテームとアセスルファムKが特に2型糖尿病リスク上昇と関連することを報告。国際的な研究動向を示す重要な論文である。
【編集部後記】
編集部員の中にも「仕事中はダイエットコーラが欠かせない」という声が少なくありません。長年飲み続けてきた方にとって、今回の38%という数字は決して軽く受け止められないでしょう。
ただし、この研究は〈リスクが統計的に高まる傾向〉を示したもので、個々の健康状態を即座に断定するものではありません。大切なのは、「データを知った上でどう行動するか」という視点です。
まずは定期健診で血糖値やHbA1cをチェックし、自分の身体が人工甘味料にどう反応しているのか事実を把握してください。そのうえで、水・炭酸水・無糖ティーなどカロリーも甘味料もない選択肢とローテーションするだけでも摂取量は大幅に減らせます。最新のスマートボトルや血糖モニター、腸内細菌検査キットを活用すれば、テクノロジーの力で自分のリスクプロファイルを可視化できます。
「Tech for Human Evolution」を掲げる私たちは、単に恐怖や不安を煽るのではなく、テクノロジーを味方にしながら賢くリスクをコントロールする方法を提案していきます。ダイエットコーラを完全に手放すか、上手に付き合い続けるか――その選択を後悔のないものにするための情報を、これからも提供していきます。