MITリンカーン研究所が軍事用脳健康評価のための新技術「READY」と「MINDSCAPE」を開発している。
2000年から2024年の間に50万人以上の軍人が外傷性脳損傷と診断された。人間の健康・パフォーマンスシステムグループのクリストファー・スモルト研究員とトーマス・クアティエリ研究員が開発を主導している。
READYはスマートフォンまたはタブレットアプリで90秒以内に認知機能の変化を特定する。MINDSCAPEはVR技術を使用してTBI、心的外傷後ストレス障害、睡眠不足の詳細分析を行う。READYは眼球追跡、バランス、発声の3つのテストでバイオマーカーを測定する。MINDSCAPEは脳波検査、光電式脈波検査、瞳孔測定のセンサーを使用する。EYEBOOMは米国特殊部隊向けの爆発暴露監視ウェアラブル技術である。
MINDSCAPEは2025年にウォルター・リード国立軍事センターでテスト実施中で、READYは2026年に米国陸軍環境医学研究所で睡眠不足の文脈でテスト予定である。
From: New technologies tackle brain health assessment for the military
【編集部解説】
軍事分野における脳健康評価は、これまで医療専門家による詳細な検査や長時間のテストに依存していました。しかし、戦場や訓練現場では迅速かつ正確な判断が求められるため、従来の手法では限界がありました。
今回MITが開発した技術の革新的な点は、スマートフォンやVRといった身近なデバイスを活用することです。特にREADYアプリが90秒という短時間で認知機能をスクリーニングできる点は、現場での実用性を大きく向上させています。
注目すべきは、この技術が単なる検査ツールではなく、予防医学的なアプローチを採用していることです。EYEBOOMのような連続監視システムと組み合わせることで、問題が顕在化する前に早期発見が可能になります。
民間応用への展開も期待される一方で、プライバシーや誤診のリスクも考慮する必要があります。脳の状態を継続的に監視するシステムは、個人の認知データという極めてセンシティブな情報を扱うため、データ保護や倫理的な使用に関する議論が不可欠でしょう。
また、AIによる自動判定に過度に依存することで、医療従事者の判断力が低下する可能性も指摘されています。技術はあくまでサポートツールとして位置づけ、最終的な判断は人間が行うという原則を維持することが重要です。
長期的には、この技術がスポーツ医学や高齢者医療、認知症の早期発見など幅広い分野で応用される可能性があります。特に日本の超高齢社会においては、認知機能の低下を早期に発見し、適切な介入を行うツールとして大きな価値を持つかもしれません。
【用語解説】
READY
任務のための注意力の迅速評価(Rapid Evaluation of Attention for Duty)の略。MITリンカーン研究所が開発したスマートフォンアプリ。
光電式脈波検査(Photoplethysmography)
光を使って血流量の変化を測定し、心拍数や血管の状態を評価する検査技術。
瞳孔測定(Pupillometry)
瞳孔の大きさや反応を測定することで神経系の機能を評価する手法。
眼電図(Electrooculography)
眼球運動に伴う電位変化を測定して眼球の動きを記録する検査技術。
【参考リンク】
MITリンカーン研究所(外部)
1951年設立の国家安全保障技術開発を専門とする研究機関。今回の脳健康評価技術READY、MINDSCAPE、EYEBOOMを開発している。
脳外傷財団(Brain Trauma Foundation)(外部)
脳外傷の予防、治療、リハビリテーションに関する研究とガイドライン策定を行う非営利組織。
【参考記事】
New technologies tackle brain health assessment for the military(外部)
MITリンカーン研究所の公式発表。READY、MINDSCAPE、EYEBOOMの技術詳細とテスト計画について詳述。
R&D 100 winner of the day: Electrooculography and Balance Blast Overpressure Monitoring System(外部)
EYEBOOMがR&D 100賞を受賞したことを報告。米国特殊部隊での実際の運用について詳述。
Wearable Tracking of Eye and Body Movements During Breaching Training(外部)
MITリンカーン研究所の研究者による学術論文。0.25 psiという低レベルの爆発圧力でも生理学的変化が観測されることを実証。
【編集部後記】
軍事分野での脳健康評価技術が90秒という短時間で実現される時代を迎えています。この技術、スポーツ医学や職場での健康管理にも応用できそうですが、皆さんはどのような場面で活用してみたいと思われますか?
また、脳の状態をリアルタイムで監視することに対して、プライバシーの観点から不安を感じられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。便利さと安全性のバランスをどう取るべきか、一緒に考えてみませんか?
特に日本の超高齢社会では、認知機能の早期発見が重要になってきます。皆さんご自身や周りの方にとって、この技術はどのような価値を持つと思われますか?ご意見をお聞かせください。