Oracle創設者エリソン、オックスフォード大にAIワクチン研究で1億6960万ドルの大型投資

[更新]2025年9月3日11:36

Oracle創設者エリソン、オックスフォード大にAIワクチン研究で1億6960万ドルの大型投資 - innovaTopia - (イノベトピア)

テクノロジー界の億万長者ラリー・エリソンが資金提供する研究グループが、英国のオックスフォード大学と協力してワクチン研究にAIを応用するため1億1,800万ポンド(1億6,960万ドル)を投資する。

オックスフォードワクチン研究グループが主導するプロジェクトでは、肺炎レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌などの細菌感染症と抗生物質耐性に対する人間の免疫システムの反応を研究する。COVID-19ワクチンの臨床試験を指揮したアンドリュー・ポラード教授が率い、ヒューマンチャレンジモデルを採用して現代免疫学とAIツールを適用する。

また、エリソン技術研究所(EIT)は約10億ポンドの投資を経て2027年にオックスフォードキャンパス開設を目指している。2024年12月にオックスフォード大学とEITは戦略的提携を開始した。

From: 文献リンクLarry Ellison bankrolling £118M AI vaccine research at Oxford University

訂正:from記事では1億6960万ドルとなっていましたが、現在の為替では約1億5,800万ドルとなります。

【編集部解説】

このニュースは、テクノロジー業界のトップランナーであるラリー・エリソンの戦略的な医療投資として捉えるべき重要な動きです。特に注目すべきは、現在の米国政府がmRNAワクチン研究への5億ドルの資金提供を打ち切るという逆風の中で、民間からの大規模投資が行われている点です。

このプロジェクトの核心は「CoI-AI(Correlates of Immunity-Artificial Intelligence)」という新しいアプローチにあります。従来のワクチン開発は長期間を要し、成功率も限定的でしたが、AIと免疫学を組み合わせることで開発期間の大幅短縮が期待されています。人間チャレンジモデルという手法により、健康なボランティアを管理された環境下で病原体に暴露し、リアルタイムで免疫反応を観察できる点が革新的です。

技術的な側面では、オックスフォード大学の免疫学における卓越性と、エリソン技術研究所のAI技術を融合させています。Oracle社のコンピューティング能力を活用し、膨大な生物学的データを解析することで、従来では見つけることが困難だった免疫反応パターンを特定できる可能性があります。

このプロジェクトが対象とする肺炎レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌などは、抗生物質耐性を持つ「スーパーバグ」として世界的な脅威となっています。抗生物質耐性菌による年間死者数は将来的に1,000万人に達する可能性があるとされており、この問題への対処は人類の生存に関わる重要課題です。

潜在的なリスクとしては、人間チャレンジモデルの倫理的な問題があります。健康な人を意図的に病原体に暴露することの是非については、医学倫理の観点から慎重な検討が必要です。また、AI主導のワクチン開発が従来の安全性試験プロセスを十分に経ているかという点も注視する必要があります。

長期的な視点では、このプロジェクトが成功すれば、パンデミック対応能力の向上だけでなく、個別化医療の発展にも寄与する可能性があります。個人の免疫プロファイルに基づいたオーダーメイドワクチンの開発も視野に入ってくるでしょう。

2027年に開設予定のエリソン技術研究所オックスフォードキャンパスは、約10億ポンドの投資規模で、英国の科学技術分野における新たなハブとして機能することが期待されています。

【用語解説】

CoI-AI(Correlates of Immunity-Artificial Intelligence)
免疫相関-人工知能の略称。人間チャレンジモデルとAI技術を組み合わせて免疫反応を解析し、防御を予測する新しいワクチン開発手法である。

ヒューマンチャレンジモデル
健康なボランティアを管理された環境下で病原体に意図的に暴露し、感染症の進行や免疫反応をリアルタイムで観察する研究手法。倫理的な厳格な審査と安全対策の下で実施される。

mRNAワクチン
メッセンジャーRNAを使用して体内で抗原を生産させるタイプのワクチン。COVID-19ワクチンで広く使用され、従来のワクチンより迅速な開発が可能である。

【参考リンク】

エリソン技術研究所(Ellison Institute of Technology)(外部)
ラリー・エリソンが設立した研究機関で、健康・医療、食料安全保障、クリーンエネルギー、AI・ロボティクスの4分野で人類の課題解決を目指している。

オックスフォード大学公式ニュース(外部)
オックスフォード大学がエリソン技術研究所との戦略的提携によりAIワクチン研究プログラムを開始したことを発表する公式ニュースページ。

オックスフォードワクチン研究グループ(外部)
アンドリュー・ポラード教授が率いる世界的なワクチン研究機関。COVID-19ワクチンの臨床試験を主導したことで知られる。

Oracle Corporation(外部)
ラリー・エリソンが共同創設したクラウドコンピューティングとデータベース管理システムの世界的リーダー企業。

【参考記事】

Oxford secures £118m for AI-driven vaccine research with Ellison Institute(外部)
オックスフォード大学がエリソン技術研究所と共同でCoI-AIプログラムを開始し、1億1,800万ポンドの投資を受けてAIと免疫学を組み合わせた新しいワクチン開発手法を導入することを詳細に報告している。

Ellison’s £118M Gift Fuels AI-Powered Vaccine Research at Oxford(外部)
5年間のプログラム期間と10億ポンドのオックスフォードキャンパス建設投資について詳細に説明し、抗生物質耐性菌対策としての重要性を強調している。

US health agency to wind down mRNA vaccine development(外部)
米国保健福祉省が5億ドルのmRNAワクチン開発資金を打ち切る決定を下したことを報じ、エリソンの投資との対照的な状況を示している。

【編集部後記】

このニュースを読んで、皆さんはどのような感想を持たれたでしょうか。AIとワクチン開発の融合という新たな領域で、民間企業が政府を上回る規模の投資を行うという現実に、私たち編集部も驚いています。特に印象的なのは、米国政府がmRNAワクチン研究への資金を削減する一方で、Oracle創設者のエリソン氏が1億6960万ドルという巨額を投じている点です。これは単なる慈善事業を超えた、未来への戦略的な賭けなのかもしれません。皆さんは、このような民間主導の医療研究をどう捉えますか。そして、AIが医療分野でもたらす可能性について、どのような期待や不安を感じているでしょうか。ぜひ皆さんのご意見をお聞かせください。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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