Get SET Early、インド初の自閉症早期診断システム―視線追跡で生後12か月から検出可能

[更新]2025年9月3日12:31

Get SET Early、インド初の自閉症早期診断システム―視線追跡で生後12か月から検出可能 - innovaTopia - (イノベトピア)

Butterfly Learnings社は2025年9月1日、インド初の規制承認済み自閉症スクリーニングシステム「Get SET Early」を発表した。

このシステムは視線追跡技術と行動科学を用いて数分でデータに基づく評価を提供する。カリフォルニア大学サンディエゴ校の自閉症センター・オブ・エクセレンスの共同ディレクターであるカレン・ピアース博士が開発した。

同ツールは子供の視線の動きを通じて社会的注意パターンを測定し、自閉症スペクトラム障害の兆候の有無と症状の重症度を示すスコアを生成する。生後12~24か月の子供の自閉症リスクを検出可能である。

インドでは従来4歳や5歳での診断となっていた。同国では68人に1人の子供が自閉症の診断を受けている。Butterfly Learnings社は小児科クリニック、学校、治療センターでの技術展開を計画している。

From: 文献リンクNew eye tracking tech promises earlier autism diagnosis for children in India

【編集部解説】

今回のGet SET Earlyの発表は、自閉症診断における重要な技術的ブレイクスルーを示しています。従来のインドにおける自閉症診断は、専門医による行動観察と保護者への問診に依存していました。この手法では診断者の経験や主観に左右されやすく、結果的に診断が4〜5歳まで遅れる要因となっていました。

視線追跡技術の核心は、社会的注意の測定にあります。自閉症スペクトラム障害の子供は、人の顔や表情への注視パターンが定型発達の子供と異なることが知られています。Get SET Earlyは、この違いを精密なセンサーで捉え、データ化することで客観的な評価を実現します。

この技術の革新性は、検査時間の劇的な短縮にあります。従来の診断プロセスが数時間から数日を要していたのに対し、わずか数分で評価が完了します。これにより、多くの子供に対するスクリーニングが現実的になり、見逃されていた症例の発見につながる可能性があります。

生後12〜24か月での早期検出が可能になることで、脳の可塑性が最も高い時期での介入が実現します。この時期の療育は、後年の学習能力や社会適応に決定的な影響を与えることが研究で示されており、長期的な生活の質向上が期待されます。

一方で、技術導入には課題も存在します。視線追跡装置は精密機器であり、適切な運用には専門的な知識と維持管理が必要です。また、インドのような多様な文化的背景を持つ国では、視線パターンの個人差や文化的違いをどこまで考慮できるかが重要な論点となります。

規制承認の意義も見逃せません。インドの医薬品規制当局CDSCOによる承認により、この技術は正式な医療診断ツールとしての地位を獲得しました。これにより医療保険の適用範囲に含まれる可能性が高まり、より多くの家族がアクセスできるようになります。

Butterfly Learnings社は、1テスト1,500ルピー以下での提供を計画しており、従来の診断費用と比較して大幅なコスト削減が実現されます。同社は全国の小児科クリニック、学校、療育センターでの展開を予定しており、インド最大の早期スクリーニングネットワーク構築を目指しています。

長期的な視点では、この技術がインド国内にとどまらず、同様の課題を抱える発展途上国への展開が期待されます。特に専門医不足が深刻な地域において、客観的で標準化された診断ツールの導入は、医療格差の解消に大きく貢献する可能性があります。

【用語解説】

視線追跡技術(アイトラッキング)
眼球の動きや視線の方向を高精度センサーで測定する技術。自閉症診断では、子供が社会的刺激(人の顔など)と非社会的刺激(物体など)をどのように見るかの違いを分析に活用する。

自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder)
社会的コミュニケーションの困難や反復的行動などを特徴とする発達障害。「スペクトラム」は症状の幅広さを表し、軽度から重度まで連続的な症状を示す概念である。

CDSCO(Central Drugs Standard Control Organization)
インドの医薬品・医療機器に関する中央規制機関。保健家族福祉省の下で、新薬承認、臨床試験規制、薬事監視などを担当し、国際基準への適合を推進している。

Get SET Early
スクリーニング(S)、評価(E)、治療(T)の頭文字を取った自閉症早期発見システム。生後12か月から24か月の乳幼児を対象とし、従来の4〜5歳での診断を大幅に早期化することを目指す。

社会的注意パターン
人や表情などの社会的刺激に対する注意の向け方や持続時間。自閉症の子供は定型発達の子供と異なるパターンを示すことが知られ、診断の客観的指標として活用される。

【参考リンク】

Butterfly Learnings(外部)
インド全国75拠点以上で児童の発達支援を行う医療プラットフォーム企業。ABA療法等を提供し、Get SET Earlyを展開。

UC San Diego Autism Center of Excellence(外部)
カレン・ピアース博士が共同ディレクターを務める自閉症研究の世界的拠点。Get SET Early技術開発元。

【参考記事】

Butterfly Learnings Unveils India’s First Approved System for Early Autism Detection(外部)
Economic Times記事。Get SET Earlyの詳細仕様や1,500ルピー以下での提供計画について報告。

AI model aids early detection of autism(外部)
カロリンスカ研究所記事。AutMedAI機械学習モデルによる約80%精度での自閉症識別成功事例。

Implementing the Get SET Early Model in a Community Healthcare Setting(外部)
NCBI論文。45,504件のスクリーニング実施結果と診断年齢22か月短縮の実証データ。

ETRI develops innovative technology for early autism screening in young children(外部)
韓国ETRI研究所による6分間映像観察AI自閉症スクリーニング技術開発の競合事例。

【編集部後記】

今回ご紹介したGet SET Earlyは、まさに「Tech for Human Evolution」を体現する革新的なシステムです。視線という自然な行動を通じて、言葉を話せない幼い子供たちの発達状況を客観的に評価できる技術は、医療における大きなパラダイムシフトと言えるでしょう。

私がデザイナーとして特に注目しているのは、この技術のユーザビリティです。従来の診断が専門医による長時間の観察を必要としていたのに対し、数分という短時間で完了する点は、子供への負担を大幅に軽減します。また、客観的なデータに基づく評価は、診断の標準化という点でも重要な意味を持ちます。

この技術がインドで実用化されることで、同様の課題を抱える他の国々への展開も期待されます。特にアジア地域では、韓国のETRIをはじめ各国で類似技術の開発が進んでおり、国際的な技術競争が激化している状況です。日本でも早期導入が実現すれば、多くの家族にとって希望の光となるのではないでしょうか。

今後も、テクノロジーが人間の可能性を広げ、より良い社会を実現していく事例として、このような医療分野のイノベーションに注目していきたいと思います。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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