イギリスのエディンバラ大学の研究チームが、約12,000人を対象とした研究でロングCOVIDと月経周期の関連性を調査した。調査対象は、ロングCOVID患者1,048人、急性COVID-19感染者1,716人、未感染者9,423人である。研究は2025年9月16日に発表され、Nature Communications誌に掲載された。
研究結果では、ロングCOVID患者において月経量増加、月経期間延長(8日以上)、月経間出血、月経欠如が未感染者と比較して有意に増加することが判明した。一方、急性COVID-19感染者では月経量のみが増加したが、統計的有意性に達しなかった。ロングCOVID患者は月経開始2日前から月経期間中にかけて、疲労、ブレインフォグ、記憶障害、労作後疲労などの症状が悪化することも明らかになった。
研究者らはロングCOVID患者10人から血清と子宮内膜組織を採取し、健康な対照群と比較した。その結果、子宮内膜の炎症とアンドロゲンホルモンの増加が月経異常に関与していることが示唆された。卵巣機能は正常に保たれていた。この研究により、ロングCOVIDと月経症状が相互に影響し合う双方向性の関係が存在する可能性が示された。
From: 
Long COVID Could Mess With Menstruation in a Horrid Feedback Loop
【編集部解説】
ロングCOVIDと月経異常の関連について、従来のCOVID-19感染症研究では見過ごされがちだった「性差」や「生殖関連の健康」が科学的に明るみに出たという点で、本研究は重要な分岐点を示しています。特に、エディンバラ大学の大規模調査は、1,000人規模を超えるサンプルをもとにした信頼性の高いデータを提供しているため、専門家からも注目されています。更に複数の英語圏メディアやNature Communications等で参照されており、研究としての透明性も高いです。
今回の発表で焦点となったのは、単なる感染による一過的な炎症反応ではなく、ロングCOVIDという長期化した症状がホルモンや免疫系に継続的な影響を及ぼす可能性を示唆した点です。月経周期や女性ホルモンと免疫の関係は元々複雑ですが、ロングCOVID患者でのみ炎症やホルモン値の乱れが顕著であるという事実は、月経不順の治療や生活支援の新たなアプローチを求められることを意味します。
この研究で示された「双方向性のフィードバックループ」――つまり、ロングCOVIDが月経周期を乱し、月経によるホルモン変化や身体負荷がまたロングCOVID症状を強める――という構造は、従来の医療リソースでは対応できない難しさを浮き彫りにしています。特に疲労や脳機能低下といった症状の増悪が周期的に生じることは、就業や学業、家庭生活にも波及しやすい現実的な課題です。
今後の課題としては、女性や月経のある人々に対し、よりパーソナライズされたフォローや支援施策を医療現場が拡充する必要性が高まると考えられます。また、データの積み上げが進めば、保険・社会制度にも反映され、人びとの生活の質向上や偏見の解消へと繋がる可能性もあります。
ロングCOVIDの研究は世界中で進んでいますが、このように生理・ホルモン・免疫という多面的視点から症状を捉えることは、「個人差」の尊重やひとりひとりに合った未来型ヘルスケア実現への新たな一歩となりそうです。
【用語解説】
ロングCOVID
COVID-19に感染後、数週間から数か月にわたって疲労、呼吸困難、認知機能障害などの症状が持続する状態。世界保健機関(WHO)では感染から3か月経過後も症状が続く場合と定義している。
子宮内膜
子宮の内側を覆う粘膜組織。月経周期に応じてホルモンの影響で厚くなり、妊娠が成立しなかった場合に剥がれ落ちて月経となる。炎症が起こると月経量や期間に異常をきたすことがある。
アンドロゲン
男性ホルモンの総称で、テストステロンが代表的。女性の体内でも副腎や卵巣で少量産生され、筋肉量や骨密度の維持に関与する。過剰になると月経不順や多毛などの症状が現れることがある。
プロゲステロン
卵巣から分泌される女性ホルモンの一種。排卵後に分泌量が増加し、妊娠の維持や子宮内膜の調整に重要な役割を果たす。月経前に急激に減少することで月経が始まる。
サイトカイン
免疫細胞から分泌される炎症性タンパク質。感染や炎症に対する免疫反応を調節する。過剰な産生は慢性炎症や自己免疫疾患の原因となることがある。
労作後疲労
軽い身体活動や精神的負荷の後に現れる異常な疲労感。ロングCOVIDや慢性疲労症候群の特徴的な症状で、休息しても回復しにくい。
【参考リンク】
エディンバラ大学(外部)
スコットランドの名門大学で1583年創立。医学・生物学分野で世界トップクラスの研究機関として知られ、今回の研究を主導した。
Nature Communications(外部)
自然科学分野の権威ある学術誌Nature系列のオープンアクセス誌。生物学、物理学、化学などの幅広い分野の研究論文を掲載している。
【参考記事】
Association of long COVID with abnormal uterine bleeding and reproductive health measures(外部)
今回報告された研究の原著論文。英国の12,000人を対象とした調査データをもとに、ロングCOVIDと月経異常の関連性を統計的に分析し、生物学的メカニズムを解明した学術論文。
【編集部後記】
今回の研究は、女性の健康とテクノロジーの関わりについて考える大切なきっかけになりそうです。ロングCOVIDと月経の関係が科学的に明らかになったことで、これまで見過ごされがちだった女性特有の健康課題にもデータドリブンなアプローチが広がっていくかもしれません。デジタルヘルス技術や月経管理アプリなども、こうした複雑な症状の記録や予測により活用されていく可能性があります。
皆さんは、日々の体調変化をテクノロジーでサポートしてもらいたいと感じることはありますか?それとも、医療分野でのデータ活用には慎重になるべきでしょうか?




		



















