AI vs 人間コーチ、減量効果の差は?ミシガン大学が3年間6.5万人調査で明らかにしたハイブリッドモデルの実力

[更新]2025年10月14日11:59

AI vs 人間コーチ、減量効果の差は?ミシガン大学が3年間6.5万人調査で明らかにしたハイブリッドモデルの実力 - innovaTopia - (イノベトピア)

ミシガン大学ロス経営大学院のPuneet Manchanda教授らによる研究で、AIと人間のコーチを併用した減量プログラムが、AIのみを使用した場合と比較して74%高い減量効果を示すことが明らかになった。

インド発の健康・フィットネスアプリHealthifyMeの約65,000人のユーザーを3年間調査した結果、AIコーチ「Ria」のみを利用する月額44ドルのプランでは3か月で平均1.22キログラム減量したのに対し、人間のコーチも利用できる月額50ドルのプレミアムプランでは2.12キログラムの減量を達成した。

ハイブリッドモデルのユーザーは、より高い減量目標を設定し、食事記録を週102回と約2倍の頻度で行い、体重測定も週1.35回と高頻度で実施した。女性、高齢者、開始時のBMIが低いユーザーで特に効果が高かった。

共同研究者にはミズーリ大学のAnuj Kapoor氏、スタンフォード大学のSridhar Narayanan氏が参加している。

From: 文献リンクHuman-AI coaching models boost weight loss

【編集部解説】

この研究が示しているのは、AIの限界と可能性の両面です。約65,000人という大規模データから導き出された74%という数値は確かに印象的ですが、絶対値で見ると3か月で約0.9キログラムの差に過ぎません。月額6ドルの差額に対して、この効果をどう評価するかは利用者次第でしょう。

注目すべきは行動変容のメカニズムです。人間のコーチがいることで、ユーザーは食事記録の頻度が2倍以上になり、より野心的な目標を設定するようになりました。これはAIが提供する「情報」だけでなく、人間が介在することで生まれる「責任感」や「恥ずかしさ」といった感情的要素が行動を促進していることを意味します。

興味深いのは、BMIが高い人ほど効果が低かったという逆説的な結果です。研究者は「人間のコーチとのやりとりに恥ずかしさを感じる」ことが一因だと分析していますが、これは人間中心のサービス設計における重要な示唆となります。共感やカスタマイゼーションが必ずしも万人に有効ではないという事実は、パーソナライゼーションの次なる課題を提起しています。

ヘルステック企業にとって、この研究は人的リソースの最適配分という経営課題を突きつけます。人間のコーチは高コストでスケールしにくい一方、効果が高いユーザー層が明確になったことで、戦略的な投資判断が可能になりました。完全自動化を目指すのではなく、AIと人間の役割分担を再定義する時期に来ていると言えるでしょう。

政策的観点では、肥満対策における公平性の問題が浮上します。最も支援が必要な高BMI層への効果が限定的であるなら、公衆衛生プログラムとしてのハイブリッドモデルは万能ではありません。テクノロジーが健康格差を縮小するどころか、むしろ拡大させる可能性にも目を向ける必要があります。

【用語解説】

HealthifyMe
インドで設立された健康・フィットネス管理アプリ。AI コーチ「Ria」を搭載し、栄養管理やフィットネスプランの提供を行う。月額44ドルのAIのみのプランと、月額50ドルの人間コーチ付きプレミアムプランを提供している。

BMI(Body Mass Index / ボディマス指数)
体重と身長から算出される肥満度を表す指標。体重(kg)を身長(m)の二乗で割って計算する。WHOの基準では18.5未満が低体重、18.5以上25未満が標準体重、25以上が過体重とされる。

ハイブリッドモデル
この文脈では、AIによる自動化されたサービスと人間による対人サービスを組み合わせた提供形態を指す。それぞれの強みを活かし、効率性と人間的な共感の両立を目指す。

統計的マッチング技術
異なるグループ間の比較において、年齢や性別などの交絡因子を調整し、公平な比較を可能にする統計手法。この研究では、AIのみのユーザーと人間コーチ付きユーザーの条件を揃えるために使用された。

【参考リンク】

ミシガン大学ロス経営大学院(外部)
米国ミシガン州アナーバーに位置する名門ビジネススクール。今回の研究を主導したPuneet Manchanda教授が所属している。

スタンフォード大学経営大学院(外部)
カリフォルニア州に位置する世界トップクラスのビジネススクール。共同研究者のSridhar Narayanan教授が在籍している。

ミズーリ大学(外部)
米国ミズーリ州コロンビアに位置する州立大学。共同研究者のAnuj Kapoor氏が所属し、デジタルマーケティング研究を行っている。

【参考記事】

Human-AI coaching models boost weight loss(外部)
ミシガン大学の公式ニュースリリース。65,000人のユーザーデータからハイブリッドモデルが74%高い減量効果を示したことを報告。

Hybrid Coaching Models Enhance Weight Loss Outcomes(外部)
研究結果を詳しく報じた記事。女性と高齢者で高い効果、BMIが低いユーザーで効果が高かったという逆説的な結果について言及。

Systematic review exploring human, AI, and hybrid health coaching(外部)
人間、AI、ハイブリッドヘルスコーチングに関する体系的レビュー論文。デジタルヘルス分野における役割分担について考察している。

【編集部後記】

AIと人間、どちらが「自分を変えてくれる」存在だと思いますか?この研究が示唆するのは、効率性だけでは行動変容は起きないということかもしれません。月額6ドルの差をどう捉えるかは、私たち一人ひとりの価値観次第です。

でも興味深いのは、人間がいることで食事記録の頻度が2倍になったという事実。テクノロジーが進化すればするほど、「誰かに見られている」という感覚の価値が浮き彫りになってくるのかもしれませんね。みなさんなら、AIだけのコーチと、人間も関わるコーチ、どちらを選びますか?

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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