VinFast、ASEAN初のEV組立工場をインドネシアに建設—170ヘクタール敷地で現地雇用創出

VinFast、ASEAN初のEV組立工場をインドネシアに建設—170ヘクタール敷地で現地雇用創出 - innovaTopia - (イノベトピア)

ベトナムの電気自動車メーカーVinFastが2024年7月15日、インドネシア西ジャワ州スバンで同社初の組立工場の起工式を実施した。

VinFastはベトナム最大級コングロマリットVingroup Joint Stock Companyの子会社である。新工場は2025年第4四半期に操業開始予定で、インドネシア市場向けの右ハンドル仕様EVを製造する。

生産予定車種はVF 3、VG 5、VF 6、VF 7のe-SUVモデルで、年間生産能力は5万台である。工場は170ヘクタールの敷地に2億米ドルを投資して建設され、ボディショップ、総組立ショップ、塗装ショップ、テスト区域を備える。

VinFastインドネシアCEOのテミー・ウィラジャジャ氏と大統領首席補佐官モエルドコ氏が起工式に参加した。VinFastは2024年2月にインドネシア市場に参入し、VF 5とVF e34の2モデルを既に発売している。

From: 文献リンクVinFast breaks ground on first ASEAN EV assembly plant in Indonesia

【編集部解説】

注目すべきは、この動きが単なる市場参入ではなく、ASEANにおけるEVサプライチェーンの地政学的な再構築を意味することです。従来の中国メーカー主導の構図に対して、ベトナム発のメーカーがインドネシアで現地生産を開始することで、域内の技術移転とサプライチェーンの多様化が進むでしょう。

インドネシア政府の強力なバックアップも見逃せません。EVに対する輸入関税の停止や現地生産車への減税措置など、積極的なインセンティブ政策が展開されています。これは同国が2030年までに電気自動車200万台、電動二輪車1200万台の普及を目指す野心的な目標と連動したものです。

技術的な側面では、右ハンドル仕様の製造ラインを新設することで、インドネシア市場だけでなく、将来的にはASEAN右ハンドル圏への輸出拠点としても機能する可能性があります。年間5万台という生産能力は現在のインドネシアEV市場規模を考慮すると十分な規模といえるでしょう。

一方で、潜在的なリスクも存在します。VinFastは現在、世界的にEV市場の成長鈍化という逆風に直面しており、同社の財務基盤やブランド認知度の課題は残っています。また、インドネシアの充電インフラ整備はまだ初期段階にあり、消費者の実際の購買行動との乖離も考慮すべき要素です。

長期的な視点では、この投資はベトナムが製造業輸出国から多国籍企業の本拠地へと発展していく象徴的な事例といえます。ASEANの零関税貿易圏やインドネシアの豊富なニッケル資源を活用した戦略は、今後のアジア域内EV産業の新たなモデルケースとなる可能性を秘めています。

【用語解説】

ASEAN(東南アジア諸国連合)
東南アジア10カ国で構成される地域機構で、域内の経済統合と自由貿易を推進している。

e-SUV
電気自動車のSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)を指す用語で、従来のガソリン車SUVを電動化したもの。

右ハンドル仕様
運転席が車両の右側に配置された仕様で、道路の左側通行国(日本、インドネシア、マレーシア、シンガポールなど)で使用される。

バッテリーサブスクリプション
EVの車体価格とバッテリー価格を分離し、バッテリーを月額制でレンタルするサービス。初期購入価格を抑える効果がある。

現地組立生産(CKD:Complete Knock Down)
海外の製造拠点で部品を組み立てて完成車にする生産方式で、関税優遇や雇用創出効果がある。

【参考リンク】

VinFast(外部)
ベトナム発のEVメーカーの米国公式サイト。全EV車種ラインナップと技術仕様、グローバル戦略について詳細情報を提供

Vingroup(外部)
VinFastの親会社で、ベトナム最大級のコングロマリット。不動産、テクノロジー、ヘルスケア、教育などの事業を展開

VinFast Indonesia(外部)
VinFastのインドネシア公式サイト。現地販売中のVF 5とVF e34の詳細仕様、価格、バッテリーサブスクリプションプログラムの情報を掲載

【参考記事】

VinFast Breaks Ground on New EV Assembly Plant in Indonesia(外部)
VinFast公式による工場建設発表。2億米ドル投資、170ヘクタールの敷地、年産5万台の生産能力など詳細な数字を含む公式発表内容

Indonesian Electric Vehicle Boom: A temporary trend or a long-term vision(外部)
インドネシアのEV市場動向を分析。2024年のEV販売が43%増、2030年までに600万台の国内生産目標、充電インフラ整備の課題などを詳述

Indonesia’s EV market shows strong growth despite broader industry challenges(外部)
PwCによるインドネシアEV市場分析。2025年第1四半期のEV販売が前年同期比43.4%増、EV市場シェア拡大予測など

VinFast officially launches VF 5 for sale in Indonesia(外部)
VF 5のインドネシア販売開始に関する公式発表。車両価格3億1千万インドネシアルピア、バッテリーサブスクリプション込み価格など具体的価格情報

VinFast officially starts sales of VF e34 e-SUV in Indonesia(外部)
VF e34のインドネシア市場投入に関する詳細。バッテリー別価格3億1500万ルピア、月間走行距離に応じた段階的サブスクリプション料金体系を説明

【編集部後記】

今回のVinFastのインドネシア進出を見ていて、正直なところ「日本の自動車メーカー、どうするねん?」という思いが頭をよぎります。インドネシアでは長年、日系メーカーが9割近いシェアを誇ってきた「牙城」だったのに、ここにきてベトナム勢まで本格参入とは。

実際、トヨタが今年12月にようやくインドネシアでのEV現地生産を開始すると発表したばかりですが、VinFastは既に起工式を済ませて来年第4四半期には稼働予定。この「動きの速さ」の差は何なのでしょうか。

でも同時に、日本企業の慎重さも今となっては理解できる面もあります。というのも、トランプ政権下でアメリカのEV政策が大転換しているからです。2030年のEV普及率予測が50%から20%台まで大幅下方修正され、EV税額控除の廃止やカリフォルニア州のゼロエミッション車義務撤回など、まさに「EVからの逆流」が始まっています。

ここで興味深いのは、アジア市場では中国・ベトナム勢がEV投資を加速させている一方で、アメリカは「反EV」に舵を切っているという対照的な状況です。日本企業はこの真逆の潮流の中で、一体どちらに軸足を置くべきなのでしょうか。

アジア市場に全振りしてEVを推進すべきなのか、それともアメリカ市場を重視してハイブリッド技術で勝負すべきなのか。トランプ氏が「誰も欲しがらないEV」と批判する一方で、アジアの若者たちは中国・韓国製EVを選択肢の多さで評価している現実。この地政学的な分断の中で、日本企業の戦略立案は本当に難しい局面に来ていると感じます。皆さんはどう思われますか?

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TaTsu
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