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9月20日【今日は何の日?】バスの日ーバスの歴史と未来

[更新]2025年12月23日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

蒸気の音から始まった革命

1903年9月20日、京都の街に見慣れない轟音が響きました。蒸気自動車を改造した6人乗りの車両。幌もなく、雨が降れば乗客は濡れる。それでも、人々は列を作りました。日本初のバス運行の瞬間です。

この日を記念して制定された「バスの日」。しかし、この記念日が意味するのは単なる過去の振り返りではありません。2025年の今、バスは再び変革の只中にあります。自動運転、燃料電池、IoT化――技術の収束点で、バスは何に変わろうとしているのでしょうか。

制約が生んだ創意工夫

戦時中の木炭バス――石油禁止が生んだ技術

1941年9月1日、ガソリン使用の全面禁止が発表されました。バスやタクシーは代替燃料車のみ営業可能に。こうして生まれたのが木炭バスです。

車載した木炭ガス発生装置で木炭を不完全燃焼させ、一酸化炭素と水素の合成ガスを生成する。エンジンがかかるまで30分以上。馬力は弱く、坂道では乗客が降りて押すこともありました。それでも、人々の足は止まりませんでした。1949年、GHQの占領政策転換まで木炭バスは走り続けます。

この「充電時間」や「航続距離」という制約は、現代の電気自動車が直面する課題と驚くほど似ています。

トロリーバス――96年の実験の終焉

1928年、阪急が大阪で1.6kmのトロリーバスを運行。架線から電気を取って走るバスは、法律上は鉄道車両でした。

戦後、川崎市が1951年に導入したトロリーバスは、線路不要で建設費が安く、電気という安価な動力源、バスより多い定員という利点がありました。朝夕の殺人的なラッシュアワーへの対応策として。

しかし1972年、横浜市営トロリーバスの廃止で大都市から姿を消し、2024年11月30日、立山トンネルの最終運行をもって日本のトロリーバス史は幕を閉じました。96年間の実験は、何を残したのでしょうか。

バチバスと戦車――戦争技術の平和転用

北海道の冬。積雪対策として、九五式軽戦車が馬そりを牽引してバスを運びました。「バチバス」と呼ばれたこの雪上バスは、戦後の創意工夫の結晶です。

旧陸軍払い下げの戦車やトラック、米軍のアンヒビアンバスを除雪車に改造。2020年代になっても、北海道で改装車体が発見されています。戦争が生んだ技術は、こうして人々の生活を支えました。

2025年、バスは何に変わったか

燃料電池バス――水しか出さない”究極のエコカー”

東京都内を走る100台以上の燃料電池バス。水素と酸素を化学反応させて電気を生み、モーターを回す。排出するのは水だけです。

トヨタの「SORA」は大容量外部給電システムを搭載し、災害時には電源として機能します。バスは交通手段から、都市インフラの一部へ。

JR東日本は浜松町駅周辺で燃料電池バスを運行中。2050年度のCO2排出量「実質ゼロ」への取組の一環として。都市のエネルギー変革を、バスが牽引しています。

レベル4自動運転――運転手のいないバス

2025年2月3日、茨城県日立市の「ひたちBRT」で国内初の中型バスによるレベル4自動運転が始まりました。運転者なし。走行距離は約6.1km、国内最長です。

日本バス協会の予測では、2030年に約36,000人の運転手が不足します。この深刻な人材不足への答えが、自動運転でした。

相鉄バスは2025年3月、5Gを用いた自動運転EVバスの実証実験を実施。安定した映像伝送を実現し、遠隔監視の可能性を示しました。バスはIoTデバイスとして、都市のデジタルインフラに組み込まれつつあります。

ヘルスケアMaaS――移動する診療室

2022年11月、藤沢市で行われた実証実験。自動運転シャトルバスの車内で心電図や血圧を計測し、病院スタッフがオンラインで結果を閲覧。到着後、すぐに診療へ。

バスが移動手段から移動する医療施設へ。この変化は、まだ始まったばかりです。

制約が技術を駆動する

1903年の蒸気バスから2025年のレベル4自動運転バスまで。振り返れば、技術革新の原動力は常に制約でした。

戦時中の石油統制が木炭バスを生み、大気汚染問題がトロリーバスを育て、環境問題と人材不足が燃料電池・自動運転バスを推進した。制約は、創意工夫を引き出します。

電動化、自動運転、IoT化、AI活用。これらは独立した技術ではなく、相互に影響し合いながら収束しつつあります。その先に何があるのか――それは、まだ誰にもわかりません。

122年前、京都の街を走った幌なしの蒸気バス。今日、茨城を走る運転手のいないバス。移動という人類の根源的な行為は、こうして静かに、しかし確実に更新され続けています。


Information

参考リンク

用語解説

燃料電池バス(FCバス)
水素と酸素を化学反応させて電気を生み出し、その電気でモーターを駆動するバス。走行時にCO2や環境負荷物質を排出せず、”究極のエコカー”とも呼ばれる。

レベル4自動運転
SAE(米国自動車技術会)が定義する自動運転レベルの一つ。特定条件下で、システムが全ての運転操作を実施し、運転者の介入が不要な状態。日本では2023年4月に公道での運行が解禁された。

MaaS(Mobility as a Service)
鉄道、バス、タクシー、シェアサイクルなど複数の交通手段を一つのサービスとして統合し、スマートフォンアプリなどで検索・予約・決済を行えるようにする概念。

トロリーバス
道路上空に張られた架線から取った電気を動力として走るバス。日本では法律上「無軌条電車」として鉄道車両に分類されていた。

木炭ガス発生装置
木炭を不完全燃焼させて一酸化炭素と水素からなる合成ガスを生成し、内燃機関の燃料とする装置。戦時中の石油統制下で、代替燃料として広く使用された。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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