テスラは米国で新型の廉価版Model YとModel 3が顧客への納車間近であることが報じられた。テキサス州オースティン工場の出荷待ち駐車場で、新生産されたStandard Model Y車両が確認された。
Model 3 Standardの価格は36,990ドルから、Model Y Standardは39,990ドルからで、両モデルとも40,000ドル以下となる。
これは従来のベースRWD Model 3より14%低く、RWD Model Yより11%低い価格である。欧州では39,990ユーロから販売され、従来のRWDモデルの49,990ユーロから約20%の値下げとなった。
Standard版は18インチホイールやテキスタイルシートが採用されたほか、リアスクリーンの非搭載、スピーカー数の削減(7スピーカー)、シートやミラーの手動調整化など、随所でコスト削減が図られている。なお、FSD Supervised用のハードウェア4とフロントバンパーカメラは維持している。Model Y Standardの牽引能力は約1,600kgである。
From: Tesla begins production of lower cost EV, with first customer deliveries imminent
【編集部解説】
テスラが満を持して投入した廉価版モデルは、EV市場における同社の戦略転換を象徴する動きです。これまでテスラは高性能・高価格帯でブランドイメージを確立してきましたが、40,000ドル以下という価格設定は、より広い顧客層へのアプローチを明確に示しています。
注目すべきは、コスト削減の方法論です。Standard版では、フルワイド・ライトバーの削除、テキスタイルシートの採用、リアスクリーンの非搭載など、視覚的・触覚的な部分でコストカットを実施しています。その上でFSD Supervised(監視型自動運転支援)対応のハードウェア4とフロントバンパーカメラは維持されており、将来的なソフトウェアアップグレードの余地を残している点が戦略的といえるでしょう。
また、航続距離は両モデルとも米国環境保護庁(EPA)推定値で321マイル(約517km)とされています。なお、これは米国での測定基準による数値であり、日本国内で販売されるモデルの航続距離は国土交通省の審査値(WLTCモード)が適用されるため、現在日本で販売しているModel 3のRWDモデルの航続距離は594kmと公表されています。今後、この新しい廉価版モデルが日本市場に導入される際の正式なスペックが待たれます。
さて、今回発表されたこの価格帯は、従来テスラに手が届かなかった価格志向の消費者だけでなく、フリート市場への参入を加速させる可能性があります。この価格帯は、ヒョンデIONIQ 5やFord Mustang Mach-Eといった強力なライバルがひしめく激戦区であり、テスラが販売台数をさらに伸ばすための重要な一手と見られています。特に欧州市場での約20%の値下げは、補助金制度の変化や競合他社の台頭に対する対抗策とも読み取れます。
ただし、利益率への影響は避けられません。テスラが従来維持してきた高い粗利益率が、この廉価版投入によってどの程度圧迫されるのか、今後の決算発表が注視されます。また、既存のRWDモデル購入者との価格差が大きいため、ブランドイメージの希薄化リスクも考慮する必要があります。
長期的には、この動きがEV市場全体の価格競争を加速させ、内燃機関車からの移行を促進する触媒となる可能性があります。テスラの生産効率とスケールメリットが、業界全体の価格水準を引き下げる起点になるかもしれません。
【用語解説】
FSD Supervised(Full Self-Driving Supervised)
テスラが提供する高度な運転支援システム。完全自動運転ではなく、ドライバーの監視下で作動する自律走行機能を指す。ハードウェア4は、このシステムを動作させるために必要なカメラやセンサー、コンピューティング能力を備えた最新世代のハードウェアプラットフォームである。
RWD(Rear-Wheel Drive)
後輪駆動方式。テスラのラインナップにおいては、AWD(全輪駆動)よりも価格が抑えられたエントリーモデルとして位置づけられることが多い。
フランク(Frunk)
フロント(Front)とトランク(Trunk)を組み合わせた造語で、EVの前部にある荷物スペースを指す。エンジンがないEVならではの収納空間である。
フリート購入者
企業や組織が業務用に複数台の車両をまとめて購入・リースする顧客層。レンタカー会社、配送業者、タクシー会社などが該当し、価格感応度が高い傾向にある。
【参考リンク】
Tesla公式サイト(外部)
テスラの電気自動車およびエネルギー製品の公式サイト。Model 3、Model Yをはじめとする製品ラインナップ、仕様、価格情報が掲載されている。
The Driven(外部)
オーストラリアを拠点とする電気自動車とクリーンエネルギーに特化したオンラインメディア。EV業界の最新ニュース、レビュー、分析記事を提供。
【参考記事】
2026 Tesla Model 3, Model Y Standard: Small Cuts for Big …(外部)
自動車専門メディアによる廉価版モデルの詳細な解説。コスト削減と価格への影響についての分析。
【編集部後記】
テスラの廉価版投入は、EV市場の転換点となるかもしれません。価格が下がることで、これまで「まだ高い」と感じていた層にも選択肢が広がります。一方で、コストカットされた部分と維持された技術のバランスをどう捉えるか、皆さんはどのようにお考えでしょうか。
リアスクリーンがなくなっても、FSD Supervised対応のハードウェアは残されています。この選択は、テスラが描く未来像を示唆しているのかもしれません。EVの「本質的な価値」とは何か、価格と機能のトレードオフをどこで折り合いをつけるべきか。皆さんがEVを選ぶとしたら、何を最も重視されますか。ぜひSNSで意見を聞かせていただけると嬉しいです。