本田技研工業の三部敏宏社長は2025年10月29日、ジャパンモビリティショー2025で記者会見を行い、陸海空および宇宙領域のモビリティ製品と技術を発表した。
次世代EVシリーズ「Honda 0シリーズ」の新型SUV「Honda 0 α」のプロトタイプを世界初公開し、2027年に日本とインドを中心にグローバル販売を開始する予定である。
日本では2027年度中にHonda 0 Saloon、Honda 0 SUV、Honda 0 αの3モデルを発売する。コンパクトEV「Super-ONE」は2026年に日本で先行発売され、その後アジア諸国と英国で展開される。
電動二輪車のコンセプトモデル「EV OUTLIER Concept」も世界初公開された。ホンダ独自の車両OS「ASIMO OS」を搭載し、超個人最適化を実現する。
また、2025年6月に北海道で実施したロケットの打ち上げおよび着陸試験に使用した実機も展示された。
From:
Overview of Honda CEO Speech at the Japan Mobility Show 2025
【編集部解説】
ホンダが掲げる「Thin, Light, and Wise.(薄く、軽く、賢く)」という開発コンセプトは、EV業界の常識への真っ向からの挑戦です。一般的にEVは大容量バッテリーを搭載するため車体が厚く重くなりがちですが、ホンダはパッケージング技術の革新によって、低車高でありながら広い室内空間と十分な最低地上高を両立させています。
今回発表されたHonda 0 αは、シリーズの「ゲートウェイモデル」として位置付けられている点が重要でしょう。フラッグシップのSaloonや本格SUVのSUVに比べ、より多くの顧客にアプローチできる価格帯とサイズ感を目指しており、2027年の発売は日本とインドが中心となります。インド市場を重視する戦略は、同国の急速な電動化需要と製造拠点としてのポテンシャルを見据えたものと考えられます。
技術面で注目すべきは、ASIMO OSの搭載です。かつて二足歩行ロボットとして世界を驚かせたASIMOの名を冠したこの車両OSは、自動運転技術、統合制御システム、デジタルユーザー体験を統括し、OTA(Over-The-Air)アップデートによって購入後も進化し続けます。使えば使うほど運転者の好みや運転パターンを学習する「超個人最適化」は、スマートフォンのような体験を自動車にもたらす試みといえるでしょう。
Super-ONEの「ブーストモード」は、EV特有の静粛性に対する懸念への興味深い回答です。擬似的なエンジン音とシフトチェンジの感覚を再現することで、従来の内燃機関車の運転の楽しさとEVの加速性能を融合させています。これは「運転する喜び」というホンダの哲学を電動化時代にどう継承するかという課題への一つの解として評価できます。
最も驚きなのは、ロケット開発への本格参入でしょう。2025年6月に北海道で実施された試験では、全長6.3m、直径85cm、乾燥重量900kg(湿重量1,312kg)のロケットが高度271.4mまで上昇し、目標着地点から37cm以内の精度で着陸に成功しました。飛行時間は56.6秒で、姿勢制御と速度制御の精密さが実証されています。再利用可能なロケットと再生可能燃料の使用を目指す「サステナブルロケット」構想は、自動運転や航空機開発で培った制御技術の応用であり、モビリティ企業としての技術の幅広さを示すものです。
2028年3月までに日本市場へ3モデルを投入するという明確なタイムラインは、ホンダのEV戦略が具体的な実行フェーズに入ったことを意味します。市場環境の不確実性を認識しながらも、長期的なEVシフトへの確信を持って準備を進める姿勢は、技術開発に時間を要する自動車産業において重要な判断といえるでしょう。
【用語解説】
Honda 0シリーズ
ホンダが「ゼロ」から創造する次世代EVシリーズ。「Thin, Light, and Wise.(薄く、軽く、賢く)」という開発思想のもと、従来のEVの常識である「厚く重い」という特性を打破し、低床プラットフォームによる低車高と広い室内空間を両立させた設計が特徴である。
ASIMO OS
ホンダ独自の車両オペレーティングシステム。かつての二足歩行ロボット「ASIMO」の名を冠し、車両の各種機能を統合制御する。OTA(Over-The-Air)アップデートにより購入後も進化し続け、ドライバーの好みや運転パターンを学習して「超個人最適化」を実現する。
次世代ADAS
Advanced Driver Assistance System(先進運転支援システム)の次世代版。ナビゲーションで目的地を設定すると、アクセルやステアリング操作を車両が担当し、目的地まで快適に移動できる機能。2027年頃からEVおよびハイブリッドモデルに搭載予定である。
eVTOL
Electric Vertical Take-Off and Landing(電動垂直離着陸機)の略称。電動で垂直に離着陸できる航空機で、都市部での新しい空のモビリティとして期待されている次世代移動手段である。
ブーストモード
Super-ONE専用に開発された走行モード。出力増加に合わせて擬似的なエンジン音とギアシフトの感覚を再現し、EVの加速性能と内燃機関車の運転感覚を融合させた機能である。
【参考リンク】
Honda 0シリーズ公式サイト(外部)
Honda 0シリーズの開発コンセプト、搭載技術、各モデルの詳細情報を掲載。「Thin, Light, and Wise.」という開発思想やASIMO OSによる超個人最適化を解説。
ホンダ ジャパンモビリティショー2025特設サイト(外部)
ジャパンモビリティショー2025におけるホンダの出展内容を網羅。Honda 0 α、Super-ONE、EV OUTLIER Conceptの詳細を掲載。
本田技研工業株式会社(外部)
ホンダの企業情報、製品ラインナップ、最新ニュースを掲載。四輪車、二輪車、パワープロダクツ、航空機など総合モビリティ企業の事業を紹介。
【参考動画】
Honda 0 α – 公式プロモーション動画
Honda 0シリーズの新型SUV「Honda 0 α」のデザインと特徴を紹介する公式動画。都市環境と自然環境の両方に調和するスタイリングや、薄く広い室内空間を実現したパッケージングデザインが確認できる。
Super-ONE PROTOTYPE – 公式プロモーション動画
コンパクトEV「Super-ONE」のプロトタイプを紹介する公式動画。ブーストモードによる擬似エンジン音とシフトチェンジ感覚、ワイドスタンスによるダイナミックな走行性能が紹介されている。
EV OUTLIER CONCEPT – 公式プロモーション動画
2030年以降の電動二輪車の新たなビジョンを提案する「EV OUTLIER Concept」の公式動画。前後輪のインホイールモーターによるダイナミックなスタイリングと、電動化による新しい価値創造が示されている。
Honda Sustainable Rocket – 公式動画
ホンダのサステナブルロケット開発を紹介する公式動画。2025年6月の北海道における打ち上げ・着陸試験の映像と、再利用可能なロケット技術への挑戦が記録されている。
ジャパンモビリティショー2025 ホンダプレスカンファレンス(英語版)
三部敏宏社長による記者会見の完全版。Honda 0シリーズの戦略、サステナブルロケット開発、2050年カーボンニュートラル目標など、ホンダの包括的なビジョンが語られている。
【参考記事】
ホンダ、世界初公開の次世代バッテリEV「Honda 0 α」はどんなクルマ?(外部)
ジャパンモビリティショー2025で世界初公開されたHonda 0 αについて、開発担当者への詳細インタビューを掲載。技術的特徴と市場投入時期を解説。
ホンダ、次世代バッテリEV「Honda 0シリーズ」3車種は2027年に日本へ導入(外部)
三部敏宏社長の記者会見内容を詳報。Honda 0 Saloon、SUV、αの3車種を2028年3月期末までに日本市場へ投入する計画を発表。
Honda Conducts Successful Launch and Landing Test of Reusable Rocket(外部)
2025年6月北海道で実施されたロケット試験の公式発表。高度271.4m到達、着陸精度37cm以内で成功。再利用可能なロケット技術を実証。
Honda Vision for Software-Defined Vehicles (SDV) – ASIMO OS(外部)
ASIMO OSの技術的詳細を解説する公式ページ。統合制御システム、OTAアップデート機能、ユーザー体験の個人最適化を説明。
ホンダ「薄くて軽い」EVシリーズ3車種を日本投入へ!(外部)
Honda 0シリーズの日本市場投入計画を詳報。Honda 0 αが2027年発売予定で「Thin, Light, and Wise.」開発思想を解説。
【編集部後記】
ホンダが「薄く、軽く、賢く」という開発思想で既存のEVの常識に挑む姿勢に、みなさんはどんな未来を感じられるでしょうか。かつて二足歩行ロボットとして世界を驚かせたASIMOの名が、今度は車両OSとして蘇り、使えば使うほどあなた好みに進化していく。
そんな「相棒」のような存在にクルマがなっていく時代が、もうすぐそこまで来ています。さらに驚くのは、自動車メーカーが本気で宇宙ロケット開発に取り組んでいること。陸海空を越えて宇宙へ――ホンダが描く「モビリティ」の概念は、私たちの想像をはるかに超えているのかもしれません。みなさんは、どんなモビリティ体験を望まれますか?
























