JAL・住友商事・Soracle、東京都「空飛ぶクルマ」2030年市街地実装に挑む

[更新]2025年11月7日09:02

JAL・住友商事・Soracle、東京都「空飛ぶクルマ」2030年市街地実装に挑む - innovaTopia - (イノベトピア)

日本航空株式会社(JAL)を代表事業者とし、住友商事、Soracleを含む9社で構成されるコンソーシアムが、東京都の「空飛ぶクルマ実装プロジェクト」Ⅰ期の実施事業者に採択されました。

本プロジェクトは、eVTOL(電動垂直離着陸機)の社会実装を目指すもので、東京都が掲げる2030年の市街地での実装に向けた取り組みです。2025年度からの3か年間は、準備・調整・計画・検討、実証飛行、プレ社会実装の推進期間と位置づけられています。

コンソーシアムと東京都は連携し、臨海部エリア・河川上エリアでの飛行を目指します。運航環境の整備、運航支援、評価・検証を実施し、速やかな事業展開が可能な体制構築に取り組みます。JAL、住友商事、Soracleは低高度空域を活用した新たな移動手段の創出と、空港の新たな価値提供を目指し、官民連携で推進します。

From: 文献リンク東京都「空飛ぶクルマ実装プロジェクト」Ⅰ期の実施事業者に決定

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プロジェクトにおける取り組み

【編集部解説】

東京の空を移動の新しいステージへと押し上げる動きが、具体的な形を帯びようとしています。JAL、住友商事、Soracleを中心とする9社のコンソーシアムが東京都の「空飛ぶクルマ実装プロジェクト」I期の実施事業者に採択されたというニュースは、単なる事業選定にとどまりません。2030年という市街地実装の目標に向けた、日本の都市型エアモビリティの実現可能性を大きく前進させるものなのです。

eVTOL(電動垂直離着陸機)の登場が何を意味するか、おおよそ想像はつくかと思います。渋滞知らずの三次元交通、既存のインフラに頼らない新しい移動システムの出現です。しかし、技術の実現と社会実装の間には、想像以上に大きな溝が存在しています。

このプロジェクトの真の価値は、官民の連携体制にあります。JALを代表事業者とする9社コンソーシアムには、大成建設による離着陸拠点の整備、日本電気による通信・制御システムの構築、京王電鉄による鉄道ネットワークとの接続、日本空港ビルデングによる既存空港との連携といった各社の専門領域を活かしたサポート体制が構築されています。これらの要素が相互に作用することで、単なる「飛行機の試験」ではなく「新たな交通システムの社会実装」が成立するのです。

2025年度からの3か年間という具体的なタイムライン設定も注目に値します。第一段階の「準備・調整・計画・検討」では、低高度空域の運用ルールや管制システムの構築が進められます。この段階がなければ、どれだけ高度な技術も社会の中では機能しません。第二段階の「実証飛行」では、臨海部・河川上エリアでの飛行試験が行われることになります。これは東京湾岸エリアでの飛行などが想定されています。

一方、潜在的なリスクも存在します。低高度での航空機運用は、従来の航空安全の概念を大きく変えるものです。都市上空での機体故障時の対応、天候急変時の安全確保、第三者被害の補償体制といった、法制度の整備が急務となります。また、騒音問題についても、eVTOLの電動化によって低減されるとは言え、高密度での運航が始まれば新たな課題が生じる可能性があります。

それでも、このプロジェクトの推進は、国交省・経産省による「空の移動革命官民協議会」の動きと軌を一にしています。2027年度のプレ社会実装(商用運航に向けた取組)を見据え、2025年度から実証計画や環境整備を進め、2030年の市街地での商用運航実現を目指すものです。東京のプロジェクトは、その先陣を切る重要な実験場となるわけです。

Soracleは、JALと住友商事による共同設立の合弁会社です。2027年の商用運航開始を目指して準備を進めています。航空業界での長年の安全・安心への取り組みと、グローバルなビジネス展開の経験が、eVTOL運航事業の信頼性を支える基盤となるのです。

地形的な課題が多い日本において、都市部での空の利活用は、地域間格差の縮小や緊急輸送の効率化といった社会課題の解決にも繋がります。東京都が目指す2030年の市街地実装が実現すれば、大阪・関西や他の大都市圏への展開も視野に入ってきます。このプロジェクトの行く末は、単に東京の空だけにとどまらず、日本全体の移動のあり方を問い直す契機となるかもしれません。

【用語解説】

eVTOL(イーブイトール)
電動垂直離着陸機の略称。electric Vertical Take-Off and Landingの頭文字。電動モーターで複数の回転翼を駆動し、垂直に離着陸できる小型航空機である。従来のヘリコプターと異なり、複数の小型ローターを備えることで安全性を高め、電動化により騒音と排気ガスを低減できるのが特徴だ。

UAM(Urban Air Mobility)
都市型航空交通を意味する。低高度空域で都市部での運航を想定した新しい移動サービスのことである。eVTOLを活用した空港アクセスや観光輸送、緊急医療輸送などが想定されている。

低高度空域
地上高度150メートル~約500メートル程度の空間を指す。従来の航空機が飛行する空域よりも低く、都市部での空飛ぶクルマの運用に適している。既存の航空機との安全な分離運用が課題となる。

バーティポート
空飛ぶクルマの乗降地点、充電・保守拠点などの総称。垂直離着陸が可能なため、従来の空港ではなく、都市内のビル屋上や広場などに設置できることが利点である。

【参考リンク】

Soracle公式サイト(外部)
JALと住友商事が共同設立したeVTOL運航事業会社。2027年商用運航開始を目指した事業展開情報を掲載。

JAL エアモビリティ事業ページ(外部)
JALグループのドローン・空飛ぶクルマ事業総合情報。プロジェクト進捗と安全管理の取り組みが紹介。

東京都公式プレスリリース(外部)
東京都による「空飛ぶクルマ実装プロジェクト」1期の公式情報。実施期間と事業計画の詳細を掲載。

住友商事ニュースリリース(外部)
住友商事によるプロジェクト参画発表の詳細。Soracle設立経緯と事業方針が説明。

【参考動画】

【参考記事】

Travel Voice「東京都の『空飛ぶクルマ』事業、2030年までの実装に向けたプロジェクトで、JALら9社のコンソーシアムを採択」(外部)
JAL中心の9社コンソーシアム採択の詳細。臨海部・河川上エリアでの飛行試験実施を報道。

BRIGHT「『空飛ぶクルマ』の実用化はいつ?eVTOLの基礎から最新情報」(外部)
eVTOL技術の基礎から複数ローターによる安全性向上メカニズムの詳細を解説。

JAL ON TRIP「ドローンと空飛ぶクルマが数年後にサービス開始」(外部)
JALの空飛ぶクルマ事業化計画。2025年大阪万博デビューを含む事業展開を紹介。

【編集部後記】

これからの東京の空を想像してみてください。朝の渋滞を尻目に、オフィスビルのヘリパッドから出発した空飛ぶクルマが、数分で目的地へ。そんな未来は、もう夢物語ではなく、官民が手を組んで実現へ動き始めています。

安全、騒音、規制—こうした実装の困難に、どう向き合うのか。東京が示す解答が、大阪・関西、そして日本全体の移動を変えるかもしれません。私たちも、その変化の目撃者になってみませんか。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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