※著者の専攻が物理学寄りだった関係で生理学・医学賞はまだ分析しきれてないですが、可能であれば続報を出します。お待ちください。
ノーベル賞の基礎知識
毎年10月になると、世界中の科学者や研究者たちが注目する一大イベントが訪れます。ノーベル賞の発表です。しかし、この名誉ある賞について、私たちはどれほど知っているでしょうか。化学賞・物理学賞の予想に入る前に、ノーベル賞そのものについて改めて理解を深めておきましょう。
ノーベル賞って何?
ノーベル賞は、人類の発展に最も貢献した人々を称える国際的な賞です。物理学賞、化学賞、生理学・医学賞、文学賞、平和賞の5部門で1901年から授与が始まり、1969年からは経済学賞が加わりました。
この賞の起源は、ダイナマイトの発明者として知られるアルフレッド・ノーベルの遺言にあります。スウェーデンの化学者・発明家だった彼は、1896年に亡くなる際、自身の莫大な財産を「人類に最大の貢献をした人々」に授与する賞の創設に充てるよう遺言したのです。皮肉なことに、破壊的な用途にも使われたダイナマイトの発明者が、人類の平和と発展を願って創設した賞は、今日まで科学技術の進歩における最高峰の栄誉として君臨しています。
ノーベルさんの遺産ってまだ残ってるの?
多くの人が疑問に思うのが、「19世紀の遺産で、125年以上も賞を運営できるのか」という点でしょう。答えは、見事な資産運用のおかげで「イエス」です。
アルフレッド・ノーベルが残した遺産は約3100万スウェーデン・クローナ(当時のレートで約200万ポンド)でした。この資金は「ノーベル財団」によって慎重に運用され、現在では当初の遺産額をはるかに超える規模に成長しています。財団は株式や債券への分散投資を行い、賞金の支払いと運営費用を賄いながらも、基金そのものを増やし続けてきました。
2024年の賞金額は1部門あたり1100万スウェーデン・クローナ(約1億5000万円)で、複数の受賞者がいる場合は分配されます。インフレーションを考慮すれば、創設当初の価値を維持しながら、持続可能な形で運営されているのです。
そもそもどうやって決まるの?
ノーベル賞の選考プロセスは、厳格さと機密性で知られています。化学賞と物理学賞の場合、スウェーデン王立科学アカデミーが選考を担当します。
プロセスは前年の9月から始まります。世界中の研究機関や過去の受賞者など、約各賞で9月に推薦依頼が送付され、分野により“数千人規模”(医学は3,000超)が招請される、翌年2月までに候補者のリストが作成されます。その後、各分野の専門委員会が数カ月かけて候補者の業績を徹底的に評価し、9月から10月初旬にかけて最終選考が行われます。
注目すべきは、ノーベル賞が「発見や発明そのもの」ではなく、「その重要性が時の試練を経て証明されたもの」に授与される点です。選考委員会は、その研究が人類にもたらした実質的な影響を重視します。そのため、画期的な発見から受賞まで数十年かかることも珍しくありません。また、選考に関わる議論や推薦内容は50年間非公開とされ、政治的圧力や外部の影響を排除する仕組みが徹底されています。
こうした厳格なプロセスを経て選ばれるからこそ、ノーベル賞は科学界における最高の栄誉としての地位を保ち続けているのです。
ノーベル賞の傾向分析?
まずは傾向を分析しないと、予想も立たないので最近の傾向と事例を分析していきます。過去の受賞をを見ていると近年はこのような傾向が見受けられます。
物理学賞については、近年は宇宙分野からの受賞がやや遠ざかっており(最後は2020年)、周期性から見ても今年は別の分野が注目される可能性があります。2022年は量子もつれ実験(ベル不等式破れ)が受賞したため、流れとしては量子分野、とくに量子情報や量子材料に関わる研究注目されています。また、毎年のように話題にのぼるクラリベイト引用栄誉賞受賞者からノーベル賞が出ることが多く、ここを確認するのは重要な手がかりです。
一方で化学賞は、有機化学や合成化学からの受賞が比較的目立っており、2021年・2022年と続けて有機化学分野からの受賞がありました。ただ、化学は「セントラルサイエンス」とも呼ばれるほど他分野と広く交差しているため、研究の領域が物理学や生物学、医学と曖昧に重なるケースも少なくありません。そのため一見して「これは化学か?」と感じる受賞内容も多く、予想が難しい点が特徴です。物理学賞同様に、クラリベイトの動向をたどることで、注目すべき研究者や分野を見極める助けになると考えられます。
ここ数年のノーベル賞を一緒に振り返る
振り返ろう最近の物理学賞
1.光と物理学(量子力学を中心に)
2018年:光ピンセットとその生物学的システムへの応用
2018年のノーベル物理学賞は、アーサー・アシュキン(Arthur Ashkin)、ドナ・ストリックランド(Donna Strickland)、ジェラール・ムル(Gérard Mourou)の3名に、「レーザー物理学の画期的発明」に対して授与されました。
アシュキンは「光ピンセット(optical tweezers)」を発明し、レーザー光を用いて微小な粒子や細胞を掴んだり動かしたりする技術を確立しました。ストリックランドとムルは、超短パルスで非常に高強度のレーザーパルスを生成できるようにした点が評価されました。
この受賞は、レーザーを使って極めて短時間・微小スケールで物質を操作・解析する新しい手法をもたらし、物理・化学・生物学など多くの分野に応用の道を開いたものとされています。
簡単に言えば「レーザー光を用いて原子サイズ、ナノサイズの小さなものを浮遊させたりその場にとどめておく技術についての貢献です。
現在では実は量子コンピュータにおいてこの技術が用いられています。量子コンピュータには「中性原子方式」と呼ばれる方式があり、原子そのもののエネルギー準位を量子ビットとして用いるのですが、その際に原子をその場にとどめて制御するのにこの光ピンセットが用いられています。
少し話が変わりますが、近い量子コンピュータの形式である「イオントラップ方式」と呼ばれるものがあり、そちらは光ピンセットではなくイオントラップと呼ばれる方法でイオンをとどめて制御しています。なお、このイオントラップについてもパウルは1989年にノーベル賞を受賞しています。私たち人間が手に掴めないほど小さいものをどのように制御していくのか。という課題に一つの答えを与えてくれた研究ですね。
2022年:量子もつれ(ベルの不等式の破れの実証)
2022年のノーベル物理学賞は、アラン・アスペ、ジョン・F・クラウザー、アントン・ツァイリンガーの3氏に「もつれた光子を使った実験によってベルの不等式の破れを実証し、量子情報科学の扉を開いた業績」に対して授与されました。(大学の量子力学Ⅲぐらいの講義でアスペの実験を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?)
彼らは、量子もつれという現象を実際の実験で操作・観測可能なものとし、古典物理学では説明できない相関を示すことで、量子力学の基礎理論の検証とともに量子通信や量子計算への応用に道を拓いたと評価されています。
現在量子もつれというのはSFで名前を聞くような私たちの世界に遠い話ではなくなりました。量子系のエンタングルメントは量子ビットの制御において非常に重要な概念です。
2023年:アト秒科学レーザー
2023年のノーベル物理学賞は、ピエール・アゴスティーニ(Pierre Agostini)、フェレンツ・クラウス(Ferenc Krausz)、**アンヌ・ルイユリエ(Anne L’Huillier)の3氏に授与され、「原子や分子内部における電子のダイナミクスを調べるためのアト秒パルス発生法の実験的手法の開発」に対してです。
彼らは、光パルスを10⁻¹⁸秒(アト秒)という極めて短時間幅に制限する手法を確立し、電子の超高速運動を“ブレのない視野”で捉えることを可能にしました。この技術は、化学反応や物質内部での電子の振る舞いをリアルタイムで観察する基盤となり、物理・化学・材料科学など幅広い研究分野に新しい窓を開く成果と評価されています。
近年でぼくが一番好きなノーベル賞の受賞発表です(そんな概念あるのか?)
というのも実はアト秒よりももう少し遅い。フェムト秒分光法の開発は1999年に物理学賞ではなく化学賞を受賞しています。フェムト秒では分子が結合を形成したりする「遷移状態」という化学反応にとって非常に重要な状態に対して観測を行うことができます。「フェムト秒までは化学、アト秒から先は物理学」と現在の科学観にのっとって科学と物理学の境目を提示されたような気がして非常に興味深かったです。
2.宇宙分野から
2017年:重力波の観測
2017年のノーベル物理学賞は、ライナー・バイス(Rainer Weiss)、バリー・C・バリッシュ(Barry C. Barish)、キップ・S・ソーン(Kip S. Thorne)の3氏に授与されました。受賞理由は「LIGO検出器を通じた重力波の観測への決定的貢献」です。
彼らはアインシュタインの一般相対性理論が予言していた重力波を、レーザー干渉計を用いた巨大実験施設 LIGO(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)で2015年に初めて直接検出しました。これはブラックホール同士の合体による時空のさざ波を地上で捉えたもので、宇宙観測に新しい窓を開いた歴史的成果です。この発見により重力波天文学が現実の研究分野となり、宇宙進化や極限天体の理解に大きな道を拓きました。
当時「アインシュタインの宿題が解けた」という風に報道されていたのを覚えています。科学は理論だけではなく、実験によって常に反証されて理論の刷新を余儀なくされたり、既存の理論の正しさが補強されたりを繰り返しています。この重力波の観測はアインシュタインの一般相対性理論が現在の世界を説明できていることを実験によって実証しました。現在、実験による実証が困難とされている多くの理論も、重力波の観測のように実験科学者によって確かな輪郭を得る日が来るのかもしれませんね。
振り返ろう最近の化学賞
1.単一分野で言い表せない研究
2017年:クライオ電子顕微鏡(Jacques Dubochetら)
2017年のノーベル化学賞は、クライオ電子顕微鏡法の発展に対してデュボシェ、フランク、ヘンダーソンの三氏に授与されました。クライオ電子顕微鏡は、生体分子を急速凍結して水を非晶質氷に固定し、電子線の損傷を抑えながら観察できる技術です。これにより結晶化が不要となり、従来困難だったタンパク質や巨大分子複合体を高分解能で捉えることが可能になりました。創薬やウイルス研究など幅広い応用を持ち、構造生物学に革命をもたらしたと評価されました。
タンパク質をどう見るのか。というのは科学にとっては大きな課題です。例えば、構造を理解したいのであればX線結晶構造解析という手法があります。これはかなり強力な手法で結晶さえ手に入れば構造がわかるのですが、ただ、、、結晶化をするのが実は結構手間だったり困難な分子があります。もっと言えば結晶化によって、液相中での状態と異なってしまい適切な議論ができないことも、、、(有機合成の研究室出身の方は自分の作った分子を再結晶する際にかなり苦戦したという経験がある方も多いのではないでしょうか。)
溶液中のNMRをとろうにも、「大きな複合体のNMRスペクトルを化学シフトを見ながら同定しろ!」なんて普通に難しいですよね。(もともと構造がわかっていて反応が進行して目的物が取れているのかを議論するならこの上なく便利な手法ではあるのですが。)
ちなみに、NMRもX線構造解析もブラッグが1915年に「X線による結晶構造解析に関する研究」でノーベル物理学賞、ブロッホが1952年に「核磁気共鳴現象(NMR)の成功」にノーベル物理学賞を受賞しています。
2020年:ゲノム編集(Emmanuelle Charpentierら)
2020年のノーベル化学賞は、エマニュエル・シャルパンティエ(Emmanuelle Charpentier)とジェニファー・ダウドナ(Jennifer Doudna)の2人に、「CRISPR/Cas9 遺伝子編集法の開発」という業績に対して授与されました。
この技術は、DNA を非常に高精度に切断・編集できる「遺伝子のはさみ」として知られ、生物・植物・微生物の遺伝子改変を容易にし、がん治療や遺伝性疾患の治療、農作物改良などへ応用が広がっています。
この受賞は、女性だけによるノーベル化学賞として初めてのケースでもあり、科学分野における性別の壁を象徴的に打ち破る出来事とされています。
こう見ると、確かにどっちかと言えば「生物学?」のような気がしてきますね。化学という学問が非常に広範な学問分野にわたっているということが感じられます。
2.産業で活躍している基礎研究
2019年:リチウムイオン二次電池の開発
2019年のノーベル化学賞は、ジョン・グッドイナフ(John B. Goodenough)、M. スタンリー・ウィッティンガム(M. Stanley Whittingham)、吉野彰(Akira Yoshino)に「リチウムイオン電池の開発」に対して授与されました。
彼らは再充電可能なリチウムイオン電池の基盤技術を築き、軽量・高エネルギー密度なバッテリーを実現しました。その成果はスマートフォン、ノートパソコン、電気自動車、再生可能エネルギーの蓄電技術など、現代の電化社会を支える基盤技術として重要です。
近年では自動車のEV化に際して全個体電池が注目されていたり、鉱山資源を守る観点や安定供給の観点より、グラファイト電池やナトリウムイオン電池が提案されています。私たちの文明は現在、電気に非常に依存した形をとっています。電池という電気の受け皿の存在は私たちの産業の在り方を大きく変えるインパクトを持っています。
2023年:量子ドットの発見と合成
2023年のノーベル化学賞は、ムンギ・G・バウェンディ(Moungi G. Bawendi)、ルイ・E・ブラス(Louis E. Brus)、および アレクセイ・エキモフ(Aleksey Yekimov) の3名に「量子ドット(quantum dots)の発見と合成」に対して授与されました。
量子ドットはナノスケールの半導体結晶で、その大きさによって発光する色が変わる性質を持ち、テレビのディスプレイ、LED、バイオイメージングなど幅広い応用分野に使われています。
この受賞は、ナノテクノロジーに色彩をもたらすという意味で、「ナノ技術の発色(“adding colour to nanotechnology”)」という表現でも紹介されています。
発色する物質というのはそれだけで大きな意味を持ちます。今の世の中で一度もPCやスマホのモニターを見ずに生活をするという人はいないのではないでしょうか。ブラウン管テレビはしばらくして、液晶テレビへととって変わられました。私たちの薄べったくて持ち運べるモニターの歴史はここから始まりましたね。そして、しばらくするとバックライトが要らず、分子そのものが光る有機ELの豊かな発色のあるモニターが生まれて、さらにバックライトが要らない分曲げたりすることができるようになり折り畳みスマホの様なものも生まれました。
量子ドットは粒経によって発色する波長を選択できるという長所があります。今現在すでに量子ドットも用いたモニターやテレビは市場で販売されており、これからのさらなるブレイクスルーが楽しみです。
2024年は、物理・化学ともAI関連
2024年(化学賞):タンパク質構造予測プログラムの開発および、コンピュータによるタンパク質設計手法の開発
2024年のノーベル化学賞は、タンパク質の立体構造をAIで高精度に予測するプログラムと、それを応用した計算機による新しいタンパク質設計手法の開発に授与されました。従来は実験的に解明に長い年月とコストが必要だった構造解析が、計算技術により短時間かつ高精度で可能になりました。これにより病気の原因解明や新薬の創出、産業用酵素の開発など、生命科学・医薬・材料科学の幅広い分野に革新をもたらす基盤が築かれました。
2024年(物理学賞):人工ニューラルネットワークによる機械学習
2024年のノーベル物理学賞は、人工ニューラルネットワークを用いた機械学習の基盤的な理論と手法の確立に対して授与されました。人間の脳を模した多層構造のニューラルネットワークを数学的に解析し、その学習過程や汎化能力の原理を解明したことが評価されています。これにより、AIが画像認識や自然言語処理など多様な課題で高い性能を発揮できるようになり、物理学に限らず科学研究や産業全般に大きな影響を与える基礎を築きました。
2025年ノーベル賞予想!
今年はどんな年だった?(物理学賞)
今年はどんな年だったのか?と考えたときに2024年のAI分野での受賞が相次いだ中、今年も同じように今年を象徴するような研究成果が受賞する可能性があります。
2025年を振り返ったとき、後世の歴史家たちは間違いなく「量子コンピュータ元年」として記憶するでしょう。
Googleが2024年末に発表した量子チップ「Willow」は、誤り訂正のスケーリングで有望な前進が示され、実用化へ向けたモメンタムを強めたさらに2025年に入ってからは、IIBMやIonQなど各社が能力向上の発表を続けているが、“新たな量子優位性の学術的コンセンサス”は現時点で未確立。
このことを鑑みて今年は、ドイチュとジョサの受賞の可能性がノーベル物理学賞ではあると考えています。
ドイチュとジョサは1992年に「ドイッチュ・ジョサのアルゴリズム」を提案しました。これは既存のどの決定論的古典アルゴリズムよりも指数関数的に早い量子アルゴリズムのうち最も早期に発見されたものの一つです。
ドイチュとジョサは1992年に「ドイッチュ・ジョサのアルゴリズム」を提案しました。これは既存のどの決定論的古典アルゴリズムよりも指数関数的に早い量子アルゴリズムのうち最も早期に発見されたものの一つです。
また、近年では量子アニーリングの社会実証も進んでおり、日本人から西森秀稔と門脇正史が受賞する可能性もあると思います。
1998年に西森秀稔氏が当時指導学生であった門脇正史氏と共同で提唱した「量子アニーリング」は、組み合わせ最適化問題を解く手法の一つで、この理論は量子コンピュータの実用化を大きくたぐり寄せた理論として、今では広く認知されています。
そろそろバイオに近い分野か有機合成?(化学賞)
近年、化学賞は量子ビットの開発の様なセラミックの分野、去年の様なAIとの学際分野が相次いでいるので、そろそろ有機合成や2019年の様なエネルギーと科学の分野からの受賞があるのではないかと考えています。有機合成ではC-H活性化、バイオやエネルギーの様な学際分野では、ドラッグデリバリーや(ずっと言われていますが、、、)ペロブスカイト太陽電池が来るのではないかと考えています。
化学賞ではC-H活性化からRobert G. Bergman(ロバート・バーグマン)の受賞の可能性があると思います。C-H結合という高校生の頃から反応性が乏しく、構造式を描くときも省略するあの結合を選択的に反応させることは、有機化学合成のレパートリーを格段に押し上げたと思います。
Robert G. Bergman(ロバート・バーグマン)は、有機化学におけるC–H結合活性化の先駆的研究で知られる研究者です。炭素–水素結合は有機分子で最も一般的ながら非常に安定で反応性に乏しく、長らく化学変換の標的にすることは困難とされてきました。1970年代、バーグマンはイリジウムや白金などの遷移金属錯体を用いることでC–H結合が直接切断され、金属–炭素結合を形成する反応を明確に示しました。
ドラッグデリバリーからロバート・ランガーの受賞が考えられます。実際この分野は日本でも先進的な研究が行われており盛んな研究であることや、ナノテクノロジー(量子ドットもそうです)という現代科学が医学にまで波及した好例です。
ドラッグデリバリーは、薬を体内の標的部位に効率的かつ安全に届ける技術です。従来の投与法では副作用や効果の不均一が課題でしたが、ナノ粒子やリポソームなどのキャリアを用いることで、薬物を必要な場所にピンポイントで届けられるようになりました。
毎年言われている気がしますが、ペロブスカイト太陽電池から宮坂力さんの受賞も考えられます。持続可能なエネルギーの問題は日に日に注目を増すばかりではなく、ここ数年で桐蔭横浜大学のベンチャー企業が事象実験を行ったり、積水化学の様な大手化学メーカーが開発を行っていたり社会実装も近いと思われます。
ペロブスカイト太陽電池は、結晶構造が鉱物ペロブスカイトに似た有機無機ハイブリッド化合物を光吸収層に用いた新世代の太陽電池です。2010年代に急速に注目を集め、わずか十数年で光電変換効率が3%程度から25%以上へと飛躍的に向上しました。ペロブスカイト材料は溶液プロセスで低温かつ低コストに製造でき、シリコン太陽電池とのタンデム型に応用することで、さらに高い効率が期待されています。また軽量かつ柔軟なデバイス化が可能で、建材やウェアラブル機器への組み込みなど新しい用途も広がっています。
受賞者や研究を予想することに何の意味があるの?
化学賞であれば、グリニャール試薬やクロスカップリング反応、レーザー分光まで。物理学賞であれば、NMRやベルの不等式、シュレーディンガー方程式から場の量子論の基礎的な理論の枠組みまで。振り返ってみれば、大学の頃に習ったことばかりではないでしょうか。
あと、案外、NMR,X線構造解析,イオントラップの様な紹介した技術の開発もノーベル賞を受賞していたり、さらにクライオ顕微鏡も2024年のノーベル化学賞もタンパク質の化学として関連性があって、1999年はフェムト秒、2023年はアト秒レーザーの発振が人類は可能になって、ノーベル賞の中だけでも科学の発展の一部ではありますが先人たちの積み重ねを感じることができますね。
今の科学の形は先人たちの積み重ねであり、私たちはそのうえで新しいことを積み重ねています。
ここでノーベル賞を予想することの意味について考えてみましょう。私自身、純粋に楽しいという理由や、大学や職場が理学畑の人が多かったので話題作りのためという側面もありました。しかし、それ以上に重要なのは、ノーベル賞という機会を通じて、科学そのものへの理解を深めることではないでしょうか。
日本人が受賞したかどうか、誰が受賞したかという話題に注目が集まりがちですが、本質的に重要なのは受賞内容そのものです。その研究が今の世の中や過去の科学とどう絡まってきたのか。そして、それが私たちの世界をどう変えてくれるのか。ノーベル賞は「更新され続ける科学の歴史」を照らし出し、「今の時流や情勢から鑑みて、人類の在り方を変える科学」を年に一度提示してくれる瞬間でもあります。
その意味で、ノーベル賞は「最先端の風見鶏」なのかもしれません。過去と現在、そして未来をつなぐ科学の物語を、私たちに問いかけ続けているのかもですね。