トヨタ研究所とBoston Dynamics、コード不要でロボット学習可能な大規模行動モデル「LBM」を実証

トヨタ研究所とBoston Dynamics、コード不要でロボット学習可能な大規模行動モデル「LBM」を実証 - innovaTopia - (イノベトピア)

Boston DynamicsとToyota Research Institute(TRI)が、Atlasロボットを使用した大規模行動モデル(LBM)の研究成果を発表した。

単一のAIモデルがAtlasロボットに「Spot Workshop」タスクを実行させ、カートから部品を取り上げて折りたたみ、棚に配置する作業を行った。ロボットは低い収納ボックスを引き出して他のコンポーネントを保管し、残りのアイテムを大型トラックに片付ける動作も実行した。

人間のオペレーターがVRヘッドセットを着用し、手足にトラッカーを装着してAtlasを制御することでデータを収集する。このテレオペレーションシステムにより高品質データが生成され、4億5000万パラメータのDiffusion Transformerアーキテクチャに供給される。モデルはAtlasの50自由度の身体制御に必要な行動を生成する。

Atlasはロープを結ぶ、テーブルクロスを敷く、22ポンドの車のタイヤを操作するタスクを習得した。システムは人間のデモンストレーションの1.5から2倍速でタスクを実行できることが確認された。

From: 文献リンクAtlas robot learns new tricks using human-watching AI model

【編集部解説】

今回のBoston DynamicsとToyota Research Instituteの共同発表は、ロボティクス業界における重要な転換点を示しています。これまでのAtlasロボットといえば、アクロバティックなパフォーマンスやダンスで世界を驚かせてきました。しかし今回は、実用的なタスクに焦点を当てた「地味だが革新的」な技術革新なのです。

この技術の核心は「大規模行動モデル(LBM)」という新しいアプローチです。従来のロボット制御では、エンジニアが何年もかけて複雑なコードを書く必要がありました。しかしLBMでは、人間がVR環境で作業をデモンストレーションするだけで、ロボットがその行動を学習できます。これは、ChatGPTが言語を理解するように、ロボットが物理的な動作を理解する仕組みと考えると分かりやすいでしょう。

特筆すべきは、単一のAIモデルがAtlasの全身(50自由度)を統合制御している点です。従来のヒューマノイドロボットは歩行制御とアーム操作を分離していましたが、この技術では手足を同等に扱い、より自然で柔軟な動作を実現しています。

実用性の観点では、大規模行動モデルにより学習効率が大幅に向上し、従来手法と比較してデータ収集時間の短縮が実現されています。また、大量のロボット動作データで訓練されたモデルは、人間のデモンストレーションよりも1.5〜2倍高速でタスクを実行できます。

この技術が社会に与える影響は計り知れません。製造業では、従来の産業用ロボットでは困難だった複雑で変化に富んだタスクが可能になります。家庭用ロボットの分野では、掃除や整理整頓といった日常的な作業を人間と同様に行えるロボットの実現に近づいています。

一方で、潜在的なリスクも考慮する必要があります。人間の仕事を代替する能力の向上は、雇用への影響を懸念する声もあります。また、高度なAI制御システムの安全性確保や、予期しない状況での判断ミスによる事故のリスクも検討課題です。

規制面では、このような高度な自律ロボットの普及に向けて、安全基準や責任の所在に関する法整備が急務となるでしょう。特に、人間と協働する環境での使用においては、厳格なガイドラインが必要です。

長期的な視点では、この技術は「汎用ロボット」の実現に向けた重要な一歩となります。今後数年間で、より多様なタスクをこなせるロボットが登場し、私たちの働き方や生活様式を根本的に変える可能性を秘めています。

【用語解説】

大規模行動モデル(LBM)
Large Behavior Modelsの略。ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)のロボット版技術である。人間のデモンストレーションから行動パターンを学習し、プログラムコードを書くことなくロボットが複雑なタスクを実行できるようになる技術。

Diffusion Transformer(DiT)
従来のCNNベースのU-Netアーキテクチャを、Transformerベースに置き換えた拡散モデルのアーキテクチャである。画像生成AIのSoraやStable Diffusion 3でも採用されており、高い拡張性と計算効率を持つ。

テレオペレーション
遠隔操作技術の一種で、人間がVRヘッドセットやトラッカーを使用してロボットを直感的に制御する技術。収集されたデータはAIの学習に使用される。

50自由度
ロボットの可動部分の数を表す。Atlasロボットは人間の関節に近い50箇所の独立した動作が可能で、これにより複雑で自然な全身動作を実現している。

固有受容
ロボットが自身の姿勢や関節位置を把握し、適切な動作制御を行うために必要な感覚情報である。人間でいう身体感覚に相当し、バランス維持や精密な動作に不可欠な要素である。

【参考リンク】

Boston Dynamics 公式サイト(外部)
世界最先端のヒューマノイドロボットAtlasを開発するアメリカの企業サイト

Toyota Research Institute(外部)
トヨタが設立したAI・ロボティクス研究機関の公式サイト

【参考動画】

【参考記事】

トヨタ研究所公式プレスリリース(外部)
大規模行動モデル技術による統合制御システムの詳細を発表

ロボット学習効率向上に関する技術レポート(外部)
大規模行動モデルによる学習効率向上について詳細分析

Atlas技術革新の意義を解説する専門記事(外部)
実用的タスクに焦点を当てた技術的転換点について分析

日本語によるAtlas技術詳細レポート(外部)
統合制御技術と従来技術の違いを含めた詳細報告

【編集部後記】

今回のAtlasの進化を見ていると、「人間らしさ」とは何かを改めて考えさせられます。私たちが当たり前に行っている「失敗したときの立て直し」や「状況に応じた判断」を、ロボットが学習できるようになったのです。

10年後、あなたの職場や家庭にこうしたロボットが当たり前にいる未来を想像してみてください。一緒に働くパートナーとして、どんな関係を築きたいでしょうか?そして、私たち人間だからこそできることは何なのか——。

この技術の先にある可能性と課題について、ぜひSNSで皆さんのお考えをお聞かせください。未来を一緒に考えていきませんか。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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