KAIST、時速12km走行可能なヒューマノイドロボットを開発|ムーンウォークも実現

[更新]2025年9月28日17:26

KAIST、時速12km走行可能なヒューマノイドロボットを開発|ムーンウォークも実現 - innovaTopia - (イノベトピア)

KAIST(韓国科学技術院)機械工学部ヒューマノイドロボット研究センター(HuboLab)のパク・ヘウォン教授の研究チームが、次世代ヒューマノイドロボット用の下半身プラットフォームを開発した。

このロボットは身長165cm、体重75kgで人間に近いサイズに設計されている。最高時速3.25m/s(約12km/h)で走行し、30cm以上の段差登攀能力を持つ。研究チームはモーター、減速機、モータードライバーなどコア部品をすべて独自に設計・製造し、強化学習アルゴリズムによるAIコントローラーも自己開発した。これにより、ハードウェアとアルゴリズムの両面で「技術的独立性」を確保した点が大きな特徴となっている。

将来的には走行速度4.0m/s(約14km/h)、40cm以上の段差登攀能力を目指している。また、KAIST内の他学部やMITの研究チームとも連携し、重量物運搬やバルブ操作など、実際の産業現場で求められる複雑なタスクの実行を可能にする完全なヒューマノイドの開発を進めている。

From: 文献リンクNext-generation humanoid robot can do the moonwalk

【編集部解説】

KAISTのヒューマノイドロボット研究は、単なる技術的進歩を超えた重要な意味を持っています。これまでヒューマノイドロボット分野では、Boston Dynamics社のAtlasやHonda社のASIMOなど、海外企業が技術的優位性を保持してきました。

今回のKAISTの成果で特筆すべきは「技術的独立性」の確保です。モーター、減速機、モータードライバーといったコア部品から、AI制御アルゴリズムまで、すべてを内製化している点は極めて戦略的といえます。

技術面で注目すべきは、強化学習による制御システムです。従来の模倣学習とは異なり、シミュレーション環境で学習したAIを実世界に適用する「Sim-to-Real」技術を活用しています。これにより、人間の動作を真似るのではなく、ロボット独自の最適解を見つけ出すことが可能になりました。

12km/hという走行速度は人間の軽いジョギング程度ですが、30cm以上の段差登攀能力と組み合わせることで、実際の産業現場での活用可能性が大幅に広がります。災害救助現場での瓦礫越えや、工場での階段昇降など、これまでロボットが苦手としていた不整地での作業が現実的になってきます。

一方で、ヒューマノイドロボットの普及には課題も存在します。製造コストの高さ、メンテナンスの複雑さ、そして何より人間との協働における安全性の確保が重要な論点となるでしょう。

長期的な視点では、この技術は労働力不足が深刻化する製造業や建設業における解決策として期待されています。しかし同時に、雇用への影響や倫理的な議論も避けて通れない課題として浮上してくると予想されます。

【用語解説】

ヒューマノイドロボット
人間の形態を模したロボットの総称。二足歩行が可能で、人間に近い体型・動作を持つ。産業用途から研究開発まで幅広く活用されている。

強化学習
AIが試行錯誤を通じて最適な行動を学習する機械学習手法。報酬を最大化するように行動を調整し、人間の指導なしに自律的に学習する。

Sim-to-Real Gap
シミュレーション環境で学習したAIを実世界に適用する際に生じる性能差。物理法則の再現精度やセンサーノイズなどが原因となる技術的課題。

減速機
モーターの回転速度を減速し、トルクを増大させる機械装置。ロボットの関節駆動において精密な動作制御を実現するために不可欠な部品。

段差登攀能力
ロボットが乗り越えることができる段差の高さを示す性能指標。階段や縁石、障害物への対応能力を測る重要な評価基準。

【参考リンク】

KAIST(韓国科学技術院)(外部)
韓国を代表する理工系大学でヒューマノイドロボット研究センターを運営

MIT(マサチューセッツ工科大学)(外部)
ロボティクス分野で世界をリードする研究機関。本研究では同大学のキム・サンベ教授のチームが「手」の開発で協力している。

arXiv(外部)
コーネル大学運営の学術論文プレプリントサーバーで最新研究成果を公開

【参考動画】

【参考記事】

KAIST develops advanced humanoid robot with 12 km/h running speed(外部)
韓国ヘラルドによるKAISTヒューマノイドロボット開発の詳細報道

Humanoid robotics breakthrough: Korean team achieves hardware independence(外部)
ロボティクス専門メディアによるコア部品内製化の技術的意義の分析

【編集部後記】

今回のKAISTの成果、そしてTeslaやFigure AIといった海外勢の躍進を見ていると、ヒューマノイドロボットが私たちの日常に溶け込む未来が、本当にすぐそこまで来ていると実感しますね。

かつてASIMOで世界をリードした日本も、今、新たな挑戦の時を迎えています。トヨタや川崎重工といった大企業から、京大や早大を中心とした大学発ベンチャーまで、多様なプレイヤーがそれぞれの強みを活かし、実用化を目指して競い合っています。

海外が一体型の汎用機開発でスケールを追う一方、日本は高精度な部品技術や、介護・災害現場といった特定のニーズに応える形で、独自の道を切り拓こうとしています。皆さんは、この「群雄割拠の時代」をどうご覧になりますか?再び日本がこの分野で輝くために、私たちに何ができるのか、どんな未来を期待するのか、ぜひ一緒に考えていきたいです。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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