KDDIは10月27日、世界初のコンシューマ向けパワードスーツ「Hypershell X Pro 外骨格」をau +1 collectionから発売した。本製品は中国のHypershell社が開発した装着型ロボットで、腰部に装着することで歩行や走行時に最大30kgのアシスト力を発揮する。
最大32ニュートンメートルのトルクと最大800W出力のモーターを搭載し、最大30kgの重さを軽減。システムがユーザーの動きの意図をリアルタイムで感知し、姿勢を認識して出力を動作に合わせて自動的に調整。さらにアプリとの連動により、ユーザー独自の歩き方を学習・最適化する。
2.0kgの軽量設計で、装着者の体型に合わせて調整できる人間工学に基づいたフレーム構造。最大300度のねじれ自由度を備え、登山などのアウトドア活動でも自由で快適な動きが可能。
交換可能な5000mAhバッテリーを搭載。一度の充電で最大17.5kmの移動が可能で、最大65Wの急速充電にも対応。IP54防塵防水規格に対応し、-20℃という厳しい低温環境でも使用できる。
価格は179,800円(税込)で、au公式アクセサリー「au +1 collection」から、au Online Shopで販売される。登山やハイキング、通勤、介護などの日常シーンでの活用を想定しており、KDDIは今後も革新的なウェアラブルデバイスの提供を通じて、顧客の生活をサポートしていく方針である。
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世界初(注1)コンシューマ向けパワードスーツ「Hypershell X Pro 外骨格」をau +1 collectionから10月27日に発売
【編集部解説】
今回のHypershell X Pro外骨格の日本市場投入は、これまで産業・医療分野に限定されていたパワードスーツ技術が、一般消費者の日常生活に本格的に浸透する転換点となる可能性があります。世界のウェアラブルロボティック外骨格市場は2024年に17.6億ドル規模と評価され、2032年までに305.6億ドルに達すると予測されており、年平均成長率は43.10%という急速な拡大が見込まれています。
技術面で注目すべきは、AIを活用したMotionEngineアルゴリズムです。IMU(慣性計測ユニット)、ジャイロスコープ、気圧計などのセンサーからのデータを毎秒数千回処理し、登坂、下降、走行、サイクリングなど10種類の動作パターンをリアルタイムで認識します。これにより、ユーザーの意図を先読みして最適なアシストを提供する仕組みが実現されています。800Wの出力と32N·mのトルクにより、脚力を40%向上させ、身体的負担を30%軽減するという測定結果も報告されています。
一方で、コンシューマ向けパワードスーツの普及には課題も存在します。パッシブ型外骨格が2,000~7,000ドル程度であるのに対し、パワード型は70,000~100,000ドルの価格帯が一般的であり、Hypershell X Proの179,800円(約1,350ドル相当)という価格設定は極めて戦略的です。しかし、安全規制の整備が追いついていない点は懸念材料となります。
日本では2017年に腰部支援型ウェアラブルロボットの製品規格JIS B 8456-1が世界初の安全基準として制定されましたが、Hypershell X Proのような全身移動支援型デバイスに対する包括的な規制枠組みは未整備です。特に公共空間での使用時の衝突リスク、最大時速20kmでの移動における交通法規上の位置づけ、バッテリーの安全性基準など、検討すべき論点は多岐にわたります。
長期的には、高齢化社会における移動支援、物流・建設現場での労働力不足の解消、障がい者の社会参加促進など、多方面での活用が期待されます。ただし、技術の普及速度に対して社会制度の整備が遅れる場合、安全性の問題や倫理的課題が顕在化する可能性もあり、技術革新と規制のバランスが今後の鍵となるでしょう。
【用語解説】
パワードスーツ(外骨格)
電動モーターやアクチュエーターを搭載し、装着者の身体動作を補助・増強する装着型ロボット。産業用、医療用、コンシューマ用に分類される。
アクチュエーター
電気エネルギーを機械的な動きに変換する駆動装置。パワードスーツでは電動モーターが一般的で、油圧式や空気圧式も存在する。
MotionEngine
Hypershell独自のAIアルゴリズムで、センサーデータを毎秒数千回処理し、登坂や走行など10種類の動作パターンをリアルタイムで認識してアシスト力を最適化する。
IMU(慣性計測ユニット)
加速度センサーとジャイロスコープを組み合わせたデバイスで、物体の姿勢、速度、方向などの動きを検出する。ウェアラブルロボットの動作認識に不可欠な技術である。
トルク
回転力の大きさを示す物理量で、ニュートンメートル(N·m)で表される。パワードスーツでは関節の回転支援力を示す重要な性能指標となる。
パッシブ型外骨格
電力を使わず、バネや機械的構造のみで身体の負荷を軽減する外骨格。価格は安価だがアシスト力は限定的である。
ISO 13482
生活支援ロボットの安全要求事項を定めた国際規格。日本の製品規格JIS B 8456が基になっており、ウェアラブルロボットの安全基準として重要な役割を果たす。
JIS B 8456-1
2017年に日本で制定された腰部支援型ウェアラブルロボットの世界初の製品安全規格。装着型ロボットの国際標準化の先駆けとなった。
【参考リンク】
Hypershell公式サイト(外部)
Hypershell X Pro外骨格の製品仕様、技術詳細、購入オプションを掲載。MotionEngineアルゴリズムの仕組みや、登山・ハイキングでの活用事例を紹介している。
KDDI株式会社(外部)
通信事業大手KDDIのコーポレートサイト。au +1 collectionでの先進デバイス展開や、5G・IoT関連の事業展開について情報を提供している。
経済産業省 ロボット政策(外部)
日本の生活支援ロボットに関する国際標準化の取り組みを紹介。ISO 13482の策定経緯や、ウェアラブルロボットの安全基準について解説している。
【参考動画】
【参考記事】
Hypershell X | Next-Gen Exoskeleton for Hiking, Travel & Daily Use(外部)
Hypershell X Proの詳細スペックとMotionEngineアルゴリズムの技術解説。IMU、ジャイロスコープ、気圧計による10種類の動作パターン認識機能について説明している。
Wearable Robotic Exoskeleton Market Size, Share [2025-2032](外部)
ウェアラブルロボティック外骨格市場の成長予測レポート。2024年の市場規模17.6億ドルから2032年に305.6億ドルへの拡大を予測し、年平均成長率43.10%と分析している。
Exoskeleton Market Size, Share & Trends, 2025 To 2030(外部)
外骨格市場の価格帯分析。パッシブ型が2,000~7,000ドル、パワード型が70,000~100,000ドルという価格構造を示し、市場普及の障壁について考察している。
New International Standard for Safe Operation of Service Robots(外部)
経済産業省による生活支援ロボットの国際安全規格に関する発表。日本主導でのISO標準化の取り組みと、ウェアラブルロボットの安全要求事項について解説している。
Muscle Suit Every by Innophys Awarded ISO 13482 Certification(外部)
日本企業イノフィスの腰部支援ロボットがISO 13482認証を取得した事例。ウェアラブルロボットの安全認証プロセスと基準について詳述している。
Review: Hypershell Pro X Series – WIRED(外部)
WIREDによるHypershell Pro Xの実機レビュー。実際の使用感、バッテリー持続時間、登山での効果について技術ジャーナリストの視点から評価している。
Hypershell Pro X Review: This Trail Gadget Feels Like Sci-Fi(外部)
SlashGearによる詳細レビュー。800W出力と32N·mトルクによる脚力40%向上、身体負担30%軽減という性能データを実測に基づいて検証している。
【編集部後記】
198,000円という価格設定は、パワードスーツが一部のアーリーアダプターから一般層へ広がる分岐点になるかもしれません。実際のユーザーレビューでは、筋疾患患者が3日連続でハイキングできるようになった事例や、脳出血後遺症で歩行困難だった方が坂道を歩けるようになった報告が見られます。一方で肌の擦れや、急な停止時に数秒間アシストが継続する制御の遅延といった課題も指摘されています。
高齢化が進む日本で、このデバイスは移動の自由を取り戻す道具となるのか、それとも技術依存を加速させるのか。公共交通機関での使用ルールや保険適用の可否など、社会制度の整備も注目されます。
(画像は公式プレスリリースより引用)























