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CUDAがRISC-V対応、Nvidia副社長が中国サミットで発表 – 制裁下の戦略転換か

CUDAがRISC-V対応、Nvidia副社長が中国サミットで発表 - 制裁下の戦略転換か - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年7月18日、中国・上海で開催されたRISC-V Summit China 2025でNvidiaのハードウェアエンジニアリング副社長Frans Sijstermans氏がCUDAソフトウェアスタックのRISC-Vアーキテクチャ対応を発表した。

RISC-V Internationalが同日のX投稿でこの発表を報告した。CUDAはx86とArm64に加え、IBM Power9プラットフォームでも長年稼働していたが、RISC-V対応は今回が初めてである。今回の対応により、RISC-V CPUがNvidia GPUのメインアプリケーションプロセッサとして機能可能となる。

2025年3月、AlibabaのR&D部門XuanTieはサーバー・PC・自動車向けRISC-V CPUコア「C930」を発表した。C930は3.4GHz以上での動作が可能で、SPECint2006ベンチマークで15.2点/GHzの性能を記録し、前世代C920の2倍の性能を実現している。XiangshanプロジェクトはArmのNeoverse N2コアに迫る高性能RISC-Vプロセッサを開発中である。

Nvidiaは2015年からRISC-Vを採用し、2024年に10億個以上のRISC-Vコアを出荷し、各GPUに10から40個のRISC-Vコアを搭載している。米中貿易摩擦により制限されたH100の代替として提供されるH20 AIアクセラレーターの出荷許可も米政府に申請中である。

From: 文献リンクNvidia extends CUDA support to RISC-V just in time for next wave of Chinese CPUs

【編集部解説】

今回のNvidiaによるCUDA RISC-V対応発表は、単なる技術的な拡張を超えた、半導体業界の構造変化を示すターニングポイントとして注目されます。この決定背景には複数の要因が重なっており、技術面と地政学的側面の両方から理解する必要があります。

CUDAとRISC-Vの融合が意味するもの

CUDAは、NvidiaがGPUコンピューティングで築いた圧倒的な地位の基盤となるソフトウェアプラットフォームです。これまでx86とArm64アーキテクチャでのみ利用可能でしたが、RISC-V対応により、ライセンス料不要のオープンソースCPUアーキテクチャでもNvidiaのGPU能力を最大限活用できるようになります。

RISC-V(RISC-Five)は、カリフォルニア大学バークレー校で2010年に開発された第5世代のRISCアーキテクチャです。IntelのArmやIntelのx86と異なり、誰でも自由に使用・改変できるオープンソース設計が最大の特徴となっています。

10年越しのコミットメントの結実

実は、NvidiaとRISC-Vの関係は今回が初めてではありません。同社は2015年に独自のFalconマイクロコントローラーの後継としてRISC-Vを選択し、10年間にわたってこのアーキテクチャへの投資を続けてきました。2024年だけで10億個以上のRISC-Vコアを出荷し、現在販売されている各GPUには10から40個のRISC-Vコアが組み込まれています。

これらのコアは主に電力管理、セキュリティ、ビデオコーデック、チップ間通信などの制御機能を担当しており、GPUの基本動作に不可欠な役割を果たしています。

中国市場戦略としての側面

今回の発表が中国で行われたことは偶然ではありません。米中間の技術制裁により、NvidiaはH100やGB200といった最高性能のAI向けGPUを中国に輸出できない状況が続いています。代替として性能を制限したH20を提供していますが、中国市場での長期的な競争力維持には新たなアプローチが必要でした。

中国政府は「脱西側技術依存」を国家戦略として掲げ、RISC-V採用を積極的に推進しています。AlibabaのXuanTie C930のような高性能RISC-Vプロセッサの開発が活発化する中、NvidiaのCUDA対応は中国市場での存在感維持に重要な意味を持ちます。

技術的な実装課題と可能性

CUDA RISC-V対応の実現には、単純な移植作業を超えた複雑な技術的課題があります。CUDAソフトウェアスタックは、コンパイラやドライバー、20年間で開発された900以上の専門ライブラリから構成される巨大なエコシステムです。

特に重要なのが統合仮想メモリ(Unified Virtual Memory)のサポートです。この機能により、CPUとGPU間でのシームレスなデータ共有が可能となり、CUDA本来のユーザビリティとパフォーマンスが実現されます。RISC-V側でもRVA23仕様の完全サポートが必要で、ハードウェアとソフトウェア両面での対応が求められています。

競合他社への波及効果

AMDも既にROCmプラットフォームでRISC-VやLoongArchへの対応を進めており、GPU業界全体でオープンアーキテクチャ対応が標準化される流れが見えています。これは、従来のx86とArmによる二強体制に新たな選択肢をもたらす可能性があります。

Intel、Qualcomm、GoogleといったRISC-V Internationalの主要メンバー企業も、この動きを注視しており、エコシステム全体の発展が期待されます。

エッジコンピューティングでの優位性

RISC-Vの真価は、コストとカスタマイズ性が重要視されるエッジコンピューティング分野で発揮される可能性が高いでしょう。IoTデバイス、自動車、産業機器など、専用設計が求められる分野では、ライセンス料不要のRISC-V+CUDAの組み合わせが競争優位をもたらします。

NvidiaのJetsonシリーズのようなエッジAI向けSoC(System on Chip)でRISC-V採用が進めば、開発者コミュニティの拡大と応用分野の多様化が期待できます。

長期的な業界変化への影響

この動きは単なる技術的選択肢の拡大にとどまらず、半導体業界の構造的変化を促進する可能性があります。オープンソースアーキテクチャの普及により、従来の大手チップメーカー依存から脱却し、より多様で競争的な市場環境が生まれるかもしれません。

特に新興国や中小企業にとって、高額なライセンス料負担なしに先端技術にアクセスできる意義は大きく、グローバルな技術格差縮小にも寄与する可能性があります。

今後3〜5年でRISC-Vが本格的なデータセンター用途でも採用が始まると予測されており、NvidiaのCUDA対応はこの変化を加速させる重要な要因となるでしょう。

【用語解説】

CUDA
Nvidia社が開発したGPU向け汎用コンピューティングプラットフォーム。CPUとGPUの並列処理を可能にし、AI・機械学習分野で広く使用されている。

命令セットアーキテクチャ(ISA)
プロセッサが理解できる命令の集合を定義する設計仕様。x86、Arm、RISC-Vなどが代表的である。

オープンソースアーキテクチャ
誰でも自由に使用・改変できる公開されたプロセッサ設計仕様。RISC-Vが代表例で、ライセンス料が不要である。

エッジコンピューティング
データ処理をクラウドではなく、データ生成場所の近くで行う分散コンピューティング手法。

SPECint2006
プロセッサの整数演算性能を測定する標準的なベンチマークスイート。2006年に策定され、業界で広く使用されている。

統合仮想メモリ(UVM)
CPUとGPU間でメモリ空間を共有し、シームレスなデータアクセスを実現する技術。CUDA最適化の重要な要素である。

RVA23仕様
RISC-V Internationalが策定した最新のRISC-V標準仕様。セキュリティ機能とベクトル処理機能が強化されている。

【参考リンク】

RISC-V International(外部)
RISC-V標準の策定・管理を行う非営利団体の公式サイト

Nvidia Developer – CUDA(外部)
NvidiaのCUDA開発者向け公式サイト。技術資料やツールを提供

Alibaba DAMO Academy XuanTie(外部)
AlibabaのRISC-Vプロセッサシリーズ「XuanTie」の公式サイト

【参考動画】

【参考記事】

NVIDIAのCUDAがRISC-Vアーキテクチャ対応へ – PC Watch(外部)
2025年7月22日の日本語報道。Frans Sijstermans氏の基調講演内容を詳細に報じている

NVIDIA が RISC-V アーキテクチャ向け CUDA サポートを発表 – biggo.jp(外部)
NvidiaのRISC-V戦略の10年史と技術的実装課題について詳細に解説

NVIDIAのCUDAプラットフォームがRISC-Vをサポート – hyper.ai(外部)
地政学的背景とCUDA移植の技術的チャレンジに焦点を当てた分析記事

NVIDIA、CUDAをRISC-Vに移植 – nishikiout.net(外部)
CUDAのアーキテクチャ対応拡大の歴史的背景とAMDのROCm戦略との比較分析

【編集部後記】

今回のNvidiaによるCUDA RISC-V対応は、私たちが目撃している技術業界の大きな転換点の一つかもしれません。オープンソースアーキテクチャが本格的にAI市場に参入することで、従来の技術的選択肢がどう変わっていくのでしょうか。

特に興味深いのは、この動きが各国の技術自立戦略にもたらす影響です。ライセンス料不要のRISC-Vが普及することで、新興国や中小企業にも先端技術へのアクセス機会が広がる可能性があります。一方で、技術の断片化リスクも指摘されています。

皆さんの業界や関心分野では、このようなオープンアーキテクチャの普及がどのような変化をもたらすと予想されますか。エッジコンピューティングからデータセンターまで、幅広い応用可能性を秘めたRISC-V+CUDAの組み合わせについて、ぜひ皆さんの見解をお聞かせください。

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TaTsu
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