オランダ半導体Nexperia、米中対立の渦中へ – 政府介入で中国部門が本社指示を拒否

[更新]2025年10月22日08:09

オランダ半導体Nexperia、米中対立の渦中へ - 政府介入で中国部門が本社指示を拒否 - innovaTopia - (イノベトピア)

オランダの半導体メーカーNexperiaは2025年10月20日、前CEO Zhang Xuezheng氏による中国部門の独立運営の主張を否定した。

同社はWingtech Technologiesの完全子会社である。オランダ経済省は物資可用性法に基づき、機密半導体技術の中国への移転計画疑惑を受けて同社の管理権を掌握した。米国産業安全保障局は2025年9月29日、米国エンティティリストに掲載された事業体の少なくとも50%を所有する企業への輸出管理制限を拡大する規則を発行した。中国当局からは一部製品の輸出禁止通知を受け、Nexperiaの中国子会社による特定コンポーネントの出荷を禁止した。

Nexperiaは自動車用電子制御ユニット向けコンポーネントを製造しており、ドイツのハンブルク工場で生産し中国で最終組み立てを行っている。BMW、フォード、ホンダ、ルノーなどが加盟する欧州自動車工業会は、自動車用半導体不足の可能性を警告した。

From: 文献リンクNexperia drama intensifies as Dutch chipmaker denies ousted CEO’s claims of Chinese split

【編集部解説】

今回のNexperia騒動は、半導体サプライチェーンをめぐる米中対立が新たな段階に入ったことを示す象徴的な事例です。オランダという第三国の企業が、米中間の技術覇権競争の最前線に立たされる構図が鮮明になりました。

注目すべきは、Nexperiaが製造するのは最先端の半導体ではなく、成熟ノードと呼ばれる旧世代の技術を用いたチップである点です。これらは自動車の電子制御ユニットなど、日常生活を支える製品に不可欠な部品として機能しています。先端技術だけでなく、こうした基盤的な半導体までもが地政学リスクの対象となったことで、産業界全体への影響範囲が大きく広がりました。

オランダ政府が発動した「物資可用性法」は、国家安全保障上の理由から企業の経営判断に直接介入できる強力な法的枠組みです。この措置により、民間企業の自律性と国家の安全保障という二つの価値観の緊張関係が顕在化しています。

欧州自動車メーカーが懸念を表明したのは、COVID-19パンデミック時の半導体不足の記憶が新しいからでしょう。当時、世界中の自動車工場が生産停止を余儀なくされました。Nexperiaのハンブルク工場で製造され、中国で最終組み立てされるという分業体制が分断されれば、同様の混乱が再現される可能性があります。

この事態は、単なる一企業の問題を超えて、グローバルサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにしました。技術的な優位性だけでなく、製造拠点の地理的配置が戦略的リスク要因となる時代において、企業は新たな事業継続計画の策定を迫られています。

【用語解説】

物資可用性法(Goods Availability Act)
オランダ政府が国家安全保障上の理由から、重要物資やサービスの供給を確保するために制定した法律である。この法律により、政府は企業の経営判断を阻止または覆す権限を持ち、重要インフラや技術の保護を目的としている。

エンティティリスト(Entity List)
米国商務省が管理する、米国の国家安全保障や外交政策上の利益に反する活動に関与していると判断された外国企業や組織のリストである。このリストに掲載されると、米国製品や技術の輸出が厳しく制限される。

成熟ノード(Mature Node)
半導体製造において、28ナノメートル以上、概ね40ナノメートル世代以前のプロセス技術を用いた製造技術を指す。最先端の7ナノメートルや3ナノメートルと比較すると性能は劣るが、自動車や家電など幅広い産業で使用されている。

【参考リンク】

Nexperia公式サイト(外部)
オランダに本社を置く半導体メーカーで、ダイオード、トランジスタ、MOSFETなどのディスクリート半導体やロジックIC、パワー半導体を製造している企業

ASML公式サイト(外部)
オランダの半導体製造装置メーカーで、EUVリソグラフィー装置を世界で唯一製造している企業。半導体製造における最重要サプライヤー

欧州自動車工業会(ACEA)公式サイト(外部)
欧州の主要自動車メーカーで構成される業界団体。BMW、フォード、ルノーなど欧州の主要自動車メーカー16社が加盟し、欧州の自動車産業の政策提言を行う

米国産業安全保障局(BIS)公式サイト(外部)
米国商務省の一部門で、輸出管理規制の策定と執行を担当。国家安全保障と外交政策の観点から機密技術や製品の輸出を管理する

【参考記事】

Netherlands takes control of chipmaker Nexperia under special measures(外部)
オランダ政府が物資可用性法に基づいてNexperiaの管理権を掌握した経緯と、機密半導体技術の中国への移転疑惑について詳述したThe Register記事

Carmakers fear chip crunch as Dutch sanctions hit Nexperia(外部)
欧州自動車工業会がNexperiaへの制裁措置により自動車用半導体の供給不足が発生する懸念を表明したことを伝えるThe Register記事

Update on company developments – Nexperia(外部)
2025年9月29日に発効した米国の輸出規制がWingtechの子会社である同社に適用されることを説明したNexperia公式サイトの声明

【編集部後記】

半導体サプライチェーンの分断は、もはや遠い国の出来事ではありません。私たちが日々使うスマートフォンや自動車に組み込まれたチップが、ある日突然手に入らなくなる可能性を、この騒動は示しています。

技術的優位性を競う時代から、製造拠点の地理的配置そのものが戦略資源となる時代へ。皆さんの身の回りの製品が、どこで作られ、どのような国際的なネットワークに支えられているか、改めて考えてみる機会かもしれません。グローバル化と地政学リスクの狭間で、私たちはどのような未来を選択していくのでしょうか。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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