Last Updated on 2025-08-13 13:19 by さつき
新シリーズ予告:『耕さない人が耕す挑戦』
空からの視点を持つ一人の女性ドローンパイロットが、今、テクノロジーと人の輪で、農業の「未来図」を描こうとしている。兵庫県を拠点に活動するSky Studioの「とらこ」さんだ。彼女が掲げる『Torakoの田んぼ☆プロジェクト!〜耕さない人が、耕す挑戦〜』は、従来の農業の常識を覆す可能性を秘めている。まずは、彼女がその瞳で見つめる景色を、少しだけ覗いてみよう。
innovaTopiaでは、この挑戦を『ドローンパイロットが農業に挑戦してみた-耕さない人が耕す挑戦-』としてシリーズで追っていく。今回はそのプレビューとして、プロジェクトの全貌、そして今月末に迫った「ひょうご地域創生フェス2025 カケルDAY」への想いを、編集者・記者のTaTsuが聞いた。
「持たざる者」だからこそできる、農業のDX
TaTsu: とらこさん、本日はよろしくお願いします。innovaTopiaではドローンやスマート農業の最新動向を追っていますが、「耕さない人が耕す」という挑戦、非常に興味深く感じています。まずは、とらこさんが普段どのような活動をされているのか教えていただけますか?
とらこ: よろしくお願いします。普段はSky Studioとして、一等無人航空機操縦士の資格を活かし、地域の魅力を発信する空撮などを行っています。また、「ドローンの寺子屋」という教室を開いて、ドローンの楽しさや可能性を伝える活動もしています。
TaTsu: まさに「空のプロフェッショナル」ですね。そのとらこさんが、なぜ今回、畑違いとも思える「農業」に挑戦しようと思われたのでしょうか?
とらこ: きっかけは、いつも見ている空からの景色でした。ドローンで撮影をしていると、美しい田園風景の中に、耕作されずに荒れてしまった「休耕田」が驚くほど多いことに気づかされるんです。
同時に、農家の方々が高齢化と戦いながら、大変な思いで農業を続けている姿も目の当たりにしてきました。「この現状を何とかできないか」「高齢化による働き手不足を技術で補い、増え続ける休耕田での作業を自動化・軽減できないか」という想いが日に日に強くなっていた2024年11月、幸運にも「この土地、使っていいよ」と言ってくださる方が現れ、私の挑戦は始まりました。

TaTsu: 運命的な出会いがきっかけだったのですね。知識ゼロからのスタートで、土地の規模はどのくらいだったのですか?
とらこ: たつの市新宮町にある合計8反(約8,000㎡)の土地です。半分は通常の田んぼ、もう半分は10年間手付かずだった耕作放棄地でした。もちろん農業の知識も経験も、農機もありません。だからこそ、私のプロジェクトは「耕さない人が、耕す挑戦」。つまり、持たないことを前提にスタートしています。
TaTsu: 「持たないこと」を前提に、ですか。非常に興味深いです。では、具体的にどのようにプロジェクトを進めているのでしょうか?
とらこ: はい。私の挑戦を支える武器は、大きく分けて3つあります。
一つ目は、今お話しした「①委託型のスマート農業」です。農機が必要な作業は地域のプロにお任せすることで、初期投資と専門技術の壁をクリアします。
二つ目は、私の専門である「②ドローン技術」。大変な種まきや肥料・農薬の散布は、全てドローンが担います。これにより、大幅な省力化が可能です。
そして三つ目が、「③AIによる生育管理」です。「ザルビオ」というシステムが、15年分の蓄積データから、水管理や除草剤散布の最適なタイミングを教えてくれるんです。
この3つの武器を組み合わせることで、初期投資と経験不足という大きな壁を乗り越え、誰もが挑戦しやすい持続可能なモデルを構築できると信じています。
8月30日、挑戦の輪を広げるために
TaTsu: 非常に合理的で、未来を感じる仕組みです。その挑戦の全貌が、いよいよ多くの人の前で語られるわけですね。8月30日に神戸で開催される「ひょうご地域創生フェス2025 カケルDAY」では、どのようなことを期待されていますか?
とらこ: はい、この「カケルDAY」は私にとって、プロジェクトを次のステージに進めるための大きな一歩です。この挑戦は、私一人では決して成し遂げられません。私のビジョンに共感し、力を貸してくださる「仲間」を見つけることが最大の目的です。
TaTsu: 具体的には、どのような仲間と繋がりたいと考えていますか?
とらこ: はい、本当に様々な形での関わりを歓迎しています。例えば、
- 新しく農業を始めたいと思っている方
- 休耕田の活用を考えている農家さんや地域の方々
- 耕起やドローン散布、刈取りなどを担ってくださる専門コントラクターの方
- プロジェクトを資金や技術で支えてくださる共創パートナー企業様
- 映像制作やシステム開発などで、この仕組みを一緒に広めてくれる方
など、関わり方は無限にあると思っています。「こんな関わり方はどう?」と、新しいアイデアをぶつけてくれる方も大歓迎です。
TaTsu: まさに、イベントのテーマである「懸ける(コラボレーション)」ですね。最後に、この記事を読んでいる方々へメッセージをお願いします。
とらこ: 私の挑戦は、まだ始まったばかりです。このinnovaTopiaでの連載を通じて、知識ゼロの女性ドローンパイロットが、たくさんの壁にぶつかりながらも、仲間と共に休耕田を蘇らせ、地域課題の解決に挑んでいくリアルな物語をお届けできればと思っています。その序章として、まずは8月30日の「カケルDAY」に足を運んでいただき、私の想いを直接聞いていただけると嬉しいです。農業だけでなく、様々なアイデアを持った人たちが集まる刺激的な一日になるはずです。会場で、未来を創る皆さんとお会いできることを楽しみにしています!
イベント情報

- イベント名: ひょうご地域創生フェス2025『カケルDAY』
- 日時: 2025年8月30日(土) 9:30〜17:00
- 場所: KIITO デザイン・クリエイティブセンター神戸
- 料金: 入場無料、予約不要
- 詳細: とらこさんは、パネルディスカッション「『農』の新たな可能性」に登壇するほか、ブースでの展示も予定。
Profile
とらこ | Sky Studio 代表
一等無人航空機操縦士。兵庫県を拠点に、ドローンを用いた空撮やPR動画制作、ドローン教室「ドローンの寺子屋」の運営など、ドローンの可能性を広げる活動を多岐にわたり展開。2025年より、スマート農業で休耕田の再生を目指す「Torakoの田んぼ☆プロジェクト」を始動。
- Instagram (田んぼ活動アカウント): @drone_labo_sky_art
- Instagram (空撮アカウント): @torako_drone
【田んぼプロジェクトの紹介】
日本の農業が直面する、高い壁
多くの人が「農業は魅力的だ」と感じられない背景には、深刻な課題があります。とらこさんは、これらの課題に正面から向き合います。
儲からない
高いコストと不安定な収入。経済的な魅力の欠如が、後継者不足の一因になっています。
きつい・汚れる
「3K」のイメージが根強く、特に若い世代から敬遠されがちです。孤独な作業も負担です。
新規就農の壁
高額な初期費用、土地の確保、専門知識の習得など、未経験者が参入するにはハードルが高すぎます。
耕作放棄地の増加
高齢化で担い手が減り、美しい田園風景が失われつつあります。これは食料安全保障の問題にも繋がります。
Torakoの答え:
新しい農業のカタチ
農家さんの撮影を通じて課題を痛感したとらこさんは、自身のスキルと新しいアイデアを組み合わせた「Torakoの田んぼ☆プロジェクト」を始動しました。
知識・経験・農機ゼロからの挑戦
このプロジェクトの核心は、「持たざる者」が強みになる逆転の発想です。高価な農機は持たず、大変な作業はアウトソース。ドローンパイロットとしての専門性を最大限に活かし、テクノロジーを駆使することで、誰もが参入しやすい持続可能な農業モデルを構築します。
挑戦の舞台:合計8反(約8,000㎡)。通年稲作地4反と、10年間手付かずだった休耕田4反で、2025年4月9日にその第一歩を踏み出しました。
プロジェクトを支える3つの武器
この挑戦は、3つの強力な「武器」によって実現可能です。それぞれの仕組みを見ていきましょう。
委託型スマート農業:繋がることで生まれる力
生産者(とらこさん)はプロジェクト全体の司令塔。農機が必要な作業は、地域のプロに委託します。これにより初期投資をゼロにし、誰もが身軽に農業を始められるエコシステムを構築します。
ドローン技術:空からの農業革命
最も労力がかかる作業はドローンが担います。これにより、大幅な省力化と効率化を実現。専門性を活かした「空からの農業」です。
AI管理システム「ザルビオ」
「いつ、何をすべきか」という経験に基づく判断は、AIがサポート。15年分の蓄積データが、最適な作業タイミングを教えてくれます。
2025年 挑戦の記録
休耕田の再生は一筋縄ではいきません。そのリアルな歩みを、ボタンで切り替えてご覧ください。
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🚜
4月9日:耕起 委託
10年分の固い土を、専門コントラクターが耕す。
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5月14-25日:石拾い地獄 協力
耕した土から現れた巨大な石。InstagramでのSOSに「クロストーク」の仲間たちが駆けつけ、一緒にひたすら手で拾い続けた日々。
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5月22日:畔塗り 協力
気付かなかった重要工程。地元の農会長が助っ人として登場!
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5月25日:水がたまらない! 協力
モグラの穴で水が抜け続け困っていた時、以前空撮した農家さんが話を聞きつけ、助けてくれた。
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日々の水の管理 自力
水漏れの苦労から、つい水をためがちに。毎朝、最適な水位を保つための繊細な管理が求められる。
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🚜
5月31日 & 6月4日:代掻き 委託
田んぼの土を細かく砕き、水平にする重要な工程。荒代掻きと本代掻きの2回実施。
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6月6日:ドローンで直播 委託
幾多の困難を乗り越え、ついに鉄黒コート籾をドローンで播種。
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🚁
7月3日:ドローンで除草剤散布 委託
土壌の状態が良いため、元肥は入れずに除草剤のみを散布。
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💧
7月13日:中干し 自力
稲の根を強くするため、一度水を抜く。地道な管理が続く。
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🚁
7月29日:ドローンで追肥 委託
生育状況に合わせ、ドローンが的確に栄養を届ける。
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5月14日:耕起 委託
通年稲作地は、休耕田より約1ヶ月遅いスタート。
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🚜
5月31日 & 6月4日:代掻き 委託
田んぼの土を細かく砕き、水平にする重要な工程。荒代掻きと本代掻きの2回実施。
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🚁
6月6日:ドローンで直播 委託
休耕田と同日に播種。ここから生育の比較が始まる。
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🐌
6月〜:ジャンボタニシとの戦い 自力
苗を食べ尽くす恐ろしい外来種。見つけては駆除する、地道な戦いが続く。
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🚁
7月3日:除草剤と元肥散布 委託
こちらは元肥も同時に散布し、効率的に作業を進める。
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💧
7月13日:中干し 自力
休耕田と同じく、強い稲を育てるための重要な工程。
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🚁
7月29日:ドローンで追肥 委託
こちらもドローンで的確に栄養補給。
未来のビジョンと、仲間募集
播磨から兵庫全土へ。この新しい農業の輪を広げ、休耕田を蘇らせ、美しい景観を取り戻したい。そのために、あなたの力が必要です。
こんな方と繋がりたいです!
「こんな関わり方をしたい」という声も大歓迎です。まずは気軽にご連絡ください。
とらこさんのInstagramを見る【用語解説】
一等無人航空機操縦士
2022年に新設されたドローンの国家資格。レベル4(有人地帯での目視外飛行)を含む、より高度で専門的なドローンの操縦が可能であることを証明します。
休耕田(耕作放棄地)
高齢化や担い手不足により、長年耕作されずに放置されている田んぼ。雑草が生い茂り、景観の悪化や害虫の発生源となるなど、地域課題の一つとされています。
スマート農業
ドローンやAI、IoTなどの先端技術を活用して、農作業の省力化・効率化、品質向上を目指す新しい農業の形です。
コントラクター(農業)
トラクターでの耕起やコンバインでの収穫など、特定の農作業を専門の機械と技術で請け負う事業者のこと。
ザルビオ(Xarvio® FIELD MANAGER)
ドイツのBASF社が開発した、AIを活用したデジタル農業プラットフォーム。衛星画像などから作物の生育状況を分析し、最適な肥料や農薬の散布時期・量を提案します。
8反(たん)
土地の面積を表す日本の単位。1反は約991.7平方メートル(約300坪)で、8反は約8,000平方メートルになります。
ひょうご地域創生フェス カケルDAY
兵庫県が主催する、地域の課題解決に取り組む人々やアイデアを繋げる(懸ける)ための交流・マッチングイベント。
【編集部後記】
今回、とらこさんのお話を伺い、その行動力と、何より「人との繋がり」を大切にする姿勢に深く感銘を受けました。彼女の挑戦は、単なるスマート農業の実践記録ではありません。
とらこさんが、ドローンという翼を武器に、兵庫県たつの市という大地に新しい種をまき、仲間という水を得て、未来を育てていく壮大な物語です。innovaTopiaでは、今後この物語を継続的に追いかけていきます。
AI「ザルビオ」がどのようなもので、現場でどのように活用されているのか(いくのか)、そして待望の初収穫はどのような感動をもたらすのか。(食べさせてくれるかな?)
そうそう、とらこさんは田んぼの活動と並行して、ドローン空撮や指導も行っています。そちらもぜひ、彼女のInstagramから問い合わせてみてくださいね。
では、今後の連載にご期待ください。(TaTsu)