AIロボット「Adam」シェアリングサービス開始:輝翠とマルシメが拓く、三河発スマート農業の未来

[更新]2025年9月2日15:05

AIロボット「Adam」シェアリングサービス開始:輝翠とマルシメが拓く、三河発スマート農業の未来 - innovaTopia - (イノベトピア)

輝翠株式会社(本社:宮城県仙台市、代表取締役:ブルーム・タミル)は、自社開発のオフロード型自律走行AIロボット「Adam」を、マルシメ株式会社(本社:愛知県豊橋市、代表取締役:大熊康丈)との連携により、シェアリングサービスとして提供する。

このサービスは三河地域を中心とする農業生産者を対象とする。本件は、豊橋市が推進する「TOYOHASHI AGRI MEETUP」プロジェクトの一環で、市内の柿農園にて行われた実証実験の成果に基づくものである。

マルシメ社が「Adam」のシェアリングサービス運営とアフターサポートを担う。

From: 文献リンク自律走行AIロボット「Adam」、マルシメ株式会社との連携によりシェアリングサービスを開始

【innovaTopia編集部 解説】

今回のニュースは、単に新しい農業用ロボットが登場したという話にとどまりません。日本の農業が抱える構造的な課題に対し、テクノロジーがどのように具体的な解決策を提示できるかを示す、象徴的な一歩と言えるでしょう。

特に注目すべきは、「シェアリングサービス」という形で市場に投入される点です。高価な最新鋭の農業機械は、導入コストが障壁となり、個々の農家、特に小規模な経営体ではなかなか手が出ませんでした。しかし、必要な時だけ借りられるシェアリングモデルであれば、初期投資を抑えつつ、最新技術の恩恵を受けることが可能になります。これは、スマート農業の普及を加速させる上で、非常に合理的なアプローチです。

このサービスを展開するのが、石油販売から事業を多角化し、マイクロモビリティのシェアリングを手がけてきたマルシメ株式会社という点も興味深いですね。異業種からの参入は、既存の枠組みにとらわれない新しいビジネスモデルを生み出す原動力となります。エネルギーインフラを支えてきた企業が、今度は「食」のインフラをテクノロジーで支えようとしている。これは、産業構造の変化を象徴する動きとも捉えられます。

このロボット「Adam」は、AIによる自律走行機能を持ち、農家の後を自動で追従したり、あらかじめ設定した地点間を移動したりできます。これにより、収穫物の運搬や農機具の移動といった、これまで人手に頼っていた作業を自動化できます。特に、果樹園のような不整地や傾斜地での作業は、作業者にとって大きな負担でした。「Adam」は最大300kgの荷物を積載可能で、8時間の充電で8〜10時間稼働できるため、こうした物理的な負担を大幅に軽減するポテンシャルを秘めています。

もちろん、ポジティブな側面だけではありません。潜在的なリスクとしては、まず通信環境への依存が挙げられます。山間部の農地など、安定した通信が確保できない場所では、ロボットの性能を最大限に引き出せない可能性があります。また、AIやロボットの操作に不慣れな高齢の農業従事者の方々へのデジタルデバイド対策も不可欠です。丁寧なサポート体制がなければ、宝の持ち腐れになりかねません。

長期的に見れば、こうしたロボットが収集する膨大な農作業データは、単なる省力化に留まらない価値を生み出すでしょう。例えば、天候や土壌の状態、作物の生育状況といったデータをAIが解析し、最適な栽培計画を提案するような、より高度な「データ駆動型農業」への道が開かれます。

今回の取り組みは、愛知県の三河地域という、全国有数の農業地帯から始まります。ここで成功モデルを確立できれば、その波は全国へと広がり、日本の農業が抱える後継者不足や高齢化といった深刻な課題を解決する、大きなうねりを生み出すかもしれません。テクノロジーが、日本の「食」の未来を、より持続可能で豊かなものに変えていく。私たちは、その重要な転換点に立ち会っていると言えるでしょう。

【用語解説】

MaaS(Mobility as a Service)
複数の交通サービスをITを用いて統合し、利用者が単一のサービスとしてアクセス・利用できるようにする概念である。

スマート農業
ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化や精密化、高品質生産を実現する新しい農業の形を指す。

TOYOHASHI AGRI MEETUP
愛知県豊橋市が主催するプロジェクト。「未来の農をつくる」をコンセプトに、アグリテック(農業技術)を持つスタートアップ企業と、地域の農業者や関連企業とを結びつけ、実証実験などを通じて農業課題の解決を目指す取り組みである。

プロボノ
ラテン語の “pro bono publico”(公共善のために)の略。法律家や経営コンサルタントといった専門家が、自身の専門知識やスキルを活かして無償または低価格で行う社会貢献活動のことである。

【参考リンク】

輝翠株式会社(外部)
東北大発のアグリテック・スタートアップ企業。AI農業ロボット「Adam」開発を通じて農業課題解決を目指している。

マルシメ株式会社(外部)
愛知県豊橋市の企業。石油製品販売からMaaSインフラ提供へ事業拡大し、農業ロボットシェアリングに参入。

自律走行AIロボット「Adam」(外部)
輝翠社開発のオフロード型農業用AIロボット。作業者の後を追従し収穫物運搬作業を自動化する。

【参考記事】

A robot that follows humans helps orchard farmers save labor(外部)
「Adam」の具体的スペック(積載量300kg、稼働時間8-10時間)と果樹園農家の省力化効果を詳しく解説。

In Japan, a moon rover-inspired robot could be a game-changer for aging farmers(外部)
日本農業の高齢化問題解決策として月面探査車由来ロボット「Adam」を紹介。開発者インタビューも掲載。

AI and Robotics Usher in a New Age for Agriculture(外部)
日本政府広報によるAI・ロボット技術が農業にもたらす新時代の解説。「Adam」を先進事例として紹介

【編集部後記】

農業の現場が、テクノロジーの力で大きく変わろうとしています。今回の「Adam」のニュースは、単なる機械の導入ではなく、私たちの「食」を支える農業の未来を、皆で考えるきっかけを与えてくれているように感じます。

もし、あなたが畑仕事を手伝うとしたら、どんなロボットが隣にいてくれたら心強いでしょうか?運搬だけでなく、雑草を抜いてくれたり、収穫のタイミングを教えてくれたり。そんな未来を想像してみるのも面白いかもしれません。皆さんのアイデアが、次のイノベーションに繋がるかもしれませんね。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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