NASAがボイジャー探査機の観測機器の一部電源を切断する決定を下した。この措置は、2030年代まで探査を継続するために必要な電力を確保するためのものだ。
具体的には、以下の対応が行われた
- 2025年2月25日:ボイジャー1号の宇宙線サブシステム(CRS)の電源を切断
- 2025年3月24日:ボイジャー2号の低エネルギー荷電粒子計測装置(LECP)の電源を切断予定
この措置により、両探査機とも稼働する科学観測機器は3台ずつとなる。
ボイジャー1号と2号は1977年に打ち上げられ、現在も人類が作った最も遠くにある探査機として活動を続けている。2025年3月時点で、ボイジャー1号は地球から約240億km、ボイジャー2号は約210億km離れた場所を飛行している。
両探査機は放射性同位体熱電気転換器(RTG)を電源として使用しているが、年間約4ワットの電力を失っている。NASAジェット推進研究所(JPL)のボイジャープロジェクトマネージャー、スザンヌ・ドッド氏は、この措置により少なくとも2030年代まで探査を継続できる可能性があると述べている。
ボイジャー1号は2012年に、ボイジャー2号は2018年に太陽圏を離脱し、現在は星間空間を探査している。地球との通信には、ボイジャー1号で23時間以上、ボイジャー2号で19.5時間以上の遅延が生じている。
from:NASA Powers Down Voyager Instruments to Keep the Legendary Spacecraft Alive
NASA Turns Off 2 Voyager Science Instruments to Extend Mission
【編集部解説】
ボイジャー探査機の電源管理に関するこの決定は、宇宙探査の歴史において重要な転換点を示しています。47年以上も稼働し続けているこの探査機は、科学技術の驚異的な進歩と長期ミッションの課題を浮き彫りにしています。
電力管理の問題は、宇宙探査における重要な課題の一つです。ボイジャー探査機が使用している放射性同位体熱電気発電機(RTG)は、年間約4ワットの電力を失っています。この状況下で、NASAのエンジニアたちは限られたリソースを最大限に活用するための創意工夫を凝らしています。
観測機器の一部電源を切るという決定は、一見後退のように思えるかもしれません。しかし、これは探査機の寿命を延ばし、より長期的な科学的価値を生み出すための戦略的な判断なのです。
ボイジャー探査機が収集するデータは、太陽系と星間空間の境界に関する貴重な情報をもたらしています。この領域は他の探査機では到達できない場所であり、ボイジャーが提供するデータは唯一無二のものです。
この決定は、技術の限界に挑戦し続けることの重要性も示しています。47年前の技術で作られた探査機が、現在も新しい発見を続けているという事実は、私たちに技術の可能性と耐久性について再考を促します。
さらに、この状況は将来の宇宙探査ミッションの設計に影響を与える可能性があります。より効率的な電力システムや、遠距離通信技術の開発が加速するかもしれません。
ボイジャー探査機の旅は、人類の好奇心と探求心の象徴でもあります。星間空間という未知の領域に挑み続けるこれらの探査機は、科学の進歩だけでなく、人類の夢と希望を体現しているのです。
このニュースは、科学技術の進歩と限界、そして人類の探求心が交差する興味深い事例といえるでしょう。ボイジャー探査機の旅は、まだまだ続きそうです。
【用語解説】
ヘリオスフィア:
太陽風が吹き抜ける領域で、太陽系の境界とも言えます。太陽の影響が及ぶ範囲を示す巨大な泡のようなものをイメージしてください。
星間空間:
恒星と恒星の間の空間のことです。都市と都市の間にある広大な田舎のようなものと考えられます。
【参考リンク】
NASA(アメリカ航空宇宙局)公式サイト(外部)
アメリカの宇宙開発を担う政府機関。ボイジャー計画を含む多数の宇宙探査ミッションを実施しています。
JPL(ジェット推進研究所)公式サイト(外部)
NASAの一部門で、ボイジャー探査機の運用を担当。無人探査機の開発・運用を専門としています。
ボイジャー計画公式サイト(外部)
ボイジャー1号と2号の最新情報や、ミッションの詳細を提供しています。