ポーツマス大学の宇宙論・重力研究所(ICG)のダニエル・ウェーレン上級講師らの研究チームが、水分子が宇宙誕生後わずか1億〜2億年で形成された可能性があることを発見した。この研究結果は2025年3月に学術誌「Nature Astronomy」で発表された。
従来の理論では、水分子の形成には数十億年かかると考えられていたが、今回の研究ではコンピューターシミュレーションを用いて、初期の超新星爆発の直後に水分子が形成されたことが示された。
研究チームは、太陽の13倍の質量を持つ恒星と200倍の質量を持つ恒星の2種類の超新星爆発をシミュレーションした。その結果、小規模な超新星爆発では爆発後3000万〜9000万年(30〜90百万年)で、大規模な超新星爆発では300万年でわずかながら測定可能な量の水が生成されることが分かった。
この発見により、生命の可能性を秘めた惑星が従来の想定よりも数十億年早く形成された可能性が示唆された。これは宇宙の歴史における生命の起源に関する科学者の考え方を大きく変える可能性がある。
from:Water Existed Billions of Years Earlier Than Scientists Thought!
【編集部解説】
今回のニュースは宇宙の歴史と生命の起源に関する私たちの理解を大きく変える可能性のある画期的な発見です。
ポーツマス大学の研究チームが発表した内容は、水分子が宇宙誕生後わずか1億〜2億年で形成された可能性があるというものです。これは従来の理論よりも数十億年も早い時期です。
この発見の重要性を理解するには、宇宙の歴史における水の役割を考える必要があります。水は生命の基本的な構成要素であり、地球上のほぼすべての生命形態に不可欠です。そのため、宇宙における水の存在時期は、生命が存在できる可能性のある時期と密接に関連しています。
研究チームは、初期の超新星爆発の直後に水分子が形成されたことをコンピューターシミュレーションで示しました。これは、宇宙の最初の星々が爆発した後、その残骸から水が生成されたことを意味します。
この発見が正しければ、生命の可能性を秘めた惑星が従来の想定よりもはるかに早く形成された可能性があります。つまり、宇宙における生命の歴史が私たちの想像以上に長い可能性があるのです。
しかし、この研究結果には慎重な解釈も必要です。水分子が形成されたからといって、すぐに生命が誕生したわけではありません。初期の宇宙環境は非常に過酷で、生命が存続するには多くの障害がありました。
また、この研究はコンピューターシミュレーションに基づいているため、実際の観測データでの検証が今後必要となります。現在の技術では、宇宙誕生直後の水分子を直接観測することは困難ですが、将来的には新しい観測技術の開発により、この理論を裏付けることができるかもしれません。
この発見は、宇宙生物学や惑星科学の分野に大きな影響を与える可能性があります。例えば、系外惑星の探索において、これまで考えられていたよりも古い星系にも注目が集まるかもしれません。
さらに、この研究結果は、生命の起源に関する私たちの理解を根本から変える可能性があります。宇宙のどこかに、地球よりもはるかに古い生命体が存在する可能性も考えられるようになりました。
一方で、この発見には潜在的なリスクも存在します。例えば、生命の起源がこれほど古いとすると、地球外知的生命体の存在可能性も高まります。これは、人類の宇宙進出や地球外文明との接触に関する倫理的、哲学的な問題を提起する可能性があります。
長期的な視点では、この研究は宇宙における人類の位置づけを再考させる契機となるかもしれません。私たちは宇宙の歴史の中で、思っていたよりも「新参者」なのかもしれないのです。
今後の研究の進展に注目し、宇宙と生命の神秘に迫る科学の歩みを見守っていきましょう。
【用語解説】
超新星爆発: 大質量星の一生の最後を飾る大規模な爆発現象。この爆発により、星の内部で合成された重元素が宇宙空間に放出されます。
対不安定型超新星: 非常に大質量(約130-250太陽質量)の星で起こる爆発。星の中心部が高温になり、光子が電子・陽電子対に変換されることで起こります。
分子雲コア: 星や惑星が形成される前の高密度のガスと塵の集まり。ここで原始的な水が濃縮されていた可能性があります。
【参考リンク】
国立天文台 (NAOJ)(外部)
日本の天文学研究の中心機関。最新の宇宙研究や観測情報を提供しています。
アルマ望遠鏡(外部)
チリのアタカマ砂漠にある大型電波望遠鏡。宇宙の観測に使用されています。